第11話 セリアの教え
セリアは袋から紙切れを丁寧に戻し、静かにアキトの前へ置いた。
その表情は責めるようなものではなく、ただ深い心配が浮かんでいた。
「アキトさん……つらい思いをしましたね」
「……俺の、油断です。信じすぎました」
「信じること自体は悪くありません。ただ――生きるためには“守り方”も学ばなくてはなりません」
セリアはカウンター越しに少し身を乗り出し、
声を落としてアキトに語りかける。
「まず、一つ目。
**大事な物は必ず身につけること。**
袋に入れるのではなく、服の内側や、腰紐の内ポケットへ」
アキトは無言で頷いた。
昨日の魔核が入っていた袋を見つめる。
セリアは続ける。
「二つ目。
**“親切すぎる人”には気をつけて。**
優しい人は本当にいます。でも、この世界には“新人狩り”と呼ばれる人たちもいるんです」
「……新人狩り……」
「ええ。お金のない冒険者から、魔核や素材を盗むのが目的です。
実力のある旅人がやることもあれば、冒険者同士で起きることもあります」
アキトの胸が締めつけられた。
“優しさ”は偽物だった。
けれど、助けてくれた笑顔や言葉が嘘だったと思いたくなかった。
「……でも、あの人……優しくて……」
「優しさと悪意は、同時に存在することもあるのです。
特に“助けが必要な人”に近づく優しさは、時に武器になります」
セリアの声は、とても静かだった。
怒りでも説教でもない。
痛みを知っている人の声だった。
「三つ目。
**危険な場所で眠らないこと。**
野宿なら、焚き火の位置、風向き、周囲の地形、夜の魔物――
注意すべきものがたくさんあります。」
アキトは唇を噛んだ。
「……俺、何にもわかってなかった……」
「大丈夫。今日、分かったじゃないですか」
セリアは優しく微笑んだ。
「この失敗は、あなたにとって“生きるための知識”になります。
誰だって最初は間違えます。
大事なのは、そのあとどうするか」
アキトはゆっくり深呼吸した。
「……次から、ちゃんと気をつけます」
「はい。あなたならできます」
セリアは胸元から小さな紐付きの袋を取り出し、そっとアキトに差し出した。
「これを使ってください。
冒険者用の“内ポーチ”です。大切な物を入れて、服の内側に固定できます」
「いいんですか……?」
「ええ。新人さんが困っていたら助けるのが、私の役目ですから」
アキトは受け取った袋を見つめ、胸が熱くなった。
盗まれた痛みとは別に、
ちゃんと向き合ってくれる人がいることが、
ただ、それだけで救われるような気がした。
「……ありがとうございます。
次は絶対、魔核を守って帰ってきます」
「お待ちしていますね、アキトさん」
その言葉に励まされ、
アキトはもう一度拳を握りしめた。
昨日よりも、少しだけ強い自分になれた気がした。
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