第3話
「じゃあ、もう皆仕事を始めているから、那奈ちゃんもよろしくね」
笑顔で話す河上。
「はい、分かりました」
それに無表情で答える那奈。
那奈に復讐の火は燃え尽きていない。
そのせいか、無表情なことが多い。
「もう……那奈ちゃんはとってもかわいいんだから、笑顔、笑顔」
「……努力します」
目線をそらして、右斜め下の床をみる。
ピカピカだった。
掃除が行き届いているのだろう。
ってそうではなく。
那奈はささっと、制服をまとい、髪が落ちることを防止する頭に透明な物を付ける。
そして、この白い壁で囲まれた正方形の部屋の上空から見て真ん中下、いつもの作業台とパイプ椅子と“クラフトマシーン”と呼ばれる白くアイロンのような見た目をしていて、素材を入れれば武器や銃など法律で所持が禁止されている物や明らかに作れない物以外を可能な限り作ってくれるというアイテムの前に行く。
那奈の作業内容はこうである。
まずクラフトマシーンの右にあるダンボールのボックス、そこにある素材を手に持ち、クラフトマシーンの中に入れて指示を受けたらアイテム、キーのように『コール』して、物体を作ってもらう。
そして、その日のノルマ分作ったら、今度はトラックに物体を運び入れ、そのまま河上が運転する物体を詰め込んだトラックに乗車し、近くの『レレ』という名のホームセンターに納品する。
あまり難しく無い為、時給はここ、白灰の最低賃金だ。
物価が高騰している今、この仕事だけで食べていけるのは奇跡のような事だが、他の仕事に移ろうとは思わない。
なぜなら、河上に恩を返したいし、ここから抜け出せないのが事実としてあるからだ。
地上に上がれる地下の人間はAIによって選ばれたものだけでしかも一定期間のみ。
本来なら両親殺しのクズをなぶり殺したいところだが、ここでは全く情報は集まらず、それに地上に出てても資金が尽きるのは目に見えている。
正直、両親殺しを見つけたいが、二の次……いや、もっと優先順位は低くなっている。
復讐の火は消えていないというのに。
もどかしい。
それが五年も続いているのが現状である。
犯人はいまだ捕まっていない。
仕事が終わり、ホームセンターの外に出た。
そして、帰り始める。
地下空間は地上とは発展した技術のお陰で日中の時間帯は陽がのぼり、夜の時間帯は陽が沈み、月が昇る……ように見えている。
道は終わりがあるのだが終わりがないように見え、終わりに近づくと辺りが白い壁に覆われた状態に変わる。
これはプロジェクター、“ネルル”の力であり、地下のどこの階も地上と変わらない生活を送ることができる。
ただ、それは一部違う。
なぜなら地上の方が発展しているし、こんな木造の家々が建ち並ぶ、景色なんて無い。
「……地上が懐かしいな」
ぽつりと呟く。
そう、那奈と那奈の両親は元々、地上で暮らしいていた。
それも五才の時までだが。
だが、突然地下行きを宣告され、ここに住み始めた。
理由は不明。
ちなみに那奈には父の姉である舞鶴(まいづる)千早(ちはや)という名の伯母がいるのだが、伯母は地下行きではないらしい。
地上で暮らしているようだ。
なんだか、不平等さを感じるが、伯母はとても優強い人で恨めなかった。
仏のような人で本当の娘のように可愛がり、地下行きになるまでは毎週会いに来てくれていた。
だが、地下行きになってからは会いに来てくれなくなった。
なぜだろうか?
その理由は知らない。
愛想つかしたわけではない筈。
……ああ、その筈だ。
いや……そう、思い込みたいだけなのかもしれない。
本当は地下行きの人間なんて……。
「……あ」
考えて下を向きながら記憶と感覚で帰り道を歩いているうちに家に帰り着いた。
「コール」
『コール』というと音声認証で扉が開く。
そして、直ぐに天井に付いた円盤形のLEDの電気がつき、キッチンへと向かう。
ドアは自動的に閉まり、那奈はコーヒーを淹れる。
角砂糖を五個入れ、甘ったるいブラックコーヒーを一気に流し込んだ。
「にが」
それでも苦かった。
やはり見栄ははるものではない。
すると外からパトカーのサイレンが聞こえてきた。
時間帯はもう夜。
(なんだろう?)
気になって窓から外の道路を眺める。
そこには二台のパトカーと大型地下警察専用戦闘ロボットが高速で過ぎ去る姿があった。
「……まあ、関係ないか」
と考え、窓のカーテンを閉める。
とはいえ地下警察が探しているのが両親殺しの人間だったらなんていいことか。
いや待て、それでは己の力で復讐することが叶わなくなってしまうではないか。
危ない、危ない。
惑わされるところだった。
──と、その時だった。
ドンドン外からドアを叩く音がし、異様な雰囲気を感じる。
(……な、なに……?)
こういう時は開けていけない。
しかし。
「すみません!! 助けてください!!」
その言葉を聞けば開けずにはいられなかった。
「コ、コール!」
ドア目掛けて言う。
するとドアが開き、一人の少年が入ってきた。
だが、その少年は。
「え?」
囚人服を着ていた。
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