小話2~魔法使いの弟子後日譚~
みのりは、マーリンから渡されたアルカトラ王国の歴史書を読んでいた。
アルカトラの成り立ちと周辺諸国について書かれたこの歴史書は古語めいていて、眠りを誘う。とりあえず理解できたのは。この国が狼族の作った国。砂漠に囲まれた不毛の地に水の加護を持った偉大な狼族の祖先が、周辺諸国の人間や魔族を勇猛果敢に退けた、とある。
みのりは想像する。
きっと周辺諸国は砂漠なんていらないと放っておいたら、狼族が勝手に住み始めて、国にしたのだろう。マーリンも国の歴史書など、だいたいそのようなものです。と言った。
それなら何故勉強させるの、とみのりは不満に思った。けど、マーリンが怖いので言わない。必要なさそうな勉強について文句を言うと、倍の時間お説教をくらうのだ。
ふと、みのりは気になったことを尋ねた。
「マーリン先生、ドレイクは命を狙われているのですか?」
マーリンは書き写していた魔法書から顔を上げ、みのりを見た。
「そうですね・・・。現在は王都から追い出せれば、生死は問わない。と言ったところでしょう。」
「王都にドレイクが居ると目障り?」
みのりは考えながら、推測を披露する。
「それはドレイクが王都の人に人気だからですか?」
工房の魔法使い見習いはみんな、第一王子が王様になってくれたら、と言っていた。
「王妃は、民の言葉など取るに足らぬ。というような方です。それよりも第二王子ですね。」
「ドレイクの弟ですか?」
「弟君とおっしゃい。彼は王妃のたくらみを知りません。純粋な方で、腹違いの兄上であるドレイク様を慕っています。」
おそらく、とマーリンは続けた。
「無事を知れば、弟君はドレイク様の継承権を復権なさるでしょう。」
未だに行方不明の第一王子の捜索に力を入れているのは、弟の第二王子だ、という。
義理の母親である王妃に殺されかけて、義理の弟の第二王子に探されている。なんとも複雑な家庭である。
そして、ドレイクは王都のマーリンの元へみのりを連れて来てくれた。みのりがもう少し丈夫だったなら、国外の魔法使いを探し、奴隷の首輪を取ってくれたのかもしれない。けれど、みのりの体調を心配して、彼は王都へ戻った。王都を避けていた、と言っていたのに。
もっと運動をしておけば良かった。
もっと強かったら。もっと賢かったら。
みのりの中に後悔が渦巻く。後悔しても無駄だと分かっているのに、それは頻繁に襲ってきた。胸が苦しい。泣きそうになる。ドレイクに甘えて、半年間のうのうと暮らしてきた。コレはそのつけだ。泣くな、とみのりは唇を噛んだ。
ドレイクに会う。絶対にもう一度。
マーリンはそんなみのりの様子を静かに見守っていた。
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