第9話 校舎裏にて

 只今の時刻は12:00。

 悲報アリ。

 検診が長引いているため、HRは無しとの連絡が入る。



 今日の消費HPを考えると、まだ2HP足りない。

 このままではヤバいのだ!

 健康診断を終えた俺は、ダッシュで自分の教室に向かった。


 昨日、高野さんは午後から陸上部の練習があると言っていた。

 だから俺たちの教室、もしくはその周辺の教室で昼食をとっている可能性に賭けたのだ。

 何としても、高野さんとお別れの挨拶をしなければ!


 俺たちの教室に到着するや否や、慌てて扉を開ける。


「クソッ!」

 高野さんの姿はない。

 ならば、周辺の教室を探索しようと、廊下を彷徨っていると——


 あっ! 昨日ブツブツの呪いをかけた女子がこちらに向かって歩いてくるではないか!


 もうこの際だ。

 高野さんは諦めて、なんとかこのブツブツ女子から最低でも2HPを稼がせてもらおう。


 俺は思い切って声をかけた。

「ねえ、君、昨日の帰り道で俺に声をかけてきた人だよね?」

 さあ、HPをいただくぞ!

 と、身構えていたんだけど……


 ブツブツ女子は無言で俺の腕を掴むと、そのまま歩き始めた。


「え?」

 俺が驚きの声をあげると、彼女は掴んでいた俺の腕を離し、一人で歩き出した。

 これって、付いていってもいいんだよな?


 俺は彼女の背中に追い付き、

「えっと、どこに行くのかな?」

 と問うが、彼女は何も答えてくれない。


 俺は歩きながらHPを確認する。

 しかし全く増えていない。

 やはり俺だけが一方的に話しかけても、HPは増加しないようだ。


 そんなことを考えつつ、彼女について行く。


 俺は躊躇ためらいながら、口を開いた。

「えっと…… もう校舎を出ちゃったんだけど」

 それでも彼女は答えない。

 俺の顔を見ようともしない。


 ようやく彼女が歩くのをやめた。

 けれどそこは、人気ひとけのない校舎裏だった……


 あれ? これってヤバい状況なのか?

 ひょっとして、俺ここで、ヤキを入れられたりするのか?


 ここでようやくブツブツ女子が振り、俺の顔をじっくりと見た。


「アンタ、アッチ系の人間なんでしょ? 大丈夫、誰にも言わないから。偶然見たのがアタシでよかったわね。アタシは闇の国の人間だから。でも、人前で闇系の力を使うのは感心しないわ」

 ナニイッテンダ、コノ人?


 俺がポカーンとした顔をしてるのに気づいたのか、彼女は、


「ああ、ごめんなさい——」

 と、つぶやいた。

 なんだ、やっとマトモなことを言ってくれるのか。


「——アンタの力は闇系じゃなくて、聖神魔法系統なのかも知れないわね」

 …………いや、どっちでもないんですけど。


「まあとにかく、もしまた隠世かくりよの力を使いたくなったら…… その時はアタシを呼びなさい」


「あの…… それってどういうことなのか…………」

 えっと…… この人、いったい何を言ってるのだろう?


 彼女は、『まったく、仕方ないわね』といった表情で、制服をまくり上げ自分の左腕を見せた。

 魔法陣みたいなものが書いてある。

 でも、ちょっとマジックがにじんでいた。


 なるほど。

 俺は理解した。

 どうやら彼女は、高校に入ってちょっぴり周りが気になり出した中二病患者のようだ。



 くるりと俺に背を向けた彼女は、背中越しに手を振りながら立ち去ろうとする。


「あれ?」

 おい、ちょっと待ってくれよ。

 ひょっとして、もう帰るつもりなのか?


 HPが1しか増えてないじゃないか。

 長い台詞を一気に話さないでくれよ。

 今日のノルマまで、まだ1HP足りないんだよ。


 俺は走って彼女を追いかけた。


「ありがとう!」

 俺がお礼の言葉を口にすると、彼女は振り返り、フっと笑ってまた手を振った。


「違うんだ、何か喋ってくれよ!」


「ウッサイわね! 人に見られたらどうすんのよ!」

 そう言うと、彼女は小走りで去っていった。


 やっぱり彼女は、高校に入ってちょっぴり周りが気になり出した中二病患者で間違いないようだ。


 いや、まあそんなことはこの際どうでもいい。

 これで目標HPを確保することが出来た。


 ありがとう、まだ名前も知らぬ中二女子。



 ♢♢♢♢♢♢



 現在の時刻は午後8時。ここは自宅の俺の部屋。


 只今、一人で熟考中。

 考えている内容は、もちろん明日の行動についてだ。


 案1、高野さんともっと仲良くなる。

 案2、高野さんとは今日と同程度の会話量を維持し、中二少女とも仲良くなる。

 案3、高野さんとは今日と同程度の会話量を維持し、左隣の優木さんに話しかける。


 熟考終了。


 まず、左隣のとてもカワイイ優木さんに自分から話しかける勇気など、俺はこれっぽっちも持ち合わせていないことが、今日明らかになった。

 それから、高野さんは人気者だし、これ以上、彼女が俺に構ってくれるとは思えない。


 うん、絶対『案2』が現実的だ。


 俺は意を決してパソコンを開き、中二ワードの検索を始めた。

 何としても、彼女との会話の糸口を見つけるのだ。

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