小話1~狼と首輪後日譚~

奴隷となって数週間。みのりは奴隷としての仕事を満足に与えられていなかった。


あまりに暇だったみのりは、物だらけで隙間のないリビングのテーブルの整理整頓をした。ドレイクは助かる、とほめてくれた。その日から、掃除はみのりの担当になった。


そして今も、少しずつ、みのりは仕事を増やしている。ドレイクに褒めてもらいたくて。






ある日、みのりはドレイクに連れられ、バザールへきていた。


ドレイクが休みの日にこうして、一緒に日用品や食料を買いに来ている。そこでみのりは気づく。ドレイクは割と買い物下手だった。金勘定が苦手、というよりは大らかで気にしていない。みのりは主婦の血が騒ぐわ、と、つい、口を出してしまった。ちなみに、みのりに主婦歴はない。ただの女子高生である。




「その商品なら、あちらの店が一番安いです。」


「これは、すぐに壊れてしまいました。同じ用途ならこちらの形の方が良いです。」


「そんなに必要ありません。必要な分だけ買えるように交渉します。」




ぼったくられそうなところを助け、欠陥品を掴まされそうなところを他の商品に誘導し、不要な量を買おうとしたドレイクを華麗に制した。




「みのりは買い物上手だな。」




ドレイクは良い品が買えた、と喜んでいる。みのりもほくほく顔である。


すると、目の先の粉屋がなにやら騒がしい。覗いてみると、そこに見知った顔があった。人間の、パン屋のおじさんである。




「こんな高くちゃ、買えねぇよ。もう少し負けてくれ!」


「昨日、到着するはずの行商隊がごっそり居なくなっちまった。粉は今あるだけだ。適正価格だよ。次の行商が来たら値段は下がる。買えないなら、来週来るんだね。」




粉屋の女主人は、しっしっ、とパン屋を追い払う。




「ご主人様、手助けしてもよろしいでしょうか?」




みのりは、ドレイクに聞いた。外ではドレイク様、とは呼ばない。一度呼んだ時に、ちょっとした騒ぎになったのだ。ドレイクは気にしないと言ったが、みのりは気にする。




「ああ、あれはパン屋の主人か。いつかは世話になった。何か策があるなら、助けてやりなさい。」




みのりは頷いて、渦中の2人に話しかけた。




「あの。お金はいくらありますか?」




まずはパン屋に聞く。




「え?ああ、6500ゾルだ。」


「10セリン、9000ゾルなら、6500ゾルで7セリン買えます。それでもよろしいですか?」


「もちろん。少なくてもないよりマシだ。」




みのりは粉屋に向き直り、みのりは




「こちらの10セリンを7セリンで売ってください。」




と提案する。そして女主人に何事かを耳打ちした。粉屋の主人はハッとして、客に向き直り、




「いいだろう。この奴隷のお嬢ちゃんが言う通り、7セリン6500ゾルで売ってやろうじゃないか。」




おお!と野次馬から歓声があがる。


パン屋のおじさんは、みのりに、ありがとう!と何度も頭をさげ、帰って行った。




「みのりは計算が出来るのか。粉屋の主人に何と言ったのだ?」


「本当は65000ゾルで買える粉は7.22セリンです。端数分お得ですよ。と教えました。」




ドレイクは目を見張り、すごいな、と褒めてくれた。


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