第20話 許せない

【Sideサフィラ・ハーツ】


 ――まただ。また賊が屋敷に侵入して襲ってきた。

 

 けれど、そんなことはもうどうでもよかった。

 私の心を占めているのはたった一つ。


「これは一体どういうこと?」


 父からの呼び出しを受け、私は執務室へ向かった。

 しかしそこに父の姿はなかった。

 しばらく待ってみたが、一向に訪れる気配はない。


 そこで私は嫌な予感がした。もしかしたら何者かに謀られたかもしれない。

 まさかとは思いながらも、ふとアスクくんの顔が脳裏に浮かぶ。


「アスクくん!」


 もしかしたら彼が危ないかもしれない。

 そう気づいた瞬間には、既に走り出していた。


「アスクくん!」


 足元に魔力を込め、全力で屋敷の中を駆け抜けていく。途中で何人かの使用人とすれ違ったが構わない。

 私はただひたすら走って彼の元へと向かった。


「……え?」


 そして小屋の前に辿り着いた私は息を呑んだ。

 そこには想像を絶する光景が広がっていたのだ。


「どういうこと?」


 小屋の扉は破壊され、その下では三人の男が押し潰されたように倒れていた。


 息はある。でも誰一人として動かない。

 そして扉の中央には足跡のような小さな穴がいくつも空いていた。


「……ここで何が?」


 焦燥感と不安で胸が押しつぶされそうになりながらも、私は恐る恐る小屋の中へと足を踏み入れる。


 すると目に飛び込んできたのは赤く染まったシーツ。床には壊れた手錠が転がっていて、確実に何か良くないことが起こったのだと悟った。


「アスクくん?」


 声を上げても返事はない。

 なぜなら彼はここにいないのだから。どこを見渡しても、気配すら感じない。


「アスクくん!」


 堪えきれず叫んだ。

 だけど私の不安が消えることはなかった。


 むしろ彼のことが心配で心配でたまらなくて、胸が張り裂けそうになる。


「うぐっ……なんだよまじで」

「……死ぬかと思ったぜ」

「……吐きそう」


 小屋から出ると、ちょうど下敷きになっていた男たちが意識を取り戻したようだ。唸り声を上げつつも起きあがろうとしている。


「あなたたちがやったの……?」


 もしもこれを引き起こしたのが目の前の三人だとしたら。


「……許せない」


 許せるはずがなかった。

 死をもって償わせないといけない。

 でもその前に確認したいことがある。


「……彼はどこ?」


 私の問いに三人は動きを止めた。そして顔を上げ、視線だけをこちらに向けて、


「なんだよ彼って――って、公爵令嬢⁉︎」


 その瞬間、瞳が驚愕のものに変わった。


「チャンスじゃね?」

「だが俺たち動けねぇぞ」

「どのみち、任務は失敗したんだ。相打ち覚悟でやるしかねぇ」


 彼らは扉から抜け出すと、ボロボロの身体を引きずりながらも近づいてくる。剣を持ち、その瞳には殺意が宿っていた。


「……あなたたちね」


 その姿を見て私は確信した。

 アスクくんを襲ったのはこの三人なのだと。


「……許せない」


 許せるはずがない。

 燃えるような激情が溢れ、だんだんと理性が溶かされていく。頭が沸騰し、視界が真っ赤に染まる。


 それでも私は静かに拳を握りしめた。怒りに呑まれながらも、冷静に相手を倒すことだけに集中する。


「許さない!」


 私は全力で踏み込んだ。

 一歩で距離を詰め、次の瞬間にはもう目の前に奴らの顔があった。


 私はそれ目掛けて拳を振り上げる。

 一人、二人、三人、と。

 その頬を目掛けて、次々に顔面を殴っていった。


「うわぁぁぁぁ」

「なんなんだこいつ」

「くそがぁぁ」


 鈍い音が響き、次の瞬間には全員が地面に崩れ落ちていた。


 生きてはいる。でも立ち上がることは二度とできないだろう。公爵家に侵入して、私の命を狙ってきたんだ。処刑は免れない。


 しかしそんなことはどうでもよかった。


「アスクくん」


 どこに行ったの? どうしていないの?


「適当に処理しておいて」


「承知しました」


 三人を半殺しにした後、メイドのラヴァンダを呼んで後始末を命じた。


 しかしそれを見届けるほどの余裕は私にはなかった。足を止めることなどできるはずがない。


 ――彼を見つけなければ。


 理屈なんてない。ただ彼に会いたいという感情が私の足を突き動かしていた。


「アスクくん!」


 私は彼の名を呼びながらも夜道を駆け出した。

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