第39話 鍛冶場の閃き、エイシスの産声
鍛冶場に戻ると、鉄と火の匂いが鼻を突き、微かに舞う煤が空気に混じっていた。奥の作業場では、ニナが慣れた手つきで工具を整理しながら、ガンブレードを試し終えたこちらに目を向ける。
「ま、最初はこんなもんだろうな。革新的な武器なんざ、そう簡単に生まれるもんじゃない」
そんなニナの言葉を聞きながら、ガンブレードを手に取り、じっくりと観察する。確かに、普通の剣と比べれば斬撃の威力は増していたが、それ以上に取り回しが難しく、暴れる刃を完全に制御するのが大変だった。
「確かに強いですが、実戦で使うにはまだ問題が多いですね……」
「ああ。特に、既存のアスタギアよりも扱いにくい時点で、実用性に欠ける」
ニナは眉をひそめる。
「それにあの振動を制御できるのは、かなりの技量があるやつだけだろうな」
それは確かにそうかもしれない。ガンブレードは攻撃の瞬間に反動が生まれ、その影響を制御できなければ、ただの危険な武器になってしまう。
「うーん……たしかに」
納得しながら、試作品のガンブレードを横に置いた。すると、鍛冶場の扉が開き、落ち着いた足音が響く。
「ニナ、修理を頼みたいんだが。おや、クウォン君もいたか」
振り向くと、そこに立っていたのはヘレナ先生だった。
「おっ、先生じゃねぇか。何を直すんだ?」
ニナが軽快に尋ねる。
「アスタギアの調子が悪くてね。少し点検してもらえないか」
ヘレナ先生が持っていたのは、彼女が戦闘用に使っているアスタギアだった。表面には小さな傷が刻まれており、法理術の回路が経年劣化しているのか、ところどころひび割れたように見える。
「なるほどな。ちょっと待ってな」
ニナは受け取ると、作業台に置き、細かく点検を始めた。
「細かいヒビが入っているな。こいつは軽く打ち直しが必要だな。ちょっと待っててくんな」
ニナはアスタギアを鍛冶台に乗せると修理を始める。そこで目に留まったのは、ニナがエーテル結晶の欠片をアスタギアの表面に置き、それを叩きながら修理している様子だった。
ちなみに、エーテル結晶とは、文字通りエーテルが結晶化したものであり、アスタギアにも使われているものである。属性によって様々な色を持ち、まるで宝石のように美しい結晶だ。
カンッ、カンッ。
「ニナさん、それ……どうしてエーテル結晶を砕きながら叩いてるんです?」
疑問に思って尋ねると、ニナは手を止め、こちらを見た。
「先生の法理術の属性は水だろう? アスタギアも当然先生の属性の水で調整されてる。私の属性は火だから、ただ叩くだけだとアスタギアの内部に悪影響が出ちまう。だから、こうやって水属性のエーテル結晶を砕いて、その影響で属性を一瞬だけ上書きしながら叩くんだよ」
「なるほど……。つまり、結晶を砕いた瞬間だけ属性が乗るってことですか?」
「その通りさ。ただ、これの問題は、持続的なエンチャントができねぇことだな」
ニナは小さく息を吐く。
「砕いた瞬間だけ効果があるから、継続的にやるには毎度こうやって水のエーテル結晶を置いて砕くといった手間がかかる」
「……これ、焼き入れに似てるな」
ふと、頭の中で過去の記憶がよみがえる。
地球の鍛冶技術でも、刃物や武器を作る際には炭素の含有量を調整するために焼き入れや焼き戻しを行う。焼き入れの際、急冷することで鋼の硬度を増すが、そのままだと脆すぎるため、焼き戻しをして適度に柔軟性を持たせる。火と水を使い分けることで、金属の性質を意図的に調整する。
エーテル結晶を砕いて一瞬だけ属性を乗せるニナの技術も、似たような原理ではないだろうか?
「何か思いついたか?」
ニナが作業を続けながらこちらを見た。
「はい……。金属の焼き入れと同じで、エーテルの属性を調整する方法が他にもあるんじゃないかと思って……」
エーテル結晶を使った鍛冶。属性付与の制約。何かが繋がりそうな漠然としたイメージが目の前に浮かぶ。そして頭の中でぼんやりとだが、明確な形をなしていく。
そう、それなら、これを戦闘に応用すれば――。
「ん……待てよ!!」
突然、頭の中で何かが閃いた。
「ユーレカ!!!」
思わず叫んだ。
「お、おい、大声出すなよ!」
ニナが驚いたように身を引く。
「はっはっは、まるで子供みたいだな、クウォン君」
ヘレナ先生がくすくす笑う。
「いや、一応まだ子供だったか」
そんなヘレナ先生のツッコミをスルーして、興奮したまま作業台の上のエーテル結晶に手を伸ばす。
「ニナさん、ちょっと作業台とエーテル結晶の欠片を使わせてもらってもいいですか?」
「お、おう? 好きに使ってくれ」
ニナは少し驚きつつも了承してくれた。すぐに作業に取り掛かる。
古代ギリシャの数学者アルキメデスの真似をして叫んでしまったが、まさに頭の中の様々な要素が一つに繋がり、新しいアイデアを思いつくという感覚を体験してしまった。そうなるともう、目の前のことしか見えない。
作業をしている間、修理が終わったらしいニナとヘレナ先生はお茶を飲みながら、興味深そうにこちらを眺めている。
「……」
頭の中で、すべてのピースが次々と組み合わさっていく感覚。
「よし……!」
最後の調整を終えた。
「できた!」
「お、おう……そうか」
ニナが呆れたように頷く。
「先生、ニナさん! ちょっと裏手の実験場に行きましょう!」
「お前、また急にどうしたんだよ?」
ニナが怪訝な顔をする。
「いいから、早く!」
興奮を抑えられずに二人を引っ張るようにして、裏手の実験場へ向かった。
◇ ◇ ◇
「さて、さっそく見せてくれるか」
ニナが腕を組んで見守る。
「よし……見ててください」
深呼吸し、ガンブレードの柄をしっかりと握る。今回のテスト用に用意したのは、直径30センチほどの丸太を3本束ねたものだ。
先ほどのテストではせいぜい一本の丸太を両断するのが精一杯だったので、3本すべてを一撃で断ち切るのは難しい。だが――
「行きます!」
ガンブレードを大きく振り上げ、一気に斬り下ろす。
――ギィィン!
刃が閃く瞬間、引き金を引いた。赤い閃光が走る。
――ズバァンッ!
斬撃の余韻が残る中、丸太3本がゆっくりと傾き、静かに地面へと倒れた。切断面には軽く焦げ跡が残り、焼けた木の香りが立ち込める。
「なっ……!?」
ニナとヘレナ先生が目を丸くし、息を呑む。
「い、一体何をしたんだ?!」
ニナが驚きの声を上げる。
「まだ説明の前に、もう一つだけテストさせてください」
「ほう……? いいだろう」
「ニナさん、この丸太に火属性のマナヴェールをかけてもらえますか?」
「おう、そんなのは簡単さ」
ニナが手をかざし、丸太全体が淡く赤い輝きに包まれた。エルミナスでは一般的な防御技術であり、魔獣が持つマナヴェールと似た防御効果を発揮する。これで普通に斬りつけても、刃は弾かれてしまう。
「では……」
再びガンブレードを構え、シリンダーに弾丸を装填する。ゆっくりと息を整え、狙いを定め――
「せいっ!」
再び斬り下ろす。その瞬間、引き金を引いた。
――ギィィン!
今度は、青い軌跡が走る。
「――ッ!?」
ヘレナ先生とニナが、目の前で起こった現象に息を呑んだ。
先ほど火属性のマナヴェールに覆われていた丸太は、まるでそれを無視するかのように、青い閃光とともに両断されていた。
「ど、どうなってるんだ?!」
ニナが驚愕の表情でこちらを見つめる。
「……説明します」
ガンブレードを静かに構え直しながら、得意げに口を開いた。
「ニナさんが鍛冶をする際に、エーテル結晶を砕いて属性を乗せる技術を使っていましたよね? それを応用したんです」
「応用?」
ヘレナ先生が興味深そうに聞き返す。
「見てください、これです」
そう言ってガンブレードに使用する弾丸を見せる。
「ん、これは……弾丸の頭にさっきのエーテル結晶がついているのか」
「ええ。ガンブレードに使用するこのホローポイント弾のくぼみに、エーテル結晶の欠片を仕込んで、インパクトの瞬間に砕くことで、一瞬だけ属性を乗せることに成功しました」
「なるほど……!」
ヘレナ先生が納得したように頷く。
「つまり、マナヴェールに対抗するために、その属性とは相反するエーテル結晶の乗った弾丸を使って、斬撃の瞬間にエンチャントしたというわけですね」
「やるじゃないかクウォン!」
ニナが満面の笑みを浮かべ、拳を叩く。
「アースティアの発想ってやつは本当にぶっ飛んでるな!」
ヘレナ先生も感心した様子で言う。
「素晴らしい発想だ、クウォン君。まさかそんな方法で属性を付与するとは……」
「よし、クウォン。せっかくだから色々試してみよう」
ニナに促され、追加で作ったいくつかのエーテル結晶弾を取り出し、それぞれ火・水・風・地・金といった異なる属性を込めて実験を行った。
それぞれの属性に応じた斬撃を繰り出すことができ、有利属性を付与することでマナヴェールを突破することにも成功した。
「すごい……これは確かに画期的な技術だ!」
ニナが興奮した様子でガンブレードを覗き込む。
「ただし――」
ヘレナ先生が少し厳しい表情で言葉を続けた。
「確かに素晴らしい技術ではあるが、扱いが非常に難しいね」
「ええ……」
その点は理解していた。実験の結果、属性を乗せるためには強い衝撃を与えてエーテル結晶を砕かなければならないことがわかった。
試しにインパクト時の暴れを減らそうと弾丸の速度を落としてみたのだが、そうすると刀身全体に十分なエンチャントが乗らないことがわかった。
「属性が付与される時間はほんの一瞬しかないし、刀身に弾丸を当てることでガンブレードが暴れる。下手をすると制御不能になるし、体勢を崩した状態で反撃を受ける危険もある」
そのヘレナ先生の指摘は痛いところで、先ほどのテストでも、トリガーを引くタイミングが少しでも早かったり遅かったりするとマナヴェールに弾かれた反動で剣があさっての方向を向いてしまい、そのままあらぬ方向へ斬撃が飛んでいってしまうことがあった。
普通に考えてこれは非常に危険である。
「確かにな……」
ニナが腕を組む。
「このままじゃ、まともに使いこなすには相当な訓練が必要だな」
「そうですね」
ガンブレードの柄を握り直しながら答えた。
「ただ、結晶片を使えばどんな属性にも対応できる。これを使いこなせれば、どんな相手にも対処できるかもしれません」
ヘレナ先生が少し微笑みながら頷く。
「なるほど……確かに、扱えたら恐ろしい武器だ」
「ふむ……」
ニナがしばらく黙って考え込んでいたが、やがて顔を上げた。
「よし、クウォン。お前が考えた武器だ。このエンチャントの方式に、何か名前を付けろよ」
「え、自分が?」
「当たり前だろ」
ニナが笑う。
「新しい技術には、それにふさわしい名前が必要だ。だったら、お前が名付けるべきだ」
「そうだね」
ヘレナ先生も同意する。
「これはクウォン君の発想から生まれたものだからね」
しばし考え、ふと思い浮かんだ単語を口にした。
「……エイシス」
「エイシス?」
ニナが首を傾げる。
「Element Collision Injection System――E.C.I.S.です」
「エイシス、いい名前じゃないか」
ニナが満足げに頷く。
「ああ、クウォン君らしい、実に理論的な命名だ」
ヘレナ先生も微笑む。
「さて、試作品は十分に面白かったが、ここからが本番だな」
ニナは腕を組みながら、にやりと笑った。
「本番?」
「お前用に、ちゃんとしたエイシス方式のガンブレードを仕上げるってことさ」
「えっ、自分には赤枝がありますが?」
「ああ、でも戦闘用のアスタギアは、状況に応じて複数持つのが常識だぞ。例えば狭い場所で赤枝を振るのは厳しいだろう? それに戦闘中に赤枝を落とすようなことがあれば、途端に丸腰だぞ?」
それは確かにそうだ。メインウェポンしか持っていないと、それが封じられたり使えなくなったりしたときに詰んでしまうだろう。
昔の武士も戦場では槍に加えて刀を携えていたことを考えると、確かに合理的ではある。
ニナがニヤリと笑う。
「楽しみにしてろよ」
「……ありがとうございます」
そうして、新たな武器システム「エイシス」を利用した武器の正式な製作が始まることとなった。
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最後までお読みいただきありがとうございます!
今回は、みんな大好き「ガンブレード」のお話でした。 実際、ガンブレードって現実の武器としては中々微妙な性能ですよね。だが、そこにロマンがある……!
実は現実にも「エクスプローダー」という、ホローポイント弾のくぼみに雷管や少量の火薬を入れて威力を増す構想があったそうですが、コストに見合わずお蔵入りになったそうです。 せっかくなので、本作ではそれを『エイシス』という形で異世界に蘇らせてみました。やっぱりかっこいいですよね、ガンブレード。
「面白い!」「クウォンたちの続きが気になる!」 そう思っていただけた方は、ぜひ下にある【★(星)】や作品フォローでの応援をお願いいたします!🙇💦
皆様からの応援やコメントが、毎日の執筆の最大のモチベーションになっています! 次回もお楽しみに!
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