第42話 全てのぶどうを愛する者たちへ
事件は解決したが、後処理はそう簡単には終わらなかった。
――公爵令嬢襲撃事件。
賊に襲われただけならともかく、公爵家内部にスパイが潜んでいたとなると、そう一筋縄ではいかないだろう。
これから先、公爵家はさらに混乱を極めるに違いない。
「アスクくん、どうぞ」
「ありがとう」
俺はサフィラからワイングラスを受け取ると、テラスからぶどう畑を覗く。
そこでは兵士たちが賊を捕える様子が確認できた。学園から派遣した兵士たちが。
その中にはルクソールもいて、俺の姿に気づくと元気よく手を振ってきた。
「……アスクくんにちょっかいを出すなんて許せない」
「サフィラ?」
軽く手を振り返したら、隣から怨念のような視線が飛んできた。怖いのでそっぷを向いて気づかないふりをする。
それにしてもすごい人数だ。
賊を倒した後、すぐに兵士たちがやってきた。
昨晩ルクソールに『賊に襲われる。怖い。助けて』との旨を記載したラブレターを送っていたのだが、それが功を奏したのだろう。
まさか五十人以上来るとは思わなかったが。
実際戦力として当てにしていたわけではない。
目的はどちらかといえば後始末だ。組織の連中を叩きのめしたあと、片っ端から拘束し、逃走者がいた時に捕らえてもらうための人員。
その程度のつもりだった。
原作はともかく、今のルクソールはそこまで強くないからな。マスカレードとせいぜい良い勝負できるくらいだろう。
頼むから早く覚醒してほしい。そうすれば俺の出番は無くなるから。
そんなことを思いつつもワイングラスを回して香りを摂取する。
「……素晴らしい」
相変わらずぶどうは最高だった。
大きめのグラスのおかげか、香りが一層豊かに感じられる。果実味と樽感が鼻腔をくすぐり、先ほどまでの戦闘の疲れを一瞬にして癒してくれた。
「ねえアスクくん」
そんな香りを楽しんで悦に浸っていると、サフィラが俺の腕を取ってきた。
そして耳元で囁くように言ってくる。
「――愛してる」
「お、おう」
「愛してるよ。死ぬまで、ううん、たとえ生まれ変わってもあなただけを愛してる」
そんな凄まじく重たい発言をすると、猫のように頬を擦り付けてくる。
それはさながらマーキングのようだった。
「サフィラ」
俺はワインを口に含むと問いを投げかける。
「――ぶどうは好きか?」
「アスクくんが好き」
「あ、そう」
どうして誰もこの質問に答えてくれないのだろうか。あまりにも無視されすぎて流石に悲しくなってきた。
まあでも目の前に広がるぶどう畑だけは俺の味方である。
俺はワイングラス片手に外の景色を眺める。
日が昇り始め、オレンジ色の陽光に照らされたぶどうたちがまるで宝石のように悠然と輝いていた。
「――やっぱり最高だ」
「愛してる」
隣で同じ景色を見つめながらサフィラは呟いた。
十五年前、この世界に転生してきてから、これほど美しい景色を見たことはなかった。
まさに最高の景色である。
だから、そうだな。
もしも、全てのぶどうを愛する者たちへ贈る言葉があるとすればそれは、
「アスクくん、愛してる」
――気軽に公爵令嬢を監禁してはいけないということである。
終わり。
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【あとがき】
ここまでお読みいただきありがとうございました。
これにて本編は完結となります。
これから先、アスクたちは様々な困難や監禁に巻き込まれていきますが、それはまた別の話。
正直続けようと思えばいくらでも続けられますが、ここで完結にした理由はこの作品が一体一ぶどうラブコメだからです。
アスクがサフィラを監禁した時点で、ある意味物語としては終わっているんですよね。
二人は出会って、監禁して、監禁されて、そして結ばれる。
これがこの物語の本筋だなと思ったので完結としました。
とはいえ、書きたいエピソードはたくさんありますので、今後後日談という形で更新する予定です。
公爵家を乗っ取る話、ラヴァンダの話等。
改めてまして、これまで読んでいただいた読者の方には感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。
もしよろしければ、是非★レビューなどで評価していただけますと幸いです。
また新作を投稿し始めましたので、こちらも是非よろしくお願いします。
エロゲ転生×ヤンデレ×男女比逆転モノです。
悪役貴族に転生した俺、破滅エンドを回避するために男だらけの学園を作ろうと思ったら、なぜか男女比が逆転したんですが?
リンク↓
https://kakuyomu.jp/works/822139842060415853
エロゲ世界でヒロインを監禁する悪役に転生した俺、なぜか逆にヒロインから監禁されてしまう。 とおさー@ファンタジア大賞《金賞》 @susanoo0517
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