第4話「永遠の姉と、変わらぬ恋路」
***
彼に抱えられ、村を脱出して神山への道を突き進む。
日が暮れて空に月が浮かぶと、彼はランプに灯りをともして焚火を起こした。
私は外套を羽織り、焚火に手をかざして暖を取った。
「私、本当に死神なのよ」
バチバチと弾ける音に彼が顔をあげる。
火の揺らめきが彼の顔を照らしたり影を作ったりと忙しなかった。
「私は死んではまた生まれてを繰り返す。桜のように儚く散る、それが私なの」
「輪廻転生ってやつか?」
その問いに私は首を横に振る。
「記憶も全部継いでるの。私は死という恐怖しかもたらせない。人に寿命があるのは私のせい」
何億光年と時が流れるなかで人の命はあまりに短く儚い。
私の存在が人の死を決めた。
私が人に恋をしたばかりに、人から永遠のような平穏の生を奪ってしまった。
「寿命をむかえてなお、どこにもいけずに悪霊と化す魂を狩るのが私の役目。決められた死を越えることのないように。寿命には無常に」
はたから見ればまだ生きている人を殺しているようなものだ。
薄桜の髪色に、八重桜のような濃い色は人外そのもの。
ゆえに私は”死神”となり、命尽きるときまで魂を狩り続ける業を背負っていた。
「それで……琴葉は自分が幸せにならなくていいと思ってるの?」
彼の疑問に私はうなずき、膝を抱えて顔を隠す。
「幸せになるべきはお姉ちゃんだった。だから私はお姉ちゃんに会いに行くの」
姉は永遠のような時を司る不変の存在だ。
人々の平穏な時間を変わらず保ち、何も変わらない永遠を守るもの。
「その人は私とお姉ちゃんのどちらかを選ぶことになって。……私を選んだ。どうしてだと思う?」
心に雪が降り積もっていく。
姉に会えばこの人恋しさも救われるかと思った。
何度も生まれて、ようやく私は過ちを正そうと覚悟を決めた。
「その人ってのは……琴葉を好いていたのか?」
嫌味な問いにはすぐに答えられない。
彼の疑問に私は物思いに沈んだ笑みを浮かべ、曖昧に首を傾げた。
「だとしたら琴葉に惚れていたからだ。琴葉が心からキレイだって思ったから選んだんだ」
わかりきった答えだった。
私は彼の胸を押し、皮肉めいた心境で笑った。
「姉は醜いとたくさんの者にバカにされていたわ。まるで私と比較するように、醜い姉と美人な妹と言われてきた」
たしかに姉はお世辞にも美人だとは言えない。
だが私は一度たりとも姉を醜いと思ったことがない。
私には慈しむ心を持ち、どんな辛辣な言葉を受けても怒ることのない穏やかな人だった。
本当にやさしいのは姉のような人だというのに、誰も姉に優しくしなかった。
「姉を裏切ったのは私。私はこの見た目で男を惑わしたの」
あの人も深く魅了してくるエメラルドグリーンの瞳をしていた。
そして盲目に私に好きだと言ってくる愚かな人だった。
私は目の前の彼の顔を掴むと、懐かしさに目元を指で撫でた。
「あなたの直感、あながち間違いではないわ。だから気持ちに答えられない」
「それは絶対に嫌だ」
くるりと世界が反転し、目の前には熱に浮かされた彼。
溺れるような愛情にのめり込みそうになるが、これは”仁頼の心”ではないと首を横に振る。
「見た目に騙されないで。正しいのはお姉ちゃんなの。私は儚く消えるのがいい」
「たしかに見た目もキレイだ! そりゃ見惚れるくらいに美人さんだ!」
やけくそになって彼は私の髪を救うと、情熱的に唇を押しあてる。
「だからって心が汚いわけじゃない! 琴葉はキレイだ! キレイなんだよ!」
「やめて。だって私、あなたにやさしく出来ない……」
「それが琴葉のやさしさだって知ってる。だから琴葉を選んだオレのせいにすればいい」
そうやっていつも自分を犠牲にする。
まるで悪役をかってでるかのように、私の心だけ奪って痛みを与えてくる。
姉が人の世から身をひそめることになったことで、人を儚いものにさせたというのに。
永遠の姉と、一瞬の私。
あるべきは姉の方だったのに、私が彼を惑わしたことで人の運命が狂った。
だから私は”死神”と呼ばれるに相応な身だった。
今だけは……儚く散る前の美しい桜でありたい。
すべてが終われば短き命、桜とともに花びらとなって散るのだから。
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