第7話 腹ごしらえと小さな積み重ね


ギルドを出たアキトは、そのまま市場へ向かった。小袋の中には、苦労して手に入れた4G。それだけで何が買えるのか半信半疑だったが、屋台の前に立つと店主が声を掛けてきた。


「お、兄ちゃん。パン食うか? 焼きたてだぞ」


香ばしい匂いが鼻をくすぐる。アキトの胃袋がぐぅと鳴った。


「ひ、ひとつください……!」


4Gを渡すと、店主は温かいパンを渡してくれた。外はカリッ、中はふわっとしていて、噛むほどにバターの香りが広がる。


「あ……うま……!」


たった4Gのパンでも、久しぶりの“まともな食事”に思えた。

腹が満たされると、不思議と体まで軽くなる気がする。


「もう少し……稼ぐか」


アキトはパンを食べきると、再び草原へ向かった。


──草原に着くと、青い影がいくつも揺れていた。


スライムだ。

距離を置いて観察すると、動きのパターンが前よりよく見える。


「まずは……落ち着いて、だな」


手のひらを前に出し、ゆっくり呼吸する。


「火……熱……丸く……灯れ……」


《火:ファイアボルト》


ぼっ。


さっきより滑らかに火が生まれ、スライムへ飛んだ。

ジュッと焦げ、スライムが震える。


「よし、一匹!」


近づいてきた別のスライムも、沈んだ瞬間に棒で横殴りして怯ませる。

その隙に魔術をもう一発。


火花ではなく、小さな“火の粒”が飛ぶようになってきた。


「……いける!」


二匹目、三匹目と倒していく。

魔術が安定してきたことで、戦闘に余裕が生まれた。


四匹目は動きが速かったが、沈む気配を読んで回避。

五匹目は棒と魔術の合わせ技で簡単に仕留める。


スライムが溶けていくたび、青白い魔核がコロコロと転がった。

アキトはそれを一つずつ拾い、袋に入れていく。


「……六匹……!」


汗が額を流れ、息は上がっている。

だが、強くなっている実感が確かにあった。


戦闘中のMP減少は見えるが、

焦りさえしなければコントロールできるようになってきた。


「よし……戻ろう」


日は傾き、草原の影が長く伸びる。

袋の中には、魔核がかすかに光っていた。


小さな戦いの積み重ね。

それでも確かに前へ進んでいる。


アキトは魔核を抱え、街へと足を向けた。

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