第4話 初めてのスライム討伐
ギルドを出て草原へ向かうと、午後の風が草を揺らしていた。遠くに見える青い粘体――スライム。依頼書に書かれていた通りの魔物だ。
アキトは右手を少し震わせながら前に出した。
「……火……熱……丸く……光って……」
イメージする。
掌に灯る小さな火。
でも、講習みたいにうまくいく気がしない。
《火:ファイアボルト》
パチッ!
火花は出たが、完全にスライムとは別方向に飛んだ。
「うわっ!? 当たらないって!」
スライムが沈み込み、跳びかかってくる。
アキトは慌てて横へ飛び、転んでHPが少し削れる。
「あーもうっ……!」
追撃してくるスライム。
アキトは魔術を構えようとしたが、焦りで詠唱が崩れる。
「火、ひ……光って……うわっ!」
《火:ファイアボルト》
パチパチッ(不発)
「やばっ……もう棒でいくしか……!」
スライムの動きが沈む。跳ぶ直前の癖だ。
アキトは木の棒を横に払った。
ぺちゃっ!
スライムがぐしゃりと潰れ、そのまま動かなくなる。
EXP:27 → 30(NEXT:25)
「……っは……倒したけど……これ魔術いらなくね……?」
肩で息をしながら、アキトは空を仰いだ。
講習で教わったことは全部頭にあるのに、焦ると何もできない。
自分はやっぱり凡人なんだと、痛いほど思い知らされる。
でも、まだ1匹目だ。
次こそは、ちゃんと魔術で倒したい。
アキトは深呼吸して、草原の奥へ歩いた。
すぐに2匹目のスライムが現れた。ぷるんと揺れながら、こちらへじわじわ近づいてくる。
「……よし、今度こそ……」
アキトは立ち止まり、しっかりと構えた。
さっきの失敗を思い返す。
焦るとイメージが崩れる。
呼吸を整えるんだ。
風が吹いた。
草が揺れる音だけが聞こえる。
「……灯れ……火の粒……小さくていい……俺の手から……飛んでくれ……」
イメージする。
火の色、熱、丸さ、重さ。
講習で講師がやっていたように。
――イメージを、形にする。
《火:ファイアボルト》
ぼっ。
手のひらに“炎の種”のような小さな火が生まれ、スライムへ飛ぶ。
火の欠片がスライムに触れると、小さくジュッと煙が上がった。
スライムがビクっと震える。
「……効いてる!」
スライムが沈む。跳びかかる前兆。
アキトは一歩横に流れ、棒で防ぎつつ、すぐさま魔術に意識を戻す。
「……もう一発……!」
手のひらに再び熱が集まる感覚。
魔術が出る“前の感触”が、確かにさっきよりハッキリしている。
「灯れ……!」
《火:ファイアボルト》
先ほどよりも少し大きな火球が飛び、スライムの中心を焦がした。
粘体が揺れ、やがて崩れ落ちて動かなくなる。
EXP:30 → 33
アキトはしばらく動けなかった。
胸がなんだか熱くて、息が追いつかない。
でも――
「……できた……本当に、できた……!」
最初はただの火花。
それでも、二度目はちゃんと魔術として敵に届いた。
自分は弱い。
魔力も低い。
天才でもなんでもない。
でも、火花は少しずつ火の欠片になり、
そしていま、魔物を倒す火力になった。
成長している。
確かに前に進んでいる。
「……よし、ギルドに戻ろう」
アキトは依頼書を握りしめ、草原を後にした。
帰り道を探すための、小さな小さな第一歩だった。
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