第12話 取り戻すための再出発
新しく受け取った内ポーチを服の内側に結びつけると、アキトは深く息を吸った。
(今度こそ……絶対に守る)
昨日の悔しさはまだ胸に残っている。
それでも、ただ落ち込むだけでは何も変わらない。
生きるためには、戦って稼がなきゃいけない。
アキトはギルドを出て、再び草原へ向かった。
──昼前の草原。
風が優しく草を揺らし、昨日と同じ景色が一面に広がっていた。
でも、アキトの心は昨日とは違っている。
「よし……やるか」
しばらく歩くと、青い影がぷるんと跳ねた。
スライムがこちらを認識した瞬間、にじり寄ってくる。
アキトは構え、呼吸を整えた。
「……火……熱……丸く……灯れ……!」
《火:ファイアボルト》
ぼっ。
小さな火の粒がスライムに直撃し、じゅっと焦げる。
スライムが沈む。跳ぶ合図。
アキトは横にステップし、棒で軽く叩きながら距離を確保。
すぐに手のひらを前に出す。
「灯れ……!」
《火:ファイアボルト》
二発目でスライムはぐにゃりと崩れた。
粘体が減り、中心から青白い玉が転がり出る。
「……魔核」
アキトは地面に落ちた魔核を拾い上げた。
昨日はここで全部盗まれた。
だからこそ、今回は絶対に守る。
彼はそのまま、胸元の内ポーチを開けた。
──そして、魔核を入れる。
軽く布越しに手で叩いて確認する。
「……よし、入ってる」
昨日まで知らなかった“当たり前”の作法を、
少しずつ身につけていく。
続く二匹目、三匹目も同じように倒していく。
魔術はまだ小さい火の粒だが、前より安定している。
呼吸とイメージのコツを掴んできた。
四匹目は動きが速かったが、落ち着いて回避しながら魔術で仕留めた。
五匹目も問題なく倒し、魔核を拾うたびに内ポーチへ大事にしまう。
粘体の消える音。
火の焦げる匂い。
魔核の冷たい手触り。
それらが、少しずつ自分の中に刻まれていく。
六匹目を倒すころには――
「……ふぅ……」
息は上がっているが、昨日のような不安はなかった。
魔核は全部、ちゃんと胸の内側で揺れている。
魔核が“奪われない”それだけで、
こんなにも安心できるのかと思った。
(……これが、成長ってやつなのかな)
アキトは空を見上げた。
雲ひとつない、青い空だった。
「よし……ギルドに戻ろう」
内ポーチを軽く押さえ、街へ歩き出す。
昨日失ったものを、
自分の手で取り戻すために。
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