▍一、トイレの花子さんの噂

どこの学校にもある「花子さん」の噂だが、■■中の花子さんは少し様子が違う。

三階女子トイレの三番目の個室の、天井近くを見てはいけない、と言われている。

放課後、暗くなってからその個室に三度ノックしてから入ると、まず換気扇の音がいつもより大きく聞こえ始める。

やがて、すぐ頭上あたりから、細い誰かの声がする。

「かえして」

思わず見上げると、蓋が外れた通気口からおかっぱ頭で青白い顔の虚ろな表情の女の子がぶら下がってこちらを見ている。

逃げ出そうとすると、足が床に貼り付いたように動かなくなり、世界がゆっくりと逆さまにひっくり返る。

次の瞬間には、自分が天井の側にいて、便器の上に座っている自分を見下ろしている。

自分の手足は、見えない紐できつく縛られている。

そういう幻を見て、我に返ったときには数時間が経過しており、真夜中になっているのだという。

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