小話3~魔法使いの弟子後日譚~
「やっと、みのりも一人前の魔法使いか。おめでとう!」
魔道具工房の職人が言った。
みのりは魔法のロッドを工房に受け取りに行った。
マーリン御用達の魔道具工房は、いろいろな面白いもので溢れていた。
キラキラと七色に輝く妖精の羽をあしらったペンダントやセイレーンが歌う蓄音機はみのりのお気に入りだ。ちなみに、どちらもとんでもなく高価なので、未だにショーウィンドウに飾られたままである。売れ筋は火打石やランプなど日常的な実用品だ。
魔道具の動力源は魔力である。その魔力は魔法使いが吹き込む。魔道具は魔力が無くなると、工房に一時的に帰ってくる。それをメンテナンスし、魔力を吹き込み、再度持ち主へ返す。もちろんお代は頂く。とってもエコな良いシステムだとみのりは思っている。
そして、魔道具に魔力を吹き込むのは、見習い魔法使いの最初の仕事だった。魔道具ごとに吹き込む魔力の量は属性が異なる。中にはいくつもの属性を使う魔道具もある。そんな魔道具に当たった日は大変だ。配分が少しでも違うと、魔道具は爆発や、暴走をする。何度顔を真っ黒にして帰ったことか。
工房には何人もの見習い魔法使いが働いている。要はアルバイトである。みのりも、魔法の勉強が一通り終わると、工房にアルバイトに出された。誰にも感謝されない地味で目立たない作業である。しかも失敗した時のリスクと言ったら。
魔法使いは、バーン!と魔法を使ってなんぼ、だと思っていたみのりは大層落胆した。
結果的に、みのりは8か月もの間、工房に通った。同じ時期に入った魔法使いがどんどん先に出て行ってしまうのを何度も悔しい気持ちで見送った。在籍期間は歴代2位である。ちなみに第1位は、40年という履歴を更新し続けているデオファス爺さんである。デオファス爺は、字が読めないので、もともと魔法使いになる気はなかったという。そんなデオファス爺に次ぐ不名誉な最長記録を更新したみのりは、今日!やっと!!魔法使いのロッドを手にしたのだ。
これで、魔法が使える。もう少しでドレイクに会える、とみのりは有頂天になっていた。
と、突然、後ろから人がぶつかってくる。痛いなぁ、と眉をしかめる。
すると、後ろからそいつを捕まえてくれ!と叫ぶ声が聞こえた。みのりは何げなく魔法を使い、ぶつかった人物を捕まえる。
魔力の足枷を付けられた人物はつんのめって、地面とこんにちは、していた。痛そう・・・みのりは早くも魔法を使ってしまったことを後悔した。
「ありがとう!あんた魔法使いなのか?」
後ろから追ってきた男は、地面とこんにちはしている人物をふんじばって、みのりに礼を言った。
「離せ!離せって!!俺は何も盗ってない!」
縛られた人物は子供のような高い声を上げて抵抗する。どうやら泥棒騒ぎのようだ。王都は豊かだ。治安もリベルタよりは、幾分か良い。奴隷もいないし。
けれど、都市という都市には、スリや窃盗はつきものだ。みのりも来たばかりのころはスリによく財布を盗まれた。けれど、冤罪も多いのだ。みのりは、少年を覗き込んだ。見たことのある近所の子供だ。
「おじさん、この子、うちの近所の子よ。たしか・・・アルノルトだったかしら?」
ねぇ、とみのりは少年に話しかける。アルノルト、と呼ばれた少年はキッと、みのりを睨んだ。
「俺は泥棒じゃねえっ!おい、お前よくも・・・」
「魔法使いのお嬢ちゃん、こいつ知っているのか。」
追いかけてきた店員らしき男は、アルノルトを縛った縄を締め上げた。
みのりは、アルノルトのことを思い出す。彼は近所のガキ大将的な存在だ。よく子分を引き連れているのを見る。遊びで大けがをした小さな子をおぶって、こいつを治してくれ!とアルノルトがマーリンの家に飛び込んできた記憶は新しい。優しい子だ。アルノルトがこんなことするはずない、と、みのりはアルノルトがどんなにいい子かを、店員に主張した。
すったもんだの末、誤解は解けた。どうやらアルノルトと似た背格好の子供が真犯人だったようだ。似たような背格好の少年がスリで憲兵に引きずられているのを、アルノルトを追っていた、もう一人の店員が見たのだ。そして人違いだ、と言いに来た。
アルノルトは丁重に謝罪を受け、解放された。
--
ぶすっとした少年とみのりは家までの登り坂を一緒に歩いていた。
「ごめん、って。」
みのりはもう何度目になるか分からない謝罪をした。アルノルトはぶっきらぼうに、もういい、かばってくれたし。と言った。
この日からアルノルトはみのりに、弟子にしてくれと追い掛け回されることになる。
そして・・・・
「ごめんなさい、マーリン先生」
「みのり、大変残念です。魔法使い見習いの間は、街中で魔法を使ってはいけない、とあれ程注意していたのに。」
みのりは、せっかく手に入れた魔法使いの証であるロッドを没収されてしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます