第9話 星空ミチル銀河ミーティング in デスコード
昨夜の星空ミチルと月詠いろはのコラボ配信は大盛況だった。
質問読みだけのまったり配信をする予定だったのだろうが、ミチルのパンツの色事変を皮切りに、放送コードギリギリでお届けされたその内容に視聴者は沸いた。
最大同接数25万人。
今年度最高の同時接続者数を叩きだした昨日の配信は伝説の神回となった。
そして一夜明け――
今はその翌日の、時間は14時を少しまわった頃だ。
大学の講義が午前中だけだった僕は早々に帰宅し、毎月開催されている月一の古参ミーティング、【星空ミチル銀河BIG3会談】へ向け、自室で精神を整えていた。
ちなみに義妹はまだ帰還していない。
ショートメールで「帰り夕方になりそう」と一言だけ送って来たから、今この家にいるのは僕一人だけだ。
くそー。
まだ彼氏としっぽりやってやがるのかよ、美桜のヤツ。
なんか、ムカついてきたな。
「夜飯、納豆ご飯だけにしてやろうかな」
まぁ、それは一旦横に置いておいてだな。
今は目の前のデスコード(オンラインコミュニケーションツール)に集中しよう。
「絶対、昨日の件で紛糾するんだろうなぁ……」
昨日の件とはもちろん、コラボ配信の件だ。
僕は正直楽しく視ていたのだが、ほかの二人はおそらくいい気分ではなかったのだろうなと想像に難くない。
ここでその二人。
まずは
銀河ナンバー1。最初に星空ミチルを発掘した先駆者だ。
ネット上だけのからみなのでリアルの個人情報は未だ謎だが、彼はスパチャだけで、デビューから少なく見積もっても軽く2,000万円を超える課金をおこなっているのだそうだ。
これまでのやりとりの中で、おそらく彼は資産家の息子なんだろうなってのは想像できているのだが、確証は今のところない。
「あーあ。僕ももっとお金があればなぁ。たくさんスパチャしたり、グッズ揃えたりできるんだけどなー」
まぁいずれにせよ、彼が星空ミチルをスターダムにのし上げるのに最も貢献したひとりだという認識で間違いない。
次に
彼の自称は陰のインフルエンサー。
星空ミチルをSNSでバズらせるためにあらゆる手を今まで尽くしてきたそうだ。
事実、散発的になんの突拍子もなく超有名インフルエンサーが好きだと公言したり、上げのネット記事なんかもちょこちょこ出ていたのは彼の功績らしい。
ミチルがわずか2年で今の地位を築き上げた理由に、彼の存在を欠かすことはできないだろう。その位大きな影響力をこの
そしてどん尻に控えしは栄えある銀河ナンバー2。
ん? 僕にはなにか、星空ミチルを支えるための特殊な技能があるのかって?
あるわけないだろ、そんなもの。
僕はただの純粋なファンのひとりってだけだよ。
ま、星空ミチルへの愛の深さだけは、このBIG3の中でもナンバー1であると自負してはいるんだけどね。なけなしのバイト代を惜しげもなくすべてスパチャに投入できるのは僕くらいなものだからね。
知らんけど。
「……お、来たか」
PCのデスコード画面に着信通知がきた。
ようやくクレメンスからお呼びがかかったようだ。
マイクをオンにし、いよいよオンラインミーティングが始まる。
ちなみに今日の集合時間は14時。すでに5分ほど開始は遅れているが、僕はこのメンバーの中で圧倒的下の立ち位置なので文句を言う資格はない。
「拙者は、怒っているでござる……」
この一人称「拙者」、語尾「ござる」なのがクレメンスだ。
理由はしらん。
ただ予想通り、怒っていた。
「ボクも……すごい、ヤな感じ……」
この蚊が鳴くような小声でボソボソと話しているのがリョウさん。たまにというか、何言ってるかわかんないことが多々ある。
もっと声を張ってしゃべってほしいといつも思っているが言えない。
「あーやっぱ昨日のアレはやりすぎだったよな」
二人の意見を察して僕も同じ流れに乗る。
ここで反論を展開する意味はまったくない。
僕は事なかれ主義なんでね。
二人の意見に賛同する。
「なにを言っているでござるか、ケー氏」
ケー氏ってのは私です。はい。クレメンスは僕を何故かこう呼ぶ。
理由は知らん。
そして何故か、怒られてるんですけど……
「そういうことじゃ……ない、よ……ケーダッシュくん」
リョウさんも苦言を呈してくる。
え、昨日の配信が気に入らなかったって話じゃないの?
もしかして俺だけなんもわかってない感じ?
「ん? どういうことだ?」
「ケー氏、まだ気づかぬでござるか……」
「?」
「我らが絶対女神、星空ミチルちゃんに同棲彼氏疑惑があるということをッ!!」
「なっ!?」
なんだってーーー!!
ウソッ! マジで??
「鈍すぎだよ……ケーダッシュくん……」
いやいや。
いったいどこで、お二人はそう思われたのでしょうか?
僕には全然わからないのですが。
「そ、そんなワケないと思うんだけど……」
さすがにそこはミチルをフォローさせてもらう。僕ら銀河を差し置いて、彼女が黙ってカレシなんて作るハズないだろう。
まして、同棲なんて……
ファンをだれよりも大切にするあの星空ミチルに限って、そんな裏切り行為みたいなことするなんて、絶対にあり得ないよッ!
「引っ越しから始まり、食事を作ってもらった相手を“家族”と表現したこと。そして……」
「昨日の、あの……パンツ事変での、狼狽えよう……」
いや、それだけで?
まったく脈絡ない気がするんだけど。
「まだ確信を持てているワケではござらんがな」
「でも結構、高い確率で……同棲カレシ、いると思う……」
だが、この銀河で最重要人物たる彼ら二人の間で認識は共有できているらしい。
被害妄想だと思うんだけどなぁ。
でも僕のここでの立場で反論なんてできないしなぁ。
「でもさ。仮に万が一そうだとしても、調べようがないよね?」
運営である虹ライブのプライバシーディフェンスは鉄壁だ。個人情報が漏れたという話を、あの会社からは今まで一度も聞いたことがない。
「さ、さすがはケー氏。そういうところは鋭いでござるな」
いや、まったく普通だろ。
「実はすでにね……ボクとクレメンスさんの情報網で、いろいろ調べてみては……いるんだけどね……」
「なにもわからんでござる」
情報通っぽいリョウさんの実力を持ってしても、どうやらまだその確信とやらにはたどり着けていないようだ。
ってことは、つまりさ。
それってただの疑心暗鬼じゃん。
嫉妬にも近い、被害妄想の部類じゃないのか?
ったく。
二人は確かに優秀な銀河だけど、大事なモノが足りていない。
「だーいじょうぶだって! 僕たちのミチルに限って、そんなこと絶対にするはずないからッ!」
「ケー氏……」
「ケーダッシュくん……」
かなり力強く、僕は二人にそう言い放った。
たぶん、このオンラインミーティングをやり始めてから初となる、僕のシャウトじゃないだろうか。
そう、僕らが見てるのは世界だ。
星空ミチルを世界一のVTuverにする。
それが僕たちの推したちの本当の願いであり、夢なんだッ!
「たとえ世界中のすべてを敵に回したとしてもッ! 僕たちだけは、ミチルにとっての正義の味方でいてあげようよッ!」
「お、おおおお……ケー氏……かっこよすぎでござる……」
「ケーダッシュくん……ボク、ちょっと感動したよ……」
ふっ。
決まったぜッ!
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