第2話 公安のトップ

 俺は、Ⅾ班のリーダー兼ジンキ教育係の荒木あらきという男についていくことになった。


「なあ、ラッキー。公安って何すんの?」

「お前、なんだその呼び方」

「んー、荒木だから、ラッキー?」

「はあ、なんでよりによってラッキーなんだよ……。まあ好きに呼べ」

「分かった。そういえば、俺、お前じゃなくてジンキ」

「はいはい。分かったよ、ジンキ」


 六課長室ろっかちょうしつを出てから、三〇分ほどラッキーに公安の中を案内してもらっている。まだ会って間もないけど、ラッキーはなんか嫌いじゃない。馬鹿力だけど、話すときは顔見てくれるし、馬鹿力だけど、意外に優しい。


「んで、公安って何すんの?」

「公安といっても、いろいろ課があってな。俺らの六課は、別名『冥界対策課めいかいたいさくか』って呼ばれている」

冥界めいかいって、死んだ後の世界だよな? どこにあんの?」

「なんたって死後の世界だからな、具体的な場所は分からん。ただ、六課で研究が進んでいて、鏡から冥界めいかいへ行けることが分かっている。死者や怨獣おんじゅうに触れて一週間以内というリミットはあるけどな」

「へえ、冥界めいかいって楽しいのかな?」

「さあな。一応言っておくが、軽い気持ちで冥界めいかいに行ってみようとか思うなよ。現世の人間が冥界めいかいに行くのは、『冥界下めいかいくだり』といわれている禁術きんじゅつだ。うわさじゃ、現世の人間が冥界めいかいに行くと、『冥界めいかいの番人』ってやつに寿命を吸い取られて、あげくは冥界めいかいから帰ってこられなくなるらしいからな」


 冥界めいかいにはちょっと興味があるけど、寿命を吸い取られるのは嫌かな。せっかく願いが叶って、理想の人生を生きられそうだし。


「そっか、分かった。じゃあ、怨獣おんじゅうって――」

「すまん。あとは、追々おいおい説明する。まず、ジンキは片桐かたぎりさんのところへ挨拶にいってこい」

片桐かたぎりさん……って誰?」

「公安のトップだ。お前を公安に拾ってくれたのも片桐かたぎりさんだ」

「じゃあ、恩人だな」

「ああ、それが分かればいい。今まで、あの人が怒ったところを見たことはないが、失礼のないようにな。俺はジンキの入隊手続きをしてくる。んじゃまた」




 ラッキーが言っていた片桐かたぎりさんという人の部屋を探してみたけど、公安本部は広くて迷子になりそうだ。

 ここは……なんか人がいっぱいいるな。


「本日、戸籍に死亡の記載がなされた二千百五人について、冥界めいかいで存在が確認されました」

怨獣討伐班おんじゅうとうばつはんの出動要請です! 出動できるのはE班と――」


 みんな忙しそうにしている。俺もいつか、怨獣おんじゅうを倒しにいくことになるんだろうな。




 何度も階段を上り下りしていると、頑丈でデカい扉の部屋を見つけた。これがきっと、公安のトップの部屋だ。俺もいつかトップになって、ここに住みてえな。とりあえず、ノックしてみよう。


――トントン。


「はい、どうぞ」


 優しいけど、落ち着いた声だ。さすが公安のトップ。かっけえ。


「失礼しまーす」


 部屋に入ると、外を見てコーヒーを飲んでいたおじいさんがゆっくりこちらを振り返る。しわが刻まれた顔にあごから伸びた白いひげ、ビシッと着こなしたスーツが、まさに公安のトップって感じだった。


「おお、ジンキくんじゃないか。もう体は大丈夫なのかい?」

「刺されたときはマジで死んだと思ったんすけど、もう大丈夫っす」

「さすが、殺し屋の子は体が強いんだな」

「そういえば、片桐かたぎりさんはなんで俺のこと知ってるの?」

「ふふ、公安のトップをなめちゃいけないよ」

「ふ~ん、公安ってすげえんだ」

「ジンキくんには、怨獣討伐隊おんじゅうとうばつたいとして怨獣おんじゅう駆逐くちくしてほしいんだ。怨獣おんじゅうの出現以降、この国の人口はどんどん減り、今や五千万人を切っている。そんな人口減少を食い止めるためにも、殺し屋で培った体力や技術を存分に活かして頑張ってね」

「分かった、任せて」


 片桐かたぎりさんの机の上には写真立てがあり、一人の女性が写っていた。


「ねえ、この女の人って片桐かたぎりさんの彼女?」

「はっは。彼女だったのは、もう昔の話だね。結婚したから、妻かな」

「人を好きになるのって、どんな感じ? 俺、学校にも行ってないから、そういうのよく分かんないんだよね」

「もう還暦になるじいさんにそんなことを聞くのか。面白いね、ジンキくんは。……そうだね、その人のためなら、なんでもしてあげたいと思うよ。たとえ周りが敵だらけになっても、世界が滅びようとも、その人といられるならそれでいい」

「へえ~、すげえな。じゃあ、百万円ちょうだいって言われたら、あげるの?」

「百万円でも、一千万円でもあげるさ。もう、わがままは言ってくれないけどな……」


 片桐かたぎりさんは、写真を見て悲しそうにしていた。百万円あげたかったのかな? 百万円あったら、どれくらいうまいもん食えるかな……。


「ジンキくんには、期待しているよ」

「おっけい! 家もうまいもんもくれるし、頑張ったらシキさんがデートしてくれるらしいから、俺めっちゃ頑張るよ!」


 片桐かたぎりさんは優しく微笑み、再び窓の方を向いて街を見下ろしていた。


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2026年1月2日 18:00
2026年1月3日 18:00
2026年1月4日 18:00

怨獣討伐隊 宮城ヒカゲ @h_miyagi

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