確かに随分と長い間“ご無沙汰”だった。

 それは私に機会が無かっただけで……“欲望”がまったくない訳でも無い。

 それらを鑑みてもカレとの相性はいいとは言えず、私は終始一貫“女優”で通した。

 まず、最初のキスがタバコ嫌いの私にはNGだった。

 それなのに、しつこい割にはあっけないカレは前とはガラリと態度が変わって寝タバコなぞ始める。

 それも似合わない洋モクにジッポライターをカシャリ! と鳴らしてカッコける。

 私だって人の事は言えない大馬鹿だが、こんな薄っぺらなヤツに抱かれたオンナ達の影が死屍累々と横たわっている様な気がして……背中がゾッとし、鳥肌をなだめようと毛布の中に潜り込んだらカレから手を入れられ、ますます凍った。


 そんなカレが、レンタカーの灰皿を満杯にして私を連れて行ったのは……実は私も行った事のある(そしてがっかりした)酒蔵だった。


 場合によってはこのままフェードアウトしようと企んでいた前回の会食の席で『マイナスポイントになるかも』と、私はわざわざ自分の日本酒好きを吹聴したのだ。


 私にとって有難迷惑なお土産や贈り物は、自分の趣味に合わない地酒で……この男、正にそれを地てやっている!!

『まあ、悪気はないのだから……』と考え、感激したフリをした後、あえて飲みたくも無いので「でも、あなたが楽しんでくれた方が私は嬉しいから」とレンタカーの鍵を受け取った。





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