第2話「本気の本気でストーカーだった」

永遠を司る人。

変わることのない幸せを維持できる人。


布を巻いた武器は魂を狩るための鎌。


苦しみから幸せになろうとする命も、幸せに笑っている命も儚く散らせてしまう。


だったら誰もが幸福のまま、永続すればいい。


それが私の願いであり、残り短い命をかけて姉に会うことで成し遂げたいことだった。


「待って!」


一瞬、足を止めそうになったが、振り返れば負けだとさらに足を速める。


村を抜けてさっさと距離を取ろうとしたが、彼の足は相当に早かった。


「短いならその時間を一緒に過ごしてくれ! 幸せに長いも短いもないさ!」


私の前に飛び出ると両手を広げてはにかんでいる。


諦めの悪い一途さ。

恥ずかしさと動揺から毛穴という毛穴から汗が吹き出した。


「おかしいわ! 短い命とわかって求婚するとか無謀よ!」


「そんなこと言われたって仕方ねえだろ! 惚れちまったんだから!」


「意味がわからない! たかが一目惚れでしょ!?」


見目麗しいと寄ってくる者は多いが、死神の一面を見れば距離をとる。


私といれば殺されると怯え、最後は恐れおののいて逃げ出すものだ。


死の恐怖には誰も敵わない。


だから私は人々の恐れを取り払うために姉に会いに行く。


次の私が生まれる前に、残された命で儚い世界を終わらせる……。


「そうだ、見た目が好きだ」


「それで私があなたを好きになるとでも思った? やめてよ、そんな理由であなたの時間を無駄にしないで」


「無駄じゃねぇよ」


彼は私の手を取ると、遠慮なく指先に唇を落としてくる。


ギョッとして後ずさろうとしたが、彼の真っ直ぐな目に魅入られれば逃げることは敵わなかった。


「巻き込みたくないんだろう。オレのこと、考えてくれたってことだ」


「ち、ちが……」


「やさしいんだな。オレはやさしい子が好きだ。やっぱり直感は間違ってねぇ」


ただの屁理屈だ。


大して喋ってもいないのに中身を愛せるなんて無理なこと。


やさしいなんて思うのも、彼が私を好意的に見るが故の錯覚なのだから。


何を言っても彼は引かないし、私が長くないとは伝えたのだから満足するまで自由にすればいいと思った。


死神と呼ばれる理由もまだよくわかっていないだけ。


現実を見れば否応なしに彼は私から離れざるを得ない。


「なぁ、名前は? もっとあんたのこと、教えてくれよ」


「……琴葉」


忘れかけていた私の名前。


すぐに誰も呼ばなくなるよ。


***



「こーとは!」


もはやストーカーの域を超えた。


賑やかな街に入ればすぐに彼も私といて意味がないと気づくと思ったが、まったくそんなことはなかった。


いなくなったかと思えば陽気にまた追いかけてくる。


「そのままどこかに行ってよかったのに」


「つれねぇな。もう十日も一緒にいるんだからそろそろ受け入れてくれよ」


こちらから言わせれば十日もいるんだから諦めろよだ。


なんだかんだで私もほだされてしまっており、突き放すことをあきらめていた。


出会ってからまだ一度も魂を狩ることはなかった。


これだけの時間を過ごしてしまうと、死神の一面を見られるのが怖くなる。


そのたびに胸が焦げていくことを知らない彼の無邪気な笑顔が憎らしかった。


「これ、琴葉に似合うと思って」


そう言って彼は私の髪に触れると桜の花飾りを耳の上につけた。


もうすぐ桜が咲く時期だと、私は髪飾りに触れて喉のひりつきに指を滑らせる。


「わからない」


彼が首を傾げ、私はカッとなって彼の手を払う。


「どうして私をキレイだと思ったの? どう見たって普通じゃない。髪色だって歪よ」


黒や茶色の髪が多い中で、私の髪は薄桜のような白色をしていた。


まるで老人のようで、その割に見た目が若いのであやかしだと人は距離をとる。


実際、私は”人ではない”ので、あやかしと畏怖されるのは当然だと思っていた。


「歪なんて思わねぇよ。琴葉はまるで天女さんだ」


「天女?」


「突き放すのが琴葉のやさしさだって。だけどそんな風に悲しいこと、言わせたくねぇんだ。オレは琴葉のそばにいたい。それでいいんだ」


「そっ……れでストーカー? ハッキリ言っておかしいわ。気味の悪いことしてるって自覚ある?」

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