第8話 喰らうは過去

『回れ右して転移者達を喰らえ』

「は?何言ってるんだ?」

『俺の与えた権能は俺の名を冠する暴食。これは喰った相手のスキルやステータスを我が物とするスキルだからな、喰って強くなれ』


知ってる人を喰らう…?まぁ快とな鏡花は生きてるから大丈夫だけど知り合いではあるんだぞ?そいつらを喰うって…うッ!吐き気が…


『何演技してんだ?罪悪感はあっても嫌悪感や悲しいとかあんま感じてないだろ?精神が半分悪魔になってるからな』

「…」


確かに皆んなの死体を見ても何も感じなかった。俺はこのまま人間性を失うのか?ただ強くなるために人を喰らう化け物に成り下がるのか?


『早くしないと不味くなるから早く喰いに行け!何なら俺が喰ってやろうか?体を受け渡せば喰ってやるよ』

「そんなことできるのか?」

『大罪舐めんなよ?そのくらい簡単だ』


なら頼んだ方が良いのかもな…強くなりたいのは同意だが人を喰うのは人間性が薄れた今の俺でも抵抗があるし。


「派手に喰い散らかしたりすんなよ?埋葬するから」

『チッ、まぁ魂と肉体の一部を喰えばスキルは発動するけど…』


体を受け渡すってどうすれば良いんだ?てか乗っ取られてる間は俺の意識はあるのかな。抵抗があるはずなのに少しワクワクしてる自分が怖い…


『よし!じゃあ力抜けよ?腹減ってんだから早く喰わせろ』

「力を抜く?こんな感じ…か──?」


力を抜くといきなり意識が薄れて電源が切れたかのように視界が暗闇に染まった。乗っ取られてる間は意識が飛ぶのか…覚えておこうか。


ゴキッ


肩の音を鳴らし久しぶりの魔力で作った仮初の姿では無い生身に高揚して軽く準備運動をする。体は似ても似つかないがやはり悪魔の才能があるようで不思議と体に馴染むようだった。


「ん〜!やっぱ生身は良いねぇ!腹も減ったし転移者喰いに行くか!久しぶりの食事だッ」


シュンッ


蓮兎の体とは思えないほどの速度で来た道を戻る暴食。体の使い方や補助魔法を掛けているから実現できている速さなので体の負担は少ないようになっている。暴食なりに考えているのだろうか?


「ここか」


散乱した死体はほとんどが身体のどこかを欠損していた。血や死体が散乱した光景は正に地獄と言う言葉がピッタリだろう。


スタスタ


その死屍累々たる部屋を歩き中央に着くと満面の狂気が伺える笑みで死体に喰らい付いた。


◇1時間後◇


口からは血が滴り落ち服には返り血が大量に付着している。そして辺りには喰い終わった肉塊が乱雑に置かれていた。


「うぷっ…」

『吐き気か?あんな美味だったのになぁ』


喰ってる間の記憶は無いが自身が人を喰らったと言う事実は変わらない。俺は上がったステータスやスキルと引き換えに人間性を失いつつあるのかも知れない。


『おいおい大丈夫か?吐くなよ?自分に救助エイル掛けとけ』

「うッ…エ、救助エイル…」


落ち着くまで暫く掛かりそうだな…これからこう言うのに慣れてかないといけないのか?俺は人間のまま100層まで攻略できるだろうか。


『ちょうど良いじゃねぇか。これを機に日本に住んでた自分とはおさらばしてこの世界でのお前に生まれがれ』

「そう簡単に言ってもなぁ?純日本人だぞ、俺」

『別に日本を忘れろと言ってるんじゃ無い。人間性とかほざいてるがそんなのオグルス大迷宮ここじゃ役にたたねぇからな、過去を喰い破れ。今だけを生きるのに全神経を使って俺の役に立て』


確かに暴食こいつが言ってることも分からなくは無い。人間性を捨てないとこんなとこで生活なんでとてもじゃないが無理だし…今までのように温かいご飯もふかふかベットと何も無いこの洞窟で俺はどう生きれば良いんだ?


「分かったよ、俺はこの迷宮で生きる為に人間性でも何でも捨ててやるッ!命あれば何とかなるだろ!」

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