第5話 ちょっと積極的な天宮愛莉(あまみやあいり)先輩

 午後からの大学での講義を終え、僕はここ最近仲良くなった同級生の山本大吾やまもとだいごに絡まれていた。


「はぁ……」


「ん? どうした、圭? 気の抜けたため息なんかついて」


「(顔、近ぇよ!)」


 コイツはいつも僕の肩へ手をまわし、顔を近づけてくる。


 僕に男色だんしょく趣味は微塵みじんもない。

 なので漢らしいゴツゴツした感じの顔面を、この距離感まで迫って毎回話をされるのは、正直ツラいと内心思っている。


「いや、ちょっとね……」


 急に家族が増え、突然義妹と共同生活を送ることになった不安と期待を、この男に話すと絶対に面倒なことになる。


 そう直感した僕は、自然と大吾から顔と視線をらしていた。


「あ、わかった。彼女と喧嘩けんかしたんだろ?」


「いや、彼女とかいないし……」


 コイツはその事実をわかっていてそれを聞いている。端的に言えば、茶化ちゃかして面白がっているだけだ。


 だがしかし。


 この男も僕と一緒でモテないし、確か今まで彼女いたことないとか言ってたからそこまで怒りもいて来ないのだが。


「おっと、これは失礼致し申した」


 そう言うと大吾は席を立ち、同時に僕も強制的に席から引っ張り上げた。


「わっ!」


「んじゃ、早速みんなのトコ行こうぜ! 今日はたぶん、我らが憧れのミスコンファイナリスト、“天宮愛莉あまみやあいり”先輩もいらっしゃるハズだから」


「あ、そうなんだ」


「なんだよ、釣れないなぁ。喜ばしいコトだろ?」


 思ったような共感を得られず、少し憮然ぶぜんとする大吾。彼の言ったとおり、確かに喜ばしい事実ではあるんだけど。


 いかんせん、僕は大学デビュー組なもので。

 高校までコミュ障だったこの性格はそう簡単には直らない。だから外で感情を表に出すという行為がまだ苦手なだけなんだ。


「まぁこれでも一応、歓喜かんきしているつもりなんだけどね」


「わかりにくいわ!」


 ポカっと軽く頭にツッコミを入れられた。

 こういうノリが出来る大吾のあっけらかんとした性格は正直かなり憧れる。


 ああ、ちなみに。


 これからこの男と一緒に向かおうとしている先は、大学内にあるかなり広大な広場の一角だ。芝生が綺麗に狩りそろえられた、公園のような場所。


「それじゃあ、行こうか。大吾」


「お前が仕切るな~」


 個人的にはそこそこいい関係だとは思っている。彼が本心でどう思っているのかはわからないけど、一応友達と呼んでいい存在だと僕の中では勝手にそう理解している。





 そこに行けば、いつものメンバーが自然と集まる。


「お~大吾! おつかれ」


 すでに集まっていたウチのひとり、スラっと背の高いモデルみたいな茶髪のイケメンが僕らに声をかけて来た。


「あ、おつかれっス。そうさん」


 軽く手を掲げ、それに答える大吾。

 その軽妙けいみょうさに、この二人の仲の良さが垣間見える。


 もちろん、このパイセンのことは僕も知っている。


 濱家聡はまいえそう先輩。

 歳は僕と大吾の二つ上。この“陽キャグループ”を取り仕切る、リーダー格の男だ。


 濱家先輩はいわゆるヤリ●ンだ。

 相当にモテる。女性関係の噂を途切れさせたことのないホンマモンの色男。


 ちなみにこの集まり。

 濱家先輩の個人サークルなのだそうが、目的は特にない。


 ただなんとなしに、よくこの場所へ足を運ぶ者同士で気の合うヤツ等が勝手に仲良くなってできた集団だ。


 まぁ僕みたいな陰キャがこんなキラキラグループに本来入れるワケないんだけどね。当然、ここの人たちと仲良くなるための扉を開いたのは大吾だ。


 彼は女性にはまったくモテないが、男には何故か物凄くモテるんだ。

 

「大吾さん、来るの遅いっスよ」


「俺は真面目に講義を聞くタイプなの!」


 濱家はまいえ先輩の隣で大吾に軽口を叩いたのは富安剛琉とみやすごうる。歳は僕らの一個下だが、生意気な後輩だ。見た目はまぁ、普通。


 ただ彼は、名前から察するとおりサッカーがとてもうまい。高校まではプロ間違いなしと言われた逸材いつざいだったらしい。


 高校3年のとある練習試合で選手生命を絶たれるほどの致命的なケガをして、将来を諦めた青年だ。その後、死に物狂いで勉強して本学へ一般入試で合格を決めた。


 ちなみにこれは別に自慢じゃないんだけど。

 僕らが通うこの大学、実はちまたじゃそこそこ偏差値の高い国公立の有名大学だ。


 僕は昔から勉強だけはそこそこできたので、少しランクは上だったが、受験時にかなり頑張ったらなんとか入学することできたんだ。


 別に自慢じゃないよ。

 うん。自慢じゃない。


けい君。おつかれ」


「あ、ども……」


 ここにいたメンバー最後の1人。

 紅一点こういってん天宮愛莉あまみやあいり先輩が、僕にやさしく微笑ほほえみ声をかけてくれた。


 すでに既知きちだが、彼女は本学が毎年開催している昨年のミス・コンテストで最終選考まで残った本物の美女だ。


 学内ではもはやアイドル級の扱い。今年は間違いなくその栄冠を授与されるだろうと言われている逸材いつざい。僕なんかが逆立ちしても手が届かない女神みたいな存在だ。


 そんな超絶美女が、なぜ僕らみたいなのとつるんでくれているかって?


 それはこの陽キャグループのリーダー、濱家聡はまいえそう先輩と天宮愛莉あまみやあいり先輩が旧知きゅうちの仲だからだ。中学の時からの同級生らしい。


「おいけい。俺の愛莉あいりと慣れ慣れしくすんじゃねーよ」


 いや、ただ挨拶しただけじゃないか。

 なんでちょっと不機嫌そうなんだよ。


貴方あなたのモノになった覚えは人生で一回もないんだけど?」


「もうすぐなってくれるんだろ?」


来世らいせに期待することね」


 天宮あまみや先輩の返す刀はなかなかに鋭い。


 この二人はしょっちゅうこんなやり取りをしているが、彼女が濱家先輩の軍門ぐんもんに下ったところを僕はまだ一度も見たことがない。


 凄いモテる者同士で、しかも幼馴染だからいつくっついてもおかしくなさそうなんだけど、今のところその気配はなさそうだ。


 まぁ表面上はってだけなのかもしれないが。


「今日はどうします? カラオケでも行っちゃいます?」


 そんな中、富安が本日のサークル活動について提案を行った。


「おっ、カラオケいいね。ちょうど歌いたい気分だったんだよ。んじゃいつもんとこ予約しといて、剛琉ごうる


「ういーす」


 元スポーツマンとイケメンは馬が合うと昔から相場が決まっている。


 濱家はまいえ先輩と富安とみやすはいつも息がピッタリだ。


愛莉あいりも行くだろ?」


「そうね。私もちょっと歌いたい気分だったし。圭くんたちはどうする?」


 持ち歌が全然合わないのでカラオケは嫌いだ。というより、そんなところへ行っていたら今日の夕飯の支度が間に合わない。


「オレはもちろん行くっス!」


 大吾はノリノリだ。


「あ、僕はちょっと予定が……」


「えー、いいじゃない。一緒に行こうよ、けいくん」


 わっ! ちょっと、愛莉あいり先輩!

 手をいきなり引っ張らないでくださいって!


 OPが、OPが当たってますって!!


 それにほら、そんなことしたら……


「行かねーっつってんだからほっとけよ!」


 さらに不機嫌マックスになる濱家聡はまいえそう


 まぁ、みんなもうわかってると思うけど。

 僕はこのヤリチ●陽キャの彼が大嫌いである。


「そうですよ、愛莉あいりさん。無理強いはよくないです」


 そしてこの夢破れた元スポーツマンの後輩もまぁまぁ苦手だ。


「お前の分まで俺が楽しんできてやるッ! 任せろッ!」


 大吾はただのバカである。


「そっかー。それじゃあ今度、この埋め合わせに二人でどっか行っちゃう?」


「えっ!?」


 まさかの上目づかいとデートカードを炸裂させてくる愛莉あいり先輩。


 1000%冗談なのだが、それでも僕の心は一瞬ドキっとした。


愛莉あいり! からかうのもいい加減にしとけッ!」


 さらに怒りマックスの濱家はまいえ先輩。

 もうこれ、僕このメンバーから今日限りを持って追放されちゃうんじゃないか?


「あら。私、結構本気だったりするんだけど」


「あーそうですかッ!」


 まぁ、それならそれで別にいいんですが。

 もともと大吾の付き合いでここになんとなく来ているだけだし。


 僕には、この居場所よりももっともっと大事な推しが、自室せいいきに帰れば必ずいる。


「そ、それじゃあ、僕はこのへんで……」


 そう言い残し、僕はそそくさとその場を小走りで後にした。


 買い物もして帰らなきゃいけないしな。

 時間は思いのほかあまりない。


 それにしても……。


 本当に大丈夫なんだろうか。


 僕は、義妹とこれからふたりっきりで、本当に仲良くやっていけるんだろうか。

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