『死んだと思ったら、ゲーム世界だった件』

@__raru

第1話 異世界の草原

# 第1章 異世界の草原にて

視界がぼやけていた。次の瞬間、鼻の奥に草の香りが入り込んでくる。ここは……どこだ? さっきまで電車のホームで、仕事帰りの人混みに押されていた。その光景が途切れ、気づけば草原の上に倒れていた。ゆっくり体を起こすと、視界の端に薄い光が走る。


HP:18/18

MP:4/4

LV:1

EXP:0 / NEXT:20


「……うそだろ、これ……UI?」

ゲーム画面のようなウインドウが浮かんでいるわけじゃない。ただ視界の端に、赤と青のバー、そして数字が固定されている。異世界? 本当に? 混乱していると、近くの草がガサリと揺れた。心臓が跳ねた瞬間、MPが4から3に減った。


「怖いだけで減るのかよ……」

草が割れ、青い粘体のスライムがにじり出た。丸い形に見えるが、どろりとした質感が妙に生々しい。ぷるん、ぷるんと音を立てながら距離を詰めてくる。


「ちょ、やめ、来るなって!」

スライムが体を沈めた瞬間、それが“跳ぶ前の動き”だと直感した。アキトは必死に横へ飛ぶ。転んだ衝撃だけでHPが18から16に落ちた。


転んだだけで減るって、どんな紙装甲だよ……

スライムは勢い余って地面に激突し、一瞬だけ動きを止めた。アキトは震える手で木の枝を掴み、思いきり振り下ろした。


ぺちゃっ。

スライムは潰れた。


EXP:0 → 3 / NEXT:20

「……マジか……経験値、ホントに増えてる……」


怖さと疲れで足が震えるが、立ち止まっている暇はない。とにかく人がいそうな方向へ歩き出す。しばらく進むと、また別のスライムが姿を現した。二匹、三匹と続けて出てくる。攻撃自体は弱い。けれどぶつかっただけでHPが削れるし、棒の一撃も思ったより軽い。


それでも、スライムが跳ぶ前に必ず“沈む”ことだけは分かった。その癖を頼りに避け続け、少しずつ倒していく。転んではHPが減り、焦りながら棒を振り、なんとか数匹を仕留めた。


EXP:3 → 6 → 9 → 12 → 15 → 18 → 20

NEXTが0になった瞬間、視界の端がふわりと光った。


《LEVEL UP》

LV:1 → 2

HP:+1

MP:+1


「本当に……上がった……」

STRやAGIの数値は分からない。けれど体が少しだけ軽くなった気がした。地味すぎるほど地味な成長だ。でも確かに前へ進んでいる。


さらに進むと、白い影が草の向こうで跳ね回っているのが見えた。ウサギ……みたいだが、目つきが鋭く、動きが異様に速い。


「あれ、行かないと……道ふさがれてるよな……」

覚悟を決めて近づいた瞬間、白い影が弾丸のように飛び出した。


「うわっ!?」

横に飛んで避けるが、反撃は届かない。ウサギは小さくて、とにかく速い。噛みつかれるたびにHPが削れる。


17 → 14 → 12

「これ、普通に死ぬって……!」


必死に視線を追い続けていると、跳躍の直前に耳がピンと立つのが見えた。そして着地の瞬間、後ろ足が少し開く。動きの癖だ。読める……!


次にウサギが耳を立てた瞬間、アキトは進行方向を予測し、そこへ棒を差し出した。


ガツッ!

手ごたえのある音が響き、ウサギが倒れる。


EXP:18 → 27 / NEXT:25

《LEVEL UP》

LV:2 → 3

HP:+1

MP:+1


息が荒くなり、汗が滝のように流れる。けれど自分が確かに強くなったという実感が胸に広がった。


「……レベル3……ちゃんと進めてる……」


遠くには石造りの壁らしき影が見える。煙突から細い煙が立ちのぼり、人の生活の気配が漂っていた。生きて街までたどり着けるとは思わなかった。木の棒一本で、レベル3になるまで戦い抜いた。歩くたびに足が痛む。HPは11、MPは2。疲労も限界だ。


それでも、アキトの胸には少しだけ希望が灯っていた。

この世界で、生きていけるかもしれない。

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