4、侵し足り得る感情
囁かれているような――単調な機械音。
ほんの僅かな音が徐々に大きくなってくる。
霞む目を腕で塞いだ。
「うぅーん……」
パタパタという足音が部屋の外から聞こえてくる。
母さんは取材で昨日からヨーロッパだし、父さんは早朝から仕事のはず。
全身に這い寄る寒さで固まってしまう。
コンコンコン――軽いノックが部屋に響く。
『おーい、颯太郎迎えにきたぜー』
少し低いボーイッシュな声が俺を呼ぶ。
相手が分かれば一気に肩から力が抜けていく。
「なんだよ……びっくりさせやがって――勝手に入ってくんなよ」
溜息も出る。
先に電話寄越せっての、強盗かと思ったじゃん。
俺が気だるく返事をすると扉が開いた。
耳に少し髪がかかる長さで、青みがかった黒髪。垂れ目にそばかすの幼なじみ――
俺の机にカバンを置く。
チャックが少し開いたままで、隙間からぬいぐるみが見えていた。
中学の頃、クレーンゲームで俺がゲットしたゲームキャラだ。
高校生になってもまだ持っているなんて、子供っぽい。
「うぃーすおはよ、今起きたばっかりかよ」
ニヤリと笑いやがる。
「うっせ、おはよう……」
俺は寝ぐせを手で直し、制服に着替えた。
昨日買い足したパンを食べてから、優雨と登校する。
いつもと変わらない日々のなか、欠伸をする。
「颯太郎、昨日の転校生ともう話した?」
優雨から投げられた話題に、口がムッとなる。
頭の中に転校生の輪郭が浮かび上がる。どこから来たか知らないが、背が高く胡散臭いほどに爽やかな外国人。
昨日はみんな――特に女子がキャーキャー騒いで転校生に群がっていた。
「話すことねぇよ」
優雨は眉をひそめて傾げる。
「同じクラスだろー? さすがに名前ぐらいは、覚えてるよな?」
覚えてやろうって気概もなかったが、周りが洗脳みたく話題にするから嫌でも頭の中に叩き込まれている。
「……マテオ」
「そうそう、マテオ。私もまだ話せてないからさ、落ち着いたら話しかけてみようぜ」
「えぇ……」
どうにも俺は転校生と肌が合わない。
外国人だからというざっくりしたものじゃないが、説明のしようもない――。
校舎二階、教室前の廊下。
喉が重くなる。
目の前で話題の転校生が、女子数人に囲まれていた。
さらさらの短い金髪。背は高く、瞳は青い西洋画のモデルにもなりそうな存在感。
そんな奴が毒のない笑顔を振り撒いている。
マテオを囲む一人が、頬を赤らめて言う。
「マテオ君は何が好き?」
そんなもん聞いてどうすんだよ。
耳を突き刺すような声で、質問が飛び交う。
隣でマテオの様子を眺めた優雨は、感心したように頷く。
「へぇ、しばらくは近づけそうにないな」
「知るかよ……」
「なんだよ颯太郎、もしかしてマテオに妬いてんのかぁ?」
「うるせ」
優雨の後ろ髪をくしゃっと鷲掴みにしてやった。
「ちょ、やめろよ髪崩れるって」
そう言いつつ、優雨は笑いながら軽く手を払う。
小さい頃からずっと変わらないやり取りに、俺も笑う。
「はいはい、じゃあまた後でな」
優雨と別れて教室に入ると、
「おはよう」
後ろから爽やか極まりない声が飛んできた。
カバンを握り締めながら振り返ると、案の定マテオがいた。
こいつの後ろには、まだ聞き足りないとばかりに惜しむ奴ら。
「……はよう」
だるく挨拶を返した。
俺の反応を見て、マテオは胸に手を当てながら微笑んだ。
「良かった、君とは昨日話せなかったね。えーと名前は――」
「
「名前は?」
「……颯太郎」
「OK颯太郎だね。改めて僕はマテオ、よろしくね」
傷のひとつもない、大きい手が伸びてきた。
疑うことを知らない青い瞳——吸い込まれそうになり、視線をマテオの首元に向けた。
「あぁ……」
そっと手を伸ばすと、予想以上の力で握られてしまう。
手のひらに食い込む指圧に、一瞬だけ俺の目元が歪む。
「いてっ」
「あぁごめん、つい嬉しくて力が入っちゃったや」
マテオは力を緩めて握手をし直す。
さっさと離せよ……早く端っこに行きたい――。
マテオは最初から日本語が流暢で、日本の文化にもすぐに馴染んだ。
「マテオ、帰りにゲーセン寄らね?」
最初こそ女子ばかりだったが、今じゃ同性もマテオと仲良くつるむ。
「ゲーセン。いいね、新しいのがあるといいなぁ」
目を輝かせて前のめりのマテオに、クラスのカースト上位たちがぞろぞろと集まり出す。
マテオのカバンにはデフォルメしたカエルのキーホルダーがついている。
「前に、自転車乗ってるカエルあったよね」
「本当かい? じゃあ急いで行かなきゃ! そうだ、颯太郎も一緒に行かない?」
突然みんなの視線が俺に集まった。
「あぁ、えーっと」
行きたくねぇよ……。
うまく断る方法も思いつかずに唸ってしまう。
傾げるマテオと、周りの半分しらけそうな表情が突き刺さる。
「うぃーす、颯太郎。そろそろ帰ろうぜー」
心の底から安心できる声に、唇が僅かに緩んだ。
優雨はみんなに手を振り「おーっす」とフレンドリーに対応しながら俺の側へ。
さすが優雨、良いタイミングで来てくれた。
カバンを手に立ち上がったのと同時、マテオが優雨に微笑んだ。
「君は……颯太郎の友達だねっ」
優雨の視線がマテオに向いた。
喉元をキュッと締め付けられる感覚に、何故か血の気が引いてしまう。
優雨はボーイッシュな笑顔を振り撒いて、自身の顔を指す。
「そっ、優雨。優しい雨と書いて優雨だ。マテオはもう人気者だし、隣のクラスだからよく知ってる」
名前の漢字を聞いた途端、マテオが食いつくように近づいてきた。
「素敵な名前だね、優雨。きっとカエルにも好かれるよ」
目が点になった優雨は、数秒ほど間を空けて笑いだした。
「カエルにぃ? 雨だから? あはははっなんだそれ」
訳の分からないこと言ってる奴に、なんで笑うんだ?
なにひとつ面白くない。唇が強く閉まる。
「颯太郎も優雨もゲーセンに行こう。もっと仲良くなりたいんだ」
マテオは懲りずに誘ってくる。
ちょっと自己紹介しただけで、いきなり誘うなんて強引過ぎるだろ。
優雨はチラッと俺に視線を向けた。
「どうする? 颯太郎」
「……勝手に行けよ」
行きたくない。
行ってほしくもない。
言葉を雑にしか出せず、俺は急いで教室から逃げた。
優雨がハッキリ断ってくれたらいいのに――階段を勢いよく駆け下りて、昇降口の靴箱へ。
「おーい!」
追いかけてきた優雨に、多少胸が軽くなった。
優雨は小さく傾げて、不服そうに眉をひそめていた。
「置いてくなよなぁ」
「あいつらと行けばいいだろ、ゲーセンに」
外靴に履き替えながら、粗くぼやいてしまう。
俺の隣に並び、優雨は呆れた表情を浮かべている。
「なんだよその態度。マテオになんか言われたのか?」
何も言われていない、いつも挨拶だけだ。
「別に、ちょっと苦手なだけ」
「ふーん、人当たり良さそう奴じゃん。ちゃんと話せば苦手意識も薄れるって」
優雨に軽く背中を叩かれた。いつもの表裏のない笑顔が俺を見る。
大丈夫だ。喉の通りも問題ないし、脚も軽い――。
マテオが来てから一ヵ月が過ぎた。
すっかり馴染んだマテオの側にはいつもカエルのグッズがあり、クラスの奴も何人か持ち始めている。
教室のどこにいてもちらつく存在感。正直、鬱陶しい。
全員と仲良くなりたいのか知らないが、何度も俺に話しかけてくることもあった。
どうしてこんなにマテオのことを不快に思っているのか、俺も不思議でならない。
顔面偏差値が高く、人当たりも良い変わり者。
ただそれだけのことなのに……。
「やぁ優雨。この前はありがとう!」
マテオは教室に入ってきた優雨を呼び止め、爽やかな笑みを向ける。
この前? 眉がピクリと動く。
優雨はニコッと笑う。
「あーいいよ気にしなくて」
軽く手を振ってから、俺の席にやってきた。
「おーす颯太郎。ほら、さっさと帰ろうぜ」
「……あぁ」
席を立つ腰が重い。
階段を下りて、昇降口で靴を履き替える。
他の奴がいない登下校の道で、ようやく口が開く。
「マテオと何かあったのか?」
「ちょっとした相談。人付き合いが多いとそのぶん悩みも多いんだってさ」
だったら他の奴らに相談すればいいのに。
「わざわざ、なんでお前に」
「颯太郎が知らないだけで、私はいろんな人の相談に乗ってるんだぜ」
腕を組み、自慢げに笑う。
人望があるのは知っている。
けど、面白くないんだ――。
また別の日。
優雨の家へ、借りていた漫画を返しに来た時だった。
玄関横にある棚上に目がいく。同時に指先から漫画が滑り落ちそうになり、咄嗟に力を込めた。
棚上には、二本足で立ち『welcome』と書かれた看板を抱えたカエルの置物があったのだ。
体内の血がドクドクと激しく動き回る感覚に襲われる。
気付けば足は階段を駆け上がり、優雨の部屋を押し開けた。
「うぉっ! びっくりしたぁ。なんだよ颯太郎、ノックぐらいしろよな」
勢いよく開いた扉に、優雨はベッドから跳ね起きた。
俺はすぐに部屋の隅から隅を見渡す。
漫画や参考書が散らかった机と、ベッドの上にはチャックが開いたままのカバン。
大丈夫、いつもの部屋だ。
「漫画……返しにきた」
優雨の頭に軽く漫画を置く。
「ちょっ、普通に返せよなぁ」
眉を下げて笑う優雨は、ベッドから下りて漫画を本棚に戻す。
彼女の動きを目で追いつつ、息を吐き出して呟いた。
「なぁ、玄関にカエルの置物あるけど……」
「あーあれマテオがくれたんだよ。私の名前とカエルは相性がいいとか言ってさぁ」
気持ち悪さが込み上げてきて、必死に喉元を押さえた。
「……カエルなんか、気持ち悪いじゃん」
「んーそうか? あれ結構可愛いけどなぁ」
「顔が良い変人にプレゼント貰って、浮かれてんのかよ」
俺がそう呟くと、優雨は眉をしかめた。
「颯太郎、どうしたんだ? 最近ちょっと言葉に棘あるじゃん」
真正面から鋭く見つめられる。
優雨にぶつけるつもりはなかった――自分の口を手で覆う。
「棘なんかねぇよ。じゃあな」
逃げるように早足で部屋を出る。
玄関のカエルが、嫌でもマテオと重なってしまう。
なんだってこんなところに飾るんだよ。
そもそもアイツ、なんで隣クラスの優雨に話しかけるんだ?
俺の目の前で話しかけやがって、アイツは優雨が好きなのか?
考えるだけで血の気が下がっていく。
額に冷や汗が滲んだ――。
マテオが来てから半年が経った。
放課後の教室はいつも以上に賑やかで、俺は唇を噛んだ。
どいつもこいつも、マテオが喜ぶだろうとカエルのグッズを贈っている。
「誕生日おめでとー」
マテオは口に手を添え、瞳を潤ませながら微笑む。
「みんな、嬉しいよ。ありがとう! こんなに貰えて、僕はとっても幸せだ!」
そりゃよかったな。こんなものを見せつけられて、俺は胸糞気分が悪い。
いつもなら優雨が教室に入ってきて「帰ろうぜ」って声をかけてくるはずだが、まだ来ない。
いや、むしろここにいたらマテオが優雨に話しかけてしまう。
席を立つと、
「颯太郎、もう帰るのかい? 優雨はまだ来てないよ?」
呼び止められてしまう。
マテオの口から彼女の名前が出る度に、チリチリと胸が焼ける不快感に襲われる。
「あぁ……ちょっと用事」
精一杯の返事だ。
誰とも目を合わせずに、さっさと教室から出た。
「あれ颯太郎、もう帰るのか? 今日ってマテオの誕生日なんだろ?」
同じタイミングで隣の教室から優雨がやってきた。
プレゼント用の小さな袋を持っている。
俺は唸りながら息を吐き、プレゼントから目を逸らす。
「お前もかよ……」
「そんな嫌がるなって、プレゼントを渡したらすぐ帰る」
そう言って気さくに笑い、優雨は教室の入り口に手を伸ばす。
優雨の目が違う所を見る――咄嗟に手首を掴んでしまった。
「いたっ」
か弱い声にバッと手を離す。
プレゼントが床に落ちてしまう。
「あ、わ、悪い」
優雨は自分の手首を握りしめて、小袋を拾う。
怒っている様子はないが、口角を下げている。
何も言わずにマテオがいる教室に入って行く。
『優雨もプレゼントを? ありがとう!』
喜ぶマテオの声が壁越しに聞こえてくる。
耳を塞いだ。
優雨は短いやり取りを終えて、戻ってくるなり俺の背中を軽く叩く。
「いてっ」
何も言わずに通り過ぎて行った。
なんだよ……俺がマテオのこと苦手だって知ってるくせに、目の前で堂々と話しやがって――なにひとつ面白くないんだよ。
玄関にずっと飾ってある置物も、プレゼントも気に入らない。
マテオと仲良くする気なんて一ミリもない。
胃の中から気持ち悪さが込み上ってくる。
俺の家に着くと、優雨は「颯太郎」と声を落として呼んできた。
「ちょっと真面目に話そう」
笑顔がない優雨の冷めた眼差しが突き刺さる。
「……真面目にって、話すことねぇよ」
「颯太郎、逃げるな」
どうして俺が言われなきゃいけないんだ。
行き場のない感情が、手のひらをギリギリと痛めつける。
渋々部屋に入れて、俺は息を吐き出しながらベッドに座り込んだ。
優雨はいつものようにカバンを俺の机に置く。
チャックが少し開いたままで、隙間から見えたぬいぐるみに目が奪われてしまう。
デフォルメされた両生類のぬいぐるみ。
体中の熱が一点に集まろうとしている。
爪が食い込むほど両手を握りしめ、僅かに震えていく。
「……あの変人になんか吹き込まれたのかよ」
俺は振り絞るようにぼやく。
優雨は垂れ目を鋭くさせた。
いつもは優しい笑顔なのに――喉が苦しい。
「マテオは変人じゃない、良い奴だ。別にマテオを庇うつもりもないけどさ、さすがに冷たくし過ぎじゃないか?」
アイツに言い寄られたのかもしれない。
「……」
「颯太郎が苦手意識あって話さないのは全然いいよ。無理しなくていい。でも私がマテオと仲良くするのは別だろ?」
他の奴じゃなくてどうして優雨に近づこうとしているんだろうか。
「なんだよ優雨……アイツのこと狙ってんのか?」
優雨は小さく首を振る。
「あのな、そんな話してないだろ。マテオはただ単にみんなと仲良くなりたいだけ。良い奴だし、私にとっていい友達だ」
俺のささやかな日常と、ほんの僅かなスペースしかない居場所を奪われた気分だ。
「好きだから気に入られようとプレゼント渡したんだろ? カエルの置物だってそうだ。それで、今回はぬいぐるみか?」
「なぁ颯太郎、本当にどうし――」
頭の中で火花が散った。
もう抑えることもできない膨らみが爆発した。
立ち上がった俺は、優雨の肩を力の限り掴んだ。
「いっ――」
壁に押し込んで、優雨を睨みにつけた。
「お前こそなんで分からないんだよ!!」
溜め込んでいた感情で声が大きく、荒くなる。
「痛いっ! 颯太郎お願いだからやめて!」
痛く歪んだ優雨の顔色と弱い声——熱が一瞬にして散らばった。
手を離すと、ブレザーの肩部分にシワができていた。
優雨は壁からずるずると座り込んでしまう。
「あぁ……」
うまく声が出せなかった。
優雨は唇を震わし、両肩を抱きしめる。
「ゆ、優雨、その――ごめん」
震える声でなんとか謝るが、優雨は何も言ってくれない。
やってしまった、頭の中でその言葉が駆け巡る。
髪を掻いて、ゆっくり向かい合うように座り込んだ。
「優雨——ぐぐ」
片方の頬が一瞬だけ冷たくなった。
そのあとすぐ、ぐにゃっと捻られた痛みに変わっていく。
「いででっ!」
瞳を潤ませながら、優雨が俺の頬を抓っていた。
思わぬ反撃に仰け反って後ろに手をついてしまう。
優雨は俺を睨みつけて、一切笑わない。
ジワリ、と俺の目から涙が滲んでくる。
手が離れ、重い痛みと涼しさが残った。
「めちゃくちゃ怖かった。何されるか分からなかった」
「ご、ごめん……俺」
「もうずっと一緒にいるじゃん。ちゃんと教えてよ、言葉でさ」
真っ向から優雨が見つめる。
睨みじゃなくて、真剣な表情で俺の言葉を待っている。
「マテオに――優雨を取られると思った」
声に出すと、すげぇ恥ずかしい言葉だと思う。
優雨は「うん」と相槌を打つ。
「俺、友達いないし……優雨が全部で、優雨が、優雨が――」
途中で分からなくなってきた。
優雨が誰かと仲良くしてるのは、いつものことだ。
当然男友達だって普通にいるし、遊んでいる。
「自分の空間に入ってほしくなかった、とか?」
「それも、ある……」
もっとちゃんとした言葉があるはずだ。
「マテオが、優雨に近づこうとしてるのが嫌だった。他の奴と違うんだよ、距離の詰め方が。優雨に色々と物あげてさ」
優雨は茶化すこともしないで、黙って聞いてくれる。
「だから――マテオは優雨のことを好きなんじゃないかって」
「私を? えぇ、そんな風には見えなかったけどなぁ」
優雨は傾げながらジト目で考え込む。
マテオも優雨もフレンドリーで社交的だ。考えたくないが、お似合いだと思う。
応援なんかしたくないし、付き合ってほしくもない。
「優雨がマテオに笑顔を向けているのも嫌だった」
じゃあ、俺は優雨をどう見ている?
ちらっと優雨の表情を覗く――いつになく真剣に俺を見つめる垂れ目とそばかす、そして控えめな口元。そのすべてが明るい光に包まれている、気がした。
「——あ」
心臓を締め付けられる感覚に、熱が込み上げてくる。
このまま見続けたら一気に心臓が縮んで、張り裂けてしまうかもしれない。
怖くなって目を伏せてしまった。
「あ、あぁ……あ」
「大丈夫か、颯太郎」
俺と優雨は幼なじみで、家族のように当たり前の存在だ。
今この気持ちを認めてしまったら、どうなるんだ?
考えただけで言葉がうまく出せなくなってしまう。
そんな俺を見て、優雨は小さく溜息を吐いた。
「話してくれて良かった。でも、さっきのは絶対ダメだからな、次はああなる前に話してくれよ。私たち幼なじみだろ?」
今、俺の中で幼なじみが揺らいでいる。
何か言い返そうとしても、口はパクパクと動くだけだ。
「言っとくけど、マテオは私に相談しにきてたんだ。颯太郎と友達になりたいってさ――マテオのあの感じは颯太郎と相性悪いよな。仲良くしろとは言わないけど」
優雨は膝に手を添え立ち上がると、カバンからぬいぐるみを取り出す。
自転車に乗ったカエルのぬいぐるみと、俺があげたゲームキャラのぬいぐるみ。
「まずはマテオにちゃんと伝えた方がいいぜ。ちなみにぬいぐるみは、相談のお礼ってところ」
両手にぬいぐるみを持ちながら、優雨は気さくに笑ってくれた。
「あぁ……まぁ、うん」
やっと声が出た。
顔があっつい。俺は前髪をくしゃくしゃに乱した――。
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