第6話 再挑戦と報酬


草原に戻ると、夕方の風が冷たくなっていた。陽が落ちきる前に終わらせないと危険だ。それでもアキトは迷わず歩き出す。


「今度こそ……魔核、ちゃんと回収する」


しばらく進むと、ぷるんと青い影が揺れた。スライム。アキトは右手を突き出し、ゆっくりと呼吸を整える。


「……火……熱……丸く……灯れ……俺の手から……飛んでくれ……」


イメージを重ねる。

焦らず、丁寧に。


《火:ファイアボルト》


ぼっ。


小さな火の粒が生まれ、スライムへ飛ぶ。ジュッと焦げる音がして、スライムが震えた。


「よし……当たってる!」


スライムが沈む。跳びかかる合図。アキトは一歩横に避け、落ち着いて魔術をもう一度構える。


「……灯れ……!」


《火:ファイアボルト》


今度は一度目より少しだけ大きく火が飛び、スライムの中心を焦がした。スライムはぐにゃりと崩れ、そのまま動かなくなる。


「……ふぅ……!」


息を吐いた瞬間、スライムの体が溶けるように消え、コロリと何かが転がった。


ビー玉ほどの青白い玉。


「これが……魔核か」


拾い上げると冷たく、少しぬるっとしている。

確かに“魔物の証拠”という雰囲気があった。


「よし。これでやっと依頼達成だ」


アキトは魔核をしっかり握りしめ、街へ向けて歩き出した。


──ギルドに戻ると、セリアがすぐに気づいて笑顔を向けた。


「おかえりなさい。……魔核、持ってきましたか?」


「はい。ほら、これ」


差し出すと、セリアは「よかった」と小さく頷いた。


「これで依頼達成となります。スライム討伐、よく頑張りましたね」


そう言って、カウンターの奥から小袋を取り出す。


「報酬は……《4G》になります」


手渡された小袋は驚くほど軽い。

中には金属の小さな硬貨が数枚だけ。


「これが……ゴルド……」


「ええ。この国の通貨単位です。物価の目安ですが、パンが一個4Gほど。宿の安い部屋が一泊50G前後ですね」


「パン一個ぶん……」


初めての報酬がパン一個ぶん。


なんだか笑えてきて、アキトは肩を落としながらも少しだけ嬉しくなった。


「でも……最初の一歩だよな」


セリアが優しく微笑む。


「ええ。ここからですよ、アキトさん。どんな冒険者も、最初は一つの依頼から始まるんです」


胸の奥がじんわりと温かくなる。

たった4G。

パン一つ。

それでも確かに、自分の手で得た最初の報酬だった。


アキトは小さく頷いた。


「よし……次も頑張ろう」


夕暮れのギルドで、彼の冒険は静かに続き始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る