0-2 Landing
「ご搭乗のみなさま、まもなく当機は着陸体制に入ります。座席の背もたれとテーブルを元の位置にお戻しになり、シートベルトをしっかりとお締めください」
「Ladies and gentlemen, we will soon be landing. Please return your seatbacks and tray tables to their upright positions and fasten your seat belts securely.」
機内の照明が落とされると、深夜特有の静けさがひときわ濃くなった。
まどろんだ息づかい、閉じられた本、
ぼんやりした表情のまま窓外を見つめる乗客
それぞれの夜が、同じ暗さの中に溶けていく。
ギャレー前で立ち止まると、コックピットの奥にちらつく 南島の光 が見えた。
昼間の眩しさとは無縁の、どこか眠たげで控えめな明かり。海辺で火を絶やさないよう、誰かが置いていったような光だった。
雲の切れ間から覗く海は墨を流したように黒く、波音すら視界に吸われて聞こえない。
その暗さの上に、街の灯がぽつぽつと浮かんでいる。
客席を確認して戻るあいだ、シートベルトのバックルが機内の薄明かりに鈍く光った。
深夜の着陸前の、あの言いようのない静寂が胸の奥に満ちてくる。
アプローチライトが海上から一本のレールを描き、機体がそこへ導かれるように姿勢を整える。
風切り音が少し湿って聞こえた。
もうすぐ、深夜の南島に降りる。
その事実だけが、今のわたしの中で淡く灯り続けていた。
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