第2話
時は経ち、西暦2114年。
那奈は相変わらず地下で暮らしていた。
「うぅん……朝……か……」
突然だが、日本は少子化を脱却し、人口が百年前の約二倍となった。
その為、二億を優に超える人間が住む、土地が無くなりかけていた。
その状況を改善すべく、政府はある一手を打つ。
ロード。
花巻(はなまき)真(しん)と呼ばれる政府の重鎮が掲げた、計画の名である。
具体的な内容を話すと、地下に大勢の人が住める環境を作り、そこにAIで選ばれた人に住んでもらうというものだ。
もちろん反発や実現可能なのかという声が上がった。
しかし、反発は地下に選ばれた人には政府からの支援を、実現可能なのかという問いには地上に“ロードフロア”という地上から没落によって、人が落ちないに、没落しかけた瞬間、地上に浮力をもたらす装置の開発に成功。
更に“クラフト”という地下に人が暮らせる空間を作る装置の開発に成功し、実現可能なのかという問いには『イエス』と答え、地下に人間が過ごす事を可能にした。
そして、那奈がいるのは二千四百万人都市、白灰(はくはい)の地下第五階である。
「よいしょと」
那奈が過ごす家は両親が殺された痕は消えており、シンプルな木造で黒色の壁に覆われた、造りになっている。
二階建てで、今居る部屋は那奈の寝室。
黒く輝かしい黒髪のショートヘアーに黒く美しい黒色の瞳。
スレンダーな体型で身長は百五十センチメートル。
今はパジャマ姿で寝室を上空から見た場合、右斜め上にあるベッドから那奈は起き上がっている。
ベッドの左にあるクローゼットから着替えを取り出し、黒のパーカーと黒のスカートを履いた姿になる。
直ぐに部屋から出て、一階のリビングに向かう。
家は中はどこも木造だと直ぐに分かる木の色をしており、下へと続く階段は那奈の寝室の直ぐ左にある。
少し駆け足で下りて、リビングへとたどり着く。
リビングは上空から見た場合、右側にソファーと壁と一体化した薄型のテレビ。
真ん中に正方形の少し大きな四人用の木製テーブルと、四つの木製椅子。
左斜め下にはキッチンがあり、キッチンの右へ台に置かれた電子レンジ、その更に右に冷蔵庫がある。
トイレは二つ二階にあり、一人暮らし。
まだ、十五才である那奈だが、両親が亡くなった次の日に学校を辞め、仕事に就いた。
そうしないと生きて行けない。
なぜなら政府の助成金は“なぜか”両親が使い果たしており、それ以外の助成金も今、政府は大量に増えた人口への対策費を地上の人間に充てる為、出ていない。
本来ならば、地上と地下。
どちらも平等になるべき筈なのに政府は地上を優先した。
その事実に地下の国民は怒り、地上の人間に憧れと憎しみを抱き、反発の声をあげているが、先程述べた政府の重鎮、花巻真が成功の歴史にするために押さえつけている。
とはいえ、地下の暮らしも悪いところだけではない。
百年前と比べて発展したテクノロジーとインフラと医療などなど、様々な部分が遥かに進化している。
とはいえ、地上と比べると別物の生活だが。
「さてと朝ごはん、食べるか」
今は午前七時、仕事は午前八時三十分から。
まだ余裕はある。
那奈はキッチンへと向かった。
(あ……その前に顔、洗ってこよ)
と、思いだし、スカートのポケットから一つのひし形の白い物体を取り出す。
「コール、洗面台と洗顔」
白い物体は目の前に言葉をかけながら投げられ、『コール』の一言で起動を始める。
そして、『洗面台』と『洗顔』という言葉を元に白い物体、“キー”は鏡付きの洗面台に代わり、蛇口が上を向き、蛇口から太くなり洗顔がポッと出てきた。
その洗顔をキャッチし、早々と顔を洗顔のクリームで満たした後、洗った。
“キー”という物は一個十万円する家電や風呂、洗面台などに化けるアイテムだ。
今はどの家庭も持っている必需品で両親が残してくれた形見の一つ。
今回は上の階にあるトイレにそれぞれ併設された洗面台に行くのが面倒くさがったので使用した。
(それにしても、このリング本当邪魔だ)
鏡に映る自分の上半身を見て首を気にする。
首には──地下の人間なら誰でも付けている──地下の人間という事を表すためと地上に許可なく行こうとした場合にサイレンがなるリングが付けられている。
「……まるで」
奴隷みたいだ。
「あら、那奈ちゃん。おはよう」
軽い朝ごはんを作り、食べ、黒いスニーカーを履いて、余裕を持って職場に来た。
「おはようございます。花さん」
茶色でウェーブをかけたセミロングの髪に抹茶色の瞳でそこそこ太っている、ここの薄水色の制服を着り、髪が落ちることを防止する透明な物を頭に付け、那奈と同じ身長の河上(かわかみ)春(はる)に挨拶をする。
河上は五十五才で那奈の上司。
性格は頼れるおばちゃんという感じで十才の頃からお世話になってきた恩人だ。
両親が殺され、一人になった後、初めて家に駆けつけたのが河上でその後、同じ職場を斡旋してくれた。
流石に河上の家に居候さらせてもらうことは経済的に難しく、一人暮らしになったが、料理を河上は教えてくれた。
本当にありがたい。
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