第14話 休戦と宣戦布告

アリアの聖剣が、初風が放つ光に負けないほどの眩い閃光を放つ。

そのまま刃が初風の頭頂に到達する……はずだった。


初風が手にしていた刀で、斬られるギリギリの位置で剣を受け止める。

あんなに華奢な身体からは想像もできない力だ。


甲高い金属の悲鳴が響き渡り、アリアは瞬時に反動で退く。


地面に着地したアリアを見ると、彼女は驚愕に満ちた表情を浮かべていた。


「え……?なんでよ…」


まあ、あんだけの力で押し通されたんだ。

絶対驚くに決まってらぁ…………いや、違う。


アリアの手元を見ると、聖剣の刃が根元から綺麗に無くなっていた。

剣はそう簡単に折れる物じゃないと思うけど……


その時、聖剣の鍔に埋め込まれた赤い宝石が鈍く輝き出す。

そのまま輝きはどんどん増幅していき、まるで生きているかのように光っていた。


「まぶしっ……」


目を眩ますような輝きに、反射的に俺は腕で目を覆った。

やがて光が収まってきたのを確認した俺は、恐る恐る目を開ける。


なんと、無くなっていたはずの刃が丸ごと復活していたのだ。

鍔に埋め込まれた赤い宝石は、心臓の鼓動のように定期的に爛々と輝いている。


すげぇな……自動回復機能がついた剣なんて聴いたこともないぞ?


……俺も助太刀してみるか?いや、でも敵だしなぁ。

でも、ここで動かなかったら初風が暴走するだけで………


「……ええい!仕方がない。アリア、俺の刀はあるか!?」


俺の突然の叫び声に、アリアはビクッとしたがすぐに表情を取り繕う。


「なっ…なに?あなたの武器なら、あそこ……」

アリアが示した先には、俺が持っていた刀が無造作に転がっていた。


あのなぁ…もうちょっと丁寧に扱えよ。


少々ゲンナリしつつも、アリアが初風の気を引いてくれていることを信じて、隙をついて刀を取りにいく。


そして、手にすっかり馴染んだ刀を持ち上げる。

アリアの元へ戻ると、宙にいる初風とバチバチに睨み合っていた。


いや……犬猿の仲すぎるだろ。


「…よし、アリア。今は一時休戦しようじゃないか……あいつを止めるぞ」


そうして初風の方へ視線を向ける。俺の視線に気付いたのか、初風もこちらを向く。


言葉でも止まらないなら────仕方があるまい、武力行使だ。

俺は平和主義者(?)だから、あんまりやりたくは無いけどさ。


ていうか、言葉で警告したっけ?まあいいか……


アリアの了解の合図を受け取り、俺は刀の柄に右手をかけた。

抜刀の体勢をとり、鞘走らぬよう左でしっかり押さえながら、ゆっくりと抜き放つ。


鞘と刀身の擦れる音が周囲に穏やかに響く。

刃が段々と見えると同時に、アーク放電の如く鮮やかな紫電が迸った。


俺は刀を鞘から完全に抜き放つと、切先を初風の方に向ける。

野球でバッターが、ホームラン宣言をする時みたいなポーズだな。


大きく息を吸って、準備は万端。それでは、宣戦布告を行うとしよう。


「今や不幸にして、貴殿と釁端を開くに至る。誠に已むを得ざる物なり。事既に此に至る。我は今や決然立ち上がり、一切の障害を破砕する他道無きなり」


1つ間を置き、俺は最後の決定打を放つ。


「……我此処に、貴殿───初風に対し、戦を宣す!」


初風は、一瞬俯いて影を落とす。その雰囲気はどこか哀愁漂うものだった。

しかしそれも束の間。刹那、初風の姿が瞬時にして視界から消える。


(ちっ……空間移動テレポートか!?)


刀を構え直し、周りに体を向けるが全く見えない。これじゃ焦燥感が募るばかりさ。

その瞬間、背後から空気を切り裂いて、何かが高速で迫っているのを感じ取った。


俺は反射的に飛び退き、数メートル離れたところに着地。


「テメェ……今のは見過ごせんなぁ。次はそのほっそい首を叩き折るぞ?」


俺の脅しに初風は動じず、またもや驚異的な速度で突進してくる。

瞬間的だったため俺が反応できずにいると、アリアが飛び出して剣で受け止めた。


激しく火花が散って、鍔迫り合いになる。

初風の表情は見えないが、おそらく何も思っていないだろ。


アリアの表情は苦しそうにしており、若干押され気味だ。

しかし、此処で負けたくはないのだろう。なんとか初風を押し返すことに成功する。


俺も刀を構え直し、アリアも側に並ぶ。……さあ、共闘戦の開始だ。


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ヤンデレの元アンドロイドに監視されてるけど、異世界に逃げたら追ってきた件 荒鷲 @yuuzuki

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