第5話 国盗り

 ガキッ! ガキィィン! ゴキィーンッ!


 激しい剣劇が繰り広げられた。

 霊力が込められた刀と刀がぶつかり合い、蒼い火花が散った。


 詠唱中の狐狗狸は冷静に、戦いの様子を眺めていた。


(……さすがに強い……。百万鬼夜行を使って尚この強さ……。せめて、『朱雀鳳刀』があれば……)

 

 一瞬の油断――。剣劇中の無明の横を――蘆屋 道満が抜き去った。


「――ッ!」

 

 印を組み詠唱中で動けない狐狗狸に近接し。


「――その術……止めさせてもらいますよ」

 

 残り少ない霊力を込め、凶刃の一太刀を浴びせる。


 ――ガ ギッッ――!


 だが――その一太刀を、無明が間に入り防いだ。

 鍔迫り合いながら無明は、空いた左手を、詠唱中の狐狗狸に伸ばす。


「こ、狐狗狸さん……その、すいません……。な、中の奴が、あなたの中に……『朱雀鳳刀』があるって……」


「?」


 きょとんとする狐狗狸のお腹に触れ――。


「んっ!」


 そのまま霊体化した左手を、お腹の奥に沈み込ませた。


「んん〜〜〜~っ!」


 差恥心で無名以上に顔を真っ赤にして呻いた。


 お腹に突き入れたままの左手をごそごそと動かすと、コツンと硬い感触が指先に当たる。


「み、見つけた……!」


 抜き去った左手には、『古びた刀』が握られていた。

 狐狗狸は、こんな場所に大切な刀を隠していた者に激怒する。


(こ、こんなところに、隠していたのかァァッ、晴明ェェ――ッ!)


 怒りの矛先を睨むと、その者は優雅に微笑んだ。


「――違いますよ、狐狗狸……」


「――!」


 二本の刀で、蘆屋 道満と斬り合う無明が――いや――。


「――その『朱雀鳳刀』を隠していたのはあなた自身です。あなたは、その記憶を『封印』していたようですが……」


 正体に気づき狐狗狸はわなないた。


「お、おまえは……まさか……!」


 無明の中にいた人物は優しく頬笑みかける。


「ひさしぶりですね、狐狗狸。やっと出てこられましたよ……」


 目の前にいる人物の急激な変化に、蘆屋 道満は瞠目する。


「な、なんだ……この霊力はッ! いったい……貴様は何者なんだ……?」 


 うろたえる妖術師に、最強は余裕の態度でつげる。


「……君こそ、何者なんだい? まあ、それはいずれ……。それでは旧友も見ていることですし、手早く終らせましょうか……」

 

  ―― 四 神 交 剣 ―― 


 朱 雀 熱 殲! 玄 武 鏖 殺!


 水の斬撃と炎の斬撃が、十字に斬り裂いた。


「 ぐ ぎゃ あ あ あ あ あ あ あ ッ! 」


 圧倒的な力量差。勝負は一瞬でついた。


 歴代最強の陰陽師の二撃が、現代最強の妖術師を軽く斬り伏せた。


 倒れ込む道満の身体がグズグズと溶け、


「く、クソッ! 覚えていろ……!」


 床に染み込むように姿を消した。

 

「……やはり……死を司る彼を仕留めるのは容易ではないようですね……」


 決着とほぼ同時に狐狗狸の詠唱が完了する。


「――できたぞ、『十二神将招来』発動――!」


 術者を中心に、半径800メートルの巨大な陰陽陣が展開された。


 裏東京タワーを囲うようにできた陰陽陣の内側に、数百メートルはある如來神将たちが12体出現した。


 そして、手に持つ『超巨大な超重武器』を、冥界の裂け目に向かって投擲する。


 12本の異なる武器が、冥界の亀裂に直撃すると、核爆発に匹敵する破壊の奔流が、上空を埋め尽くす。


 爆発は収縮していき、如來神将たちは陰陽陣と共に消え去った。


 限界以上に霊力を使い果たした狐狗狸の身体は、5歳ほどの子供の姿になっていた。


 元の黒髪ではなく、半妖化状態で大の字で寝転んでいた。


「はあ、はあ、はあ……やったぞ……バカヤロぉ――っ!」


 達成感に大声で叫んだ。

 そんな疲れ切った子狐に近づいていく者が。


「さすがですね、狐狗狸」


 微笑むその者の名を口にする。


「――晴明様………いや、安倍 晴明……。何故あなたは裏切ったのですか?」


 悲しげに尋ねた子狐に、晴明は憂う表情で指先を伸ばす。


「狐狗狸……我は……」


 触れようとした指先が『ぐにゃり』と折れ曲がり―――


 『 魔笛 咲々候 』


 〜〜美しい笛の音と共に、晴明の身体がぐにゃぐにゃと折れ曲がっていく。


 そして、首がゴキッと折れ曲がった瞬間――晴明の身体はヒトガタの紙に変わった。

 晴明お得意の式神の術である。

 

 半妖化して魔笛を吹きながら血狐は、姉を守護するように、微笑む晴明の前に立ち塞がった。


 二本の刀を構えて最強は優雅に宣言する。


「 さあ、国盗りを始めましょうか 」


 最強の陰陽師の戦いが今始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

陰陽師の国守 佐藤ゆう @coco7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画