第10話 海を越えて、竜の国へ※

船旅が始まって数日――


最初こそ、見渡す限りの海に心を躍らせていたみのりだったが、三日も経てばその興奮もすっかり冷めていた。




「あー……水ばっかり。もう飽きたよぉ」




旅の初めから、なんとなく嫌な予感はしていた。


ドレイクが「大きい船は安定している」と言って選んだガレオン船は、思っていた以上にのんびりしていたのだ。出発後すぐに、後発のスプール船がどんどん追い抜いていく。まるで水面を駆け抜けるような速さで、あっという間に水平線の彼方へ消えていった。




「あっちに乗りたかったかも……」




みのりは、ぼやき混じりに思った。


彼らが乗っているのは二等船室。個室とはいえ、料金はなかなか高額だった。


この船には一等から四等までの船室があり、二等以上が個室。三等以下になると、雑魚寝の相部屋だ。ドレイクは「見知らぬ男と同室なんて危険だ」と強く反対し、二人で個室を使うことにしたのだった。




部屋は、狭く縦長。シングルベッドがひとつと、小さな机が窓際にあるだけの、ささやかな空間。ベッドは、くっつけば二人でもなんとか寝られる幅だが、ドレイクには少し短く、足がわずかにはみ出してしまう。




月のきれいな夜。小さな窓からは、凪いだ海が静かに輝いていた。




みのりには、ひとつだけ不満があった。




――ドレイクが、まったく手を出してこないのだ。




あの夜、気持ちが通じ合ってから、頭を撫でられたり手を引かれたりすることはあっても、それ以上はない。キスも、ゼロ。




(なにそれ……誠実すぎるのも罪だよ……!)




頭の中では“悪魔みのり”が騒ぐ。


《あーあ、あのまま勢いで最後まで行っちゃえば良かったのに。恋はタイミングだってば!》




一方、“天使みのり”は、今回はとうとう現れなかった。




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「ドレイク。あの、ですね……」




自分から言い出すのは、やっぱり恥ずかしい。今日こそは、と決めていたのに、いざとなると口がもつれる。




「どうした?」




ベッドに寝転びながら本を読んでいたドレイクが顔を上げる。みのりは勢いで言った。




「もうちょっとだけ……その、恋人っぽいことしたいなって……」




言葉はしぼみ、最後は聞き取れないほど小声になってしまった。アハハ、と笑ってごまかすみのりに、ドレイクは少し皮肉っぽく笑いながら、起き上がってベッドの縁に腰を下ろした。


そして、机に座っていたみのりの手を取る。




軽く引かれて、みのりはそのまま彼の太ももの上に腰を下ろしていた。




(……え?近い。恥ずかしい……)




ドレイクは無言のまま、みのりの髪に触れた。耳にかけて整えたその指先は優しく、まるで宝物を扱うかのようだった。短く切りそろえられていた髪は今では背中に届くほどに伸びている。




黒く滑らかな髪をすくい上げ、ドレイクは口づけた。


みのりの心臓は跳ねる。




(あれ?なんか……展開が速い……!)




ドレイクは髪を肩越しに流すと、みのりの肩に顔を埋めた。


――そして、不意に首筋を舌で舐めた。




「ひぁっ!」




みのりは、驚きのあまり変な声を上げてしまう。こんな展開、予想してなかった!


ドレイクの手が服の隙間から忍び込み、背中を撫でる。その手つきにみのりの身体は強ばるが、ドレイクは表情を変えず、もう片方の手で頬をそっと包んだ。




(……キス、される)




みのりは覚悟して目を閉じる。


優しく舌が唇をなぞり、閉じた口元を押し開こうとする。みのりは抵抗するも、結局その舌の侵入を許してしまった。


目を開けると、ドレイクの熱い視線とぶつかる。




(……うわ……私、今きっと真っ赤だ)




ドレイクの瞳が優しげに細められ、唇がそっと離れる。




「……恋人同士の触れ合いというのは、こういうことだ」




少しかすれた低音に、艶がのっている。




(こ、これが恋人ってやつ!?いやいやいやいやレベル高すぎ!)




思わずみのりは心の中で白旗を振った。


マーリンが言っていた。「彼、昔は王子で、かなりモテていた」――この手慣れ感、納得だ。




「……ごめんなさい。もっと、初心者向けでお願いします」




ぽそりと告げると、ドレイクが最後の一撃を放つ。




「これでも、我慢している。あまり煽らないでくれ」




親指で唇をなぞられ、みのりは限界を迎えた。




「ぴえっ!」




と情けない声を出して、飛び退いた。




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それから数日、みのりはドレイクを徹底的に避けた。


ドレイク曰く、「まるで野良猫のようだった」とのこと。




昼間は絶対に近づかず、夜もドレイクが寝つくまではベッドに入らない。


それでも、眠気に勝てずにそっと入る時は、重たい腕をそっと持ち上げて、ドレイクの懐にすべり込んでいた。




(撤退。そう、これは戦略的撤退なのだ……!)




みのりは自分の逃げを「論理的判断」として正当化した。


昼間は、甲板に出て船員と談笑することにした。その中で、同年代の青年――カイエンと仲良くなった。彼は「海燕」と書くと言って、少し照れくさそうに笑っていた。




「燕って、女っぽいだろ?」




みのりにはそのニュアンスは分からなかったが、




「素敵な名前だと思います」




と答えると、カイエンはくしゃっと笑って頭を撫でてくれた。


快活で、人懐っこい青年。綱を登って見張り台に上る姿は、まさに“海の男”だった。


ちなみに、みのりは船酔い対策として、こっそりと浮遊魔法を使っていた。たった5ミリの浮遊で、完全なドラえもん方式。快適な船旅、魔法使いバンザイである。




船員と打ち解けるために、みのりは“人心掌握術”を駆使した。


たとえば、ロープの結び方を教われば「わあ、こんなに早くできるんですか!すごい!」と全力で感嘆してみせる。


方位磁針の読み方を習えば、目を輝かせて「まるで魔法みたい!」と褒める。


魚のさばき方を見れば「初めて見ました!もう一回やって!」とおねだりする。




――人は、役に立ったと感じると嬉しいもの。その心理をうまく突いて、自然と懐に入り込んだのだ。


やがて船員たちは彼女に気軽に話しかけるようになり、小さな失敗も笑い合える雰囲気になっていた。




カイエンはいい人だった。でも、旅が終われば関係も終わる。それが分かっているからこそ、打算的に付き合えるのかもしれない。




ドレイクとは、ほんの少しすれ違っただけで落ち込むのに。


そんな自分がちょっと、嫌になった。




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夜。みのりはそっと部屋に戻る。


甲板で笑い合っていた賑やかさが嘘のように、廊下は波音と木材のきしみだけが響く。


扉を開けると、ランプの明かりは落とされ、月明かりが窓から差し込んでいた。




ドレイクはもう寝ているようだった。深い呼吸が静かに続いている。今日も避け切った。ほっとしながら、そっとベッドに潜り込む。狭いので、いつものようにドレイクの懐におさまる。重たい腕をよいしょと持ち上げて。その時、ドレイクの腕が動いた気がして、胸が一瞬だけ跳ね上がる。けれども振り返ると、ドレイクの瞳は閉じられたまま。夢の中で呟いただけかもしれない。




(……本当に、寝てるんだよね?)




答えを確かめる勇気はなく、みのりはそのまま目を閉じた。


その時、「みのり」と呼ばれた気がしたが、疲れていたみのりはすぐに眠ってしまった。


心臓の鼓動が波の音に混じって、やけに大きく響いているように思えた。




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翌日の昼。


船室のドアを開けると、ドレイクの姿はなかった。




(……よかった)




そう思って本を取ろうとした、その時。扉が開く。


ドレイクだった。




「っ……!」




顔を見た瞬間、みのりの胸に罪悪感が込み上げた。


ドレイクは、ただ静かにベッドに腰かけると、深くため息を吐いた。




「……すまん。もう触れないから。だから、避けるのはやめてくれ」




弱ったように頭を抱えるドレイクを、みのりはそっと撫でた。




「そんなつもりじゃなかったの。恥ずかしかっただけなの。……ごめんね」




ドレイクの耳はしょんぼり垂れていた。かわいすぎて反則。




「みのり。あの男は?」


「え?」


「甲板で楽しそうに話していた」




カイエンのことか。嫉妬――なのかこれは?




「情報収集してただけだよ!話聞くの、大事でしょ?」




ムッとしたように眉を寄せるドレイク。まるで大きな犬が拗ねているみたいで、みのりの胸がくすぐったくなる。その姿を見ていると、「避けてばかりじゃ駄目だな」と思えてきた。




(ちゃんと向き合わなきゃ……。私も、ドレイクと恋人らしくいたいんだ)




「……ねえ、ドレイク。少しずつ練習したら、きっと慣れると思うの。恋人っぽいこと」




「……?」




首をかしげるドレイク。まだ耳が垂れていて可愛い。




「いきなり前みたいなのは無理だけど、毎日ちょっとだけなら……」




自分でも恥ずかしいことを言っている自覚はある。




「……わかった。少しずつだな。無理ならすぐ言ってくれ」




この説明でちゃんと理解できるあたり、やっぱりドレイクはすごい。




(……あれ?私、ものすごく重大なこと言ったのでは……?)




と、今さら気づいてしまう、みのりだった。




「今日の分、いいか。」




間髪入れずにドレイクに乞われ、真っ赤になってうなずいた。




ドレイクはみのりの腰に手をまわし、キスをした。


キスが長い。唇が触れあうだけのキスなのに、だんだんと熱をもっている。みのりはいつまでこのままなのだろう、と薄目を開ける。ドレイクが、それはそれは愛おしそうにみのりを見つめている。慣れていないみのりは居心地が悪くて、身じろぎした。




そのまま、ドレイクのキスが首筋に降りてくる。顎と首の境目で、びくん、と動いてしまう。首筋と肩甲骨のあたりでも、また、びくん、と動く。ドレイクはもしかして、自分の性感帯を探っているのではないか、と疑惑が湧いてくる。しかし、みのりに抵抗する術はない。受け流す術も。全身、真っ赤に染まりながら、ドレイクの大人のキスを受け入れる。




前はもっとすごい事したもん!大丈夫!と、みのりは自分を励ます。




服越しに胸までキスが降りて来たとき、みのりはとうとう降参した。




「もっ・・・だめっ」




予想外の可愛らしい降参にドレイクは目を丸くした。真っ赤になって、目を潤ませている。追い打ちをかけることは簡単だろうが、ドレイクはやめてくれた。みのりはほっと息を吐く。




「なかなかに可愛らしい抵抗だ。俺の恋人は罪作りだな。」




ドレイクはそう言いながら、みのりのほほを手の甲で撫でる。


貴方こそ、R18相当の色気を出すのをやめてもらえませんかね、とみのりは心の中だけで愚痴った。






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あれから、ドレイクとの“練習”は毎日続いている。


ドレイクが、いいか、と聞いて、みのりが頷くと大人の甘い時間の始まりだ。




ぴちゃ、と水音がする。




胸元がはだけ、心もとない。


ドレイクがみのりの胸の頂いただきを熱心に舐めている。みのりはまたしてもどうしていいのか分からず、困っていた。




挿入より胸を触られる方が気持ちいいよ、と同級生に聞いていた。


が、みのりにはそれが分からなかった。くすぐったいような気はするが、気持ちいいとまではいかない。それより、ドレイクが自分の胸にむしゃぶりついている、という事実がみのりを落ち着かなくさせる。




両手もどこに置いていいのか、目線をどこにやったらいいのか、感じているフリをした方がいいのか、分からないことが多すぎる。




時おり掠める痛みのような、ずくん、と響く感触がある。これはなんだろう、とみのりは思う。そしてその感触をより感じるように五感を澄ます。




「あっ・・・」




思わず、声が漏れる。みのりは口を両手で塞ぐ。恥ずかしい。意図せず声を出してしまったことが何より恥ずかしい。みのりの様子に、ドレイクは胸への愛撫を中断する。




「みのり?どうした?」




優しく労わるような声だ。みのりは安心して、そのまま思ったことを言ってしまう。




「あのね、最初は気持ちいいか分からなかったの。でも、ずん、ってこの辺が・・・」




と言って、みのりは臍へそのあたりに手をやる。




「ん?あれ?もっと下かな?」




その手が臍の下辺りに行くとみのりは真っ赤になった。ずくん、と疼いていたのは、膣のあたりだったと気づいたのだ。




「あの・・・///」




違うよ、とも言えず、みのりは口ごもる。


ドレイクの不思議そうな顔が、ちょっと妖しい笑みのような形を作る前に、みのりは布団をかぶって、今日もう終わり!と宣言した。








一日一回の、大人の甘い時間。キスをしたり、正面を向き合う形で抱っこされたり。ドレイクはその時だけは容赦なく色気たっぷりに触れてくる。レベルを下げてもらうのを、忘れていた。みのりは毎回アップアップしながらも、少しずつ慣らされている。


けれど、悪くない。ちょっぴり後悔はしているが。








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その日は雲ひとつない快晴だった。


ただ一つ、風が完全に止まっていることを除けば――。




「暇すぎー……」




みのりは甲板で寝そべるカイエンに文句を言った。風がなければ帆船は動かない。人力のオールはあくまで補助にすぎず、凪の日は何もできずに、ただただ風を待つしかなかった。


ところが、カイエンが突然むくりと起き上がり、周囲を睨むように見回した。




「……何か来る」


「何も見えないぞ!?どこだ!?」




見張り台からの返答が飛ぶ。だがカイエンは応えず、ロープを登って見張り台へと駆け上がった。


ドレイクも剣を手に甲板へ現れた。




「中に入れ、みのり!」




その声に返事をする間もなく、船首に何本もの巨大な足が絡みついた。吸盤のある、ぬめりとした異形のそれ――。




「触手っ!?え、なにこれ、タコ!?」




ドレイクはその一本に向かって跳躍し、一太刀で切り落とした。船員たちも斧を手に足を斬り払う。




「ク、クラーケン!?」


「違います!」




一拍の沈黙。みのりはびしっと指を突きつけた。




「あれは……!ダイオウイカです!」


「どっちでもいいわ!!」と船員総ツッコミ。




しかし、みのりは勢いに乗ってしまった。




「ダイオウイカ――学名アルキテウティス・ダックス!世界一大きい軟体動物として知られ、最大報告例は全長十八メートル!ちなみに近縁のダイオウホウズキイカはより重量型で、記録では五百キロ超!分類的には軟体動物門・頭足綱――そう、タコやイカは実は貝類と同じ仲間なんです!」




「いや今授業始めんな!!」カイエンが甲板から突っ込む。


「しかもその触腕の構造は――」


「説明いらねえ!!来てる!まだ来てるから!!」




「音や衝撃に弱い臆病な生き物です!つまり、大きな音を出せば――」


「そこだけ早く言えーーーっ!!!」




なんだかめちゃくちゃ怒られた。仕方ない、挽回しよう。




「攻撃してもいいですか? 私、魔法使いです!」




そう言ってロッドを抜いたみのりに、船員たちは驚きつつも託した。魔法陣が煌めき、みのりの放った衝撃波が海上に鳴り響くと、触手はざわめき、やがて群れごと離れていった。




「逃げた……やったぁ!」




ドレイクが微笑みながら言った。




「よくやった、みのり。見事だった」


「えっ、魔法使いだったのかよ、お前」




呆れたように言うカイエンに、みのりは胸を張って言い返した。




「そうです!成り立てですけど、一応“本物”です!」


「なら風も起こしてくれよ。漕ぐの疲れるし」


「ダメです。他人の仕事を魔法で奪っちゃいけないって師匠に言われてます!」


「ケチ~!!」




カイエンは子どもみたいに文句を垂れながらも、どこか楽しそうに笑っている。




「でもさ、魔族じゃないの?目も黒いし、なんか違くね?」


「曾祖父が魔族だったらしいです。まあ、先祖返りですかね?」




本当のところは、純粋な人間であることを隠すための方便だった。帝国に入るには、「魔法を使える人間」という存在はあまりに厄介すぎる。




「魔族ってさ、銀髪に赤い目だろ?全然違うじゃん」


「銀と赤は劣性遺伝なので、人間の色素と混ざると、すぐに優性の黒髪黒目が表に出ちゃうんですよ」




みのりは得意げに指を立てて続けた。




「ほら、遺伝って“優性・劣性”ってあるじゃないですか。黒髪や黒目は優性だから、混ざると大体そっちが勝つんです。銀や赤は派手で目立つけど、実は遺伝子レベルでは控えめなんですよ。だから見た目だけで『魔族かどうか』って判断するのはナンセンスなんです!」




「ちょ、なんで授業始めてんだよ!?」


「つまりですね、私の黒い目も黒い髪も、遺伝的には“人間要素の勝利”というわけで――」


「うぇっ、もういい!難しい話は聞きたくねぇ!」




両耳を塞いで逃げ出すカイエンを見送りながら、みのりは小さくガッツポーズ。




(勝った……!)




その夜、船長が感謝の気持ちとして夕食を振る舞ってくれた。


トレイに並べられたイカ尽くしの豪華料理。




「ドレイク、今日の夕飯は豪華だよ!」




大きすぎて皿からはみ出た足を差し出すと、ドレイクは苦笑しながら礼を言った。


明らかに引いていたと思う。




________________________________________


旅も残すところあと二日。もうすぐ帝国の港町に着く。


甲板に出たみのりは、船員たちに何気なく尋ねた。




「怖くないんですか? 魔物とか」




「この船は巫女姫様の加護があるからな!」


「竜の国の神秘だぜ」


「イカには効かなかったけどな!」




どっと笑いが起こり、みのりもつられて笑った。


(へぇ、巫女姫さまの加護って相当信頼されているんだな)




巫女姫、竜、加護――まるで物語に出てくるような言葉が、胸の奥で小さな灯をともす。見知らぬ帝国への不安よりも、わくわくが勝っていた。




――その夜。


みのりはドレイクと「練習」の時間を迎えていた。膝の上に座り、背後から抱きしめられる体勢はもう慣れたはずなのに、明日は港に着くという現実が、いつもと違う緊張を運んでくる。




「明日には港に着く。まずは帝都に行く前に、大きな街へ寄ろうと思う」


「うん。情報集めは大事だものね」




地図をなぞるように語るドレイクは頼もしかった。一方で、みのりの口から出てくるのは港町の名物料理の話ばかりで、思わず自分で苦笑してしまう。




「よくそこまで調べたな。……青年と別れるのは寂しくないか?」


「私はドレイクが好き。ドレイクだけよ」




後ろを振り返り、真っ直ぐに見上げるみのりの視線に、ドレイクは小さく笑って鼻先を唇に触れさせた。




「みのりは……相当な悪女に育ちそうだ」


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