マニキュア

ネイルサロンは行かない

爪は女の最終兵器

銃をあしらう兵士のように

自分の武器は自分で磨く

オイル塗って甘皮処理

軽く磨いてベースコート

もう秋だからくすんだ紅に

トップコート塗って

乾く暇に歌うビートルズ

出鱈目な英語で“エリナ・リグビー”

哀しい歌詞への冒涜かしら

リンゴかポールに笑われそう

爪はそう長くは伸ばさない

料理の時にちょっと邪魔

自分が食べる分だから

焼いたり煮たり　手袋もせず

あなたと住んでいた頃は

素爪に深爪　荒れっぱなしの手

ハンバーグ素手で捏ねるの？って

引かれて若干ムカついた

それが原因でもないのだけど

さよならして2年が経って

あなたは一児のパパになり

私はフルタイムの職についた

カジュアルアクセサリーの

販売スタッフ　朝から晩まで

ピアス、リング、ペンダント

気に入ったら社割で買える

友人にプレゼントのお尋ね

「ブレスレットなどいかがですか？」

女子高校生っぽいその子は

私の手元を見て「きれい」と言う

「ありがとうございます、

こちらは雪の結晶モチーフの

冬限定モデルになります」

「ネイルとすごく合ってます」

接客側が赤面してどうするの

今朝塗ったばかりの青銀ラメ

年下の女の子に褒められて

こんなに嬉しいものなんだ

「ええと、自分で塗ってます」

販売と関係ないトーク

「え、仕上がりすごい良いです」

合わせてくれる気のいい娘

「乾くまで焦らない事がコツです」

（ビートルズでも歌ってさ）

「うん、じゃ、これにします。

あとネイルどこのか教えて下さい」

ハロウィンが終わって

感謝祭はあまり関係ないけど

クリスマスに向けて忙しくなる

恋人達がペアリングを探す

エリナ・リグビーは教会で

哀しい夢をみてたけど

私はちょっとだけ

前に行ける力をもらった

今日も爪を染めて

必要なら研いで

世の中なるものと

私は格闘しに行くけど

戦ってるのはもちろん

私だけじゃない

いつか

自分を守るためだけじゃなく

誰かを守るために戦いたい

いつかね

自分で自分を寂しく

してしまわないように

エリナ・リグビーみたいに

孤独に葬られないように