第9話 優しさの裏で


街の外れを抜け、バルドに連れられて丘の下へ降りると、風がほとんど吹かない小さな窪地に出た。地面には古い焚き火の跡があり、旅人が時々利用している場所らしい。


「ここなら安全だ。スライムしか来ねぇし、風も防げる」


「本当に助かります……」


アキトが頭を下げると、バルドは「気にすんな」と笑った。


彼は荷物からパンと干し肉、そして小さな鍋を取り出した。

鍋には水を入れ、火打ち石で手際よく火を起こす。


「腹減ってるだろ。食っとけ」


「え……いいんですか?」


「腹すかせたままじゃ眠れねぇだろ。明日ギルドで換金するんだろ? 倒した魔核でよ」


アキトは思わず笑ってしまう。


「あ、はい。実は……けっこう倒したんです。六匹」


「へぇ……新人にしちゃ頑張ったじゃねぇか」


バルドは鍋のスープをよそってくれた。

野菜は少ないが、塩気と少しの肉の旨味だけで泣けるほど美味い。


「……あったけぇ……」


「スライムなんざ数狩れば十分な稼ぎになる。明日になりゃ金も手に入るさ」


食事の後、アキトは地面に敷いた布の上に横になった。

疲労が一気に押し寄せ、まぶたが重くなる。


「……バルドさん、本当にありがとうございました」


「気にすんな。新人が困ってるの見たら、ほっとけねぇだけだ」


その声を最後に、アキトは眠りに落ちた。


──夜。


風は止まり、焚き火の火が赤く揺れていた。


バルドは火の前に座り、アキトの寝顔をちらりと見た。


「……悪く思うなよ、坊主。世の中、優しいだけじゃ死ぬんだ」


彼は静かにアキトの鞄を開け、中に詰められた魔核の袋を取り出した。

ビー玉のような青白い光が、月明かりの中でぼんやり輝く。


バルドは袋を手に取り、重さを確かめる。


「六匹分……か。悪くねぇ」


そして――

自分の荷物の奥深くに、その袋をそっと滑り込ませた。


火の揺らぎだけが、静かに草を照らしている。


アキトは何も知らずに眠っていた。

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