第2話 街とギルドと魔術講習


街へ近づくほど、人の気配が濃くなっていく。見えていた石の壁は想像より高く、門の前には数人の警備兵が立っていた。アキトは緊張しながら列に並ぶ。HPは11のまま。汗と土でボロボロの状態だ。


自分の番になると、警備兵が言う。「目的は?」

「えっと……休める場所が、ほしくて……」

うまく説明できなかったが、警備兵は特に怪しむ様子もなく、軽く頷いた。


UIのおかげで言葉は理解できている。どうやら翻訳補助が働いているらしい。門をくぐると、街のざわめきが一気に広がった。市場の声、子どもたちの笑い声、匂いのある生活音。人がいる。それだけで少し安心した。


だが街を歩くうちに、もっと衝撃的なものを見ることになる。


道端で商人の子どもが、手のひらの上に小さな火の玉を灯していた。

「ファイ……ア……?」

何を言ったのかよく聞こえない。だが確かに、火の玉が一瞬だけ生まれた。


別の場所では、女性が水の塊を浮かせて床を掃除していた。

さらに、風で荷物を軽くする男までいる。

魔術だ。本物の。


「……やば……本当に魔法ある世界なんだ……」


この世界を理解しないまま生きていくのは危ない。

そう思ったアキトは、人通りの多い通りで目に入った看板を見つけた。


冒険者ギルド。

剣と盾のマーク。

RPGでお馴染みの場所だ。


扉を開けると、木造の酒場のような空気が広がった。ざわつき、笑い声、そして獣皮の匂い。受付には落ち着いた雰囲気の女性が座っている。


「すみません、冒険者になりたくて……」

「初めての方ですね。新人講習の受講が必須です。今から案内できますよ」


アキトは案内され、小さな訓練場のような部屋に通された。他にも数名の新人らしき若者が集まっている。中央にはローブ姿の女性講師が立っていた。


「では、基礎講習を始めます。まずは魔術について。」


アキトは喉が鳴る。

ついに、この世界の“システム”を知れる。


「魔術は三つで成り立ちます。魔力、イメージ、そして——詠唱と技名です」


講師は指を三本立てて続ける。


「詠唱は自分の魔力を形作るための言葉。人によって違います。そして技名は、魔術を世界に成立させるためのコード。これは共通です。詠唱だけでは魔術は出ません。技名だけでも出ません。必ずセットで言うこと」


周囲の新人たちは頷いているが、アキトは初耳すぎて混乱していた。


講師は実演を始めた。手のひらを前に出し、静かに目を閉じる。


「灯れ、小さな火。丸く揺らめき、私の手の中に集まって」


そして声を強める。


《火:ファイアボルト》


手のひらに小さな火球がふわりと浮かび上がる。新人たちから小さな歓声が上がった。


「では、新人の皆さんも挑戦してみてください」


周囲はさっそく練習を始める。

熱血タイプが「燃えろ俺の魂ィ!!」と叫んでいて、講師に注意されていた。

隣では小声で詠唱する少女が震えている。


アキトは、どうしていいか分からず深呼吸した。


イメージが大事。

火は熱い。光る。丸い。

……自分にも、できるのか?


手のひらを前に出し、ゆっくり言葉を紡ぐ。


「……火……熱……光って……小さく……頼むから……出てくれ……」


そして技名を言う。


《火:ファイアボルト》


パチッ。


手の先で、小さな火花が弾けた。

ほんの一瞬の、本当に弱い火。

でも、確かに出た。


講師が微笑む。「初めてにしては上出来ですよ。魔力が弱い方ほど、詠唱とイメージの精度が大切ですからね」


アキトは信じられない気持ちで手を見つめた。

魔術が出た。

自分にも、この世界の魔法が扱える。


ほんの火花ひとつ。

でも、それは確かな第一歩だった。

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