第10話 プロ幼馴染、夏雪真白(なつゆきましろ)は気にならない?

「ふぅ」


 緊迫の銀河ミーティングを終え、天を仰いで一息ついた。


 約1時間の定例会議。

 今回は、僕がイニシアティブをとれた話し合いだったので少し気分がいい。


「15時過ぎか……」


 PCの右下に表示された時間を確認し、今日のスケジュールを考えてみる。


「そういや美桜のヤツ、今日は家でご飯食べるんだろうか」


 さっきは納豆ご飯でも食わせとけ、みたいなことを言っていた僕だが、さすがにそういうワケにもいかんだろ。


 一応、リクエストあるかメールで聞いておくか。できれば冷蔵庫の余った食材で作れるメニューにしてくれるとありがたいんだが。



 ……返信、はやッ!



 毎回秒で返ってくるんですけど。

 ずっとスマホいじってんのか、美桜のヤツは。


 まぁ、レスポンスが早いってのは仕事ができるヤツの証。フリーターとはいえ、美桜にも和彦さんの血がしっかり流れているのだろう。



 “今日は納豆ご飯が食べたい”


 

 ああ、うん。そうですか。はい。


 なんだかんだ、美桜は僕が作ったものを美味しいと言って食べてくれてたから、今夜も料理頑張ろうって少しは思えてたんだけど。


 そうですか。納豆ご飯でいいんですか。


 了解、です……



 ……ん? 誰だろ。



 今、なんかチャイムが鳴った気がしたけど、配達の人でも来たのかな?


 なんか頼んでたっけ? 母さんの荷物かな。


 居間のモニターで誰が来たのか確認しに行くのも面倒だし、そのまま玄関出るか。


「やあやあ、圭ちゃんお久しぶり! お隣の超絶華憐美人、夏雪真白なつゆきましろ様が遊びに来てやったわよ!」


「……」


「ちょ、ちょっと! なんで扉、閉めようとしてるのよ!」


 めんどくさいのが来てしまった。


「お前さぁ。来るときは電話しろっていつも言ってんだろ?」


「ふっ。甘いわね、圭ちゃん。人生と言うのは、唐突なモノなのよ」


 相も変わらずワケのわからんことを……


 ああ、不本意ではあるが一応紹介しておこうか。


 彼女の名前は夏雪真白。僕の家の隣人で幼馴染。腐れ縁。おバカ。


 顔は小動物系で可愛らしい。スタイルもかなりいい。髪は白のセミロング。


 彼女とは赤子の頃からの付き合いだ。言うなればただの隣人ではあるが、本当の兄妹のように育ったとても近しい存在だ。だから異性としてはまったく意識をしていない。


 以上である。


「僕は忙しいんだよ。遊ぶのはまた今度にしてくれないか?」


「私は暇なのよ。遊ぶのは今からにしてくれないかしら?」


 ひとつ付け加えておく。

 彼女はすぐにこういう言葉遊びで僕の発言を度々返してくる。


 昔からあっけらかんでひねくれていて、性格がいいとは決して言えない。


 でも、彼女のこの性質。

 僕は別に嫌いではない。むしろ今でも結構楽しいと思っていて、割と好きで心地よくもあったりする。


「いやさ、僕はこれから買い物に行かなくちゃいけないの」


 家にあるものだけでも夕食は作れるのだが、明日は僕も大学とバイトで1日家を空けるから、出来れば今日中に食材ストックを買い溜めして、余力があれば明日以降の作り置きとかもしておきたい。


 うん。やっぱ遊んでいる暇はないな。


「えー。じゃあ、私も買い物一緒に行くッ!」


 なるほど。そうきたか。

 だが……


「いや、いい」


「なんでよ! 私、スーパーの店長さんと仲いいから、この時間でもお刺身に半額シールとか張ってくれるかもよ?」 


 さすがというかなんというか。


 真白はこういう明け透けな性格で見た目もいいから、老若男女問わず非常にモテる。しかも本人はそのことに気が付いていないというオマケつきだ。


 たしかに、そういう事情なら連れて行っても損はない気もするが……


 あーいや、やっぱそういうのは良くないよな。というより、出来合いの刺身や総菜を僕の食卓に並べるつもりはないから、その特典はあまり意味がないな。


 もし刺身が食べたいなら、僕は魚を数匹買って来て自分で捌いて出す。


「今日は帰りなよ。また今度遊んでやるから」


「えー今度っていつ?」


「あー……来週?」


「無理! ただでさえ、最近圭ちゃんと遊んでないに! 私、しばらく圭ちゃんを接種してないと過呼吸で倒れちゃうんだよ? それでもいいの?」


 壮大な嘘である。

 てか、その接種って言い方やめれ。僕はワクチンではない。


 まったく。しょうがないな。


「はいはいわかりましたよ。んじゃ、来週の日曜日にでも……」


 ん?

 え、ウソ。


 真白の後ろからウチの玄関に向かって見慣れた人影が迫っている。ちょっと早すぎないか? 夕方って言ってたじゃん。まだ15時過ぎだよ?


 もう帰ってきやがったのか。


 美桜のヤツ……


「……アンタ、誰?」


「いや、あなたこそ誰よ」


 美桜と真白。

 いずれ出会う運命は免れなかったとはいえ、このタイミングでその邂逅を果たしてしまったのは完全に想定外。


 現状、まったくなんの言い訳も考え付いていない。


 ど、どうしよう……


「あ、ああッ! こ、この子は志村美桜ちゃんって言って、僕の親戚の……」


「はぁ? なに言ってんの、おに……んぐぅ!」


 黙れ、義妹。

 話を合わせるんだ。


 ややこしくなりたくないだろう? 敵は強大なんだぞ!


「(この子は幼馴染の夏雪真白! 面倒なことになりたくなかったら、とにかく僕に話を合わせて!)」


 義妹の口をいきなり両手で抑え込みながら、彼女の耳元で僕の脳にひらめいたぽっと出の作戦を伝えてみる。


「(わ、わかったわよ。もう……)」


 お、意外にも聞き分けが良くて助かった。

 てっきり罵倒と暴力を覚悟して思い切った手段を使ったのだが。


 ん?

 なんか触れている口元の体温が少し温かいけど、大丈夫か? 美桜。


 ちょっと熱っぽい?


「ああ、親戚の子かぁ! 仲いいんだね! いとこ? あ、初めまして。私、夏雪真白って言います! ……えっと、あなた、お名前はなんていうのかなぁ?」


 矢継ぎ早に状況を勝手に解釈し、自己紹介を始める真白。とりあえず、こういう場合は親戚と言っておけ作戦は功を奏したようだ。


「ぷはぁ! ……あ、初めまして。私は志村美桜っていいます」


「美桜ちゃん! よく見るとお人形さんみたいなご尊顔ですっごい可愛い!」


 ご尊顔言うな。


「あ、ありがとうございま……」


「あーっ!!」


 な、なんだ、急にどうした!?

 夏雪真白!?


「なーんか美桜ちゃんのその独特なアニメ的ボイス、どこかで聞いたことある気がするんだけどなぁ……」


「え゛」


「どこだったかなぁ……」


 アニメ的ヴォイスだとはまったく思わないが、聞いたことあるって点については僕も覚えがある。


 一瞬、星空ミチルのビジュが頭に浮かんだ。


 多分、声質は似ているんだろうな。

 性格は天と地ほども違うけど。


「げ、げいぐん……わだじ、なんが、だいぢょうわるいみだい……」


「えっ? 美桜、急に声が……」


 義妹の声がいきなり激変した。

 ガラガラ声で、おそらく体調が芳しくない旨を伝えてきた。


 身体も若干、ふらついている。

 やっぱ顔が熱かったから、微熱があるのかもしれない。


「わー! 美桜ちゃん、大丈夫??」


「無理……」


 これは遊んでいる場合ではないな。


「そういうことだ、真白。今日のところは勘弁願いたい。また連絡するから」


「そうね。そうさせてもらうわ。あ、じゃあもしまだしばらく圭ちゃんのウチにいるなら、美桜ちゃんも交えて今度一緒に遊ぼうねっ!」


 そう言って、真白は手をブンブン振りながら自宅へと帰って行った。





「ナイス演技だったでしょ? 私」


 真白の姿が見えなくなると、また急に身体をシャキッと元の状態へと戻し、さっきの行動が偽りだったことをほのめかす義妹。


「いやいや。多分熱あるよ、美桜」


「な、ないわよ。私、疲れたからすぐシャワーしてちょっと寝るね」


「シャワー……」


 一瞬、昨日の赤の悲劇が僕の脳内をよぎった。


「じ、自分の服は自分で洗うからっ! さ、さすがにまだ恥ずかしいの、わかるでしょ?」


「あ、ああ。そうだね……」


 また少し顔を赤らめる義妹。

 洗濯の件はとりあえず了解したけど、それより体調が悪い時にシャワーをすると、余計免疫が下がって悪化する恐れがあるけど大丈夫なのかな?


「覗いたら処すからっ! そ、それじゃあね……」


 そう言い残し、美桜はバタバタと家の中へ入り、一直線で自室せいいきへと帰って行くのであった。

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