第2話 互いの聖域、入室は厳に禁ずる
時は土曜の20時を過ぎた頃――
仕事を終え、帰宅した新しい父・
「いやー遅くなってすいません」
「全ッ然いいわよ!
「なっ、なんで俺が……」
「文句言わない! やっぱり男同士、仲良くなるには酒を
母の“
ああ、ちなみになんだけど。
このテーブルに並んでいる豪華料理の数々はほとんど僕が作ったんだ。意外かもしれないが、僕はこう見えて料理が得意だ。
実父が亡くなってからだね。
料理、洗濯、掃除を自分から積極的にするようになったのは。
10歳くらいの頃からかな?
母がフルタイムで外へ働きに出るようになって自然とそうなった。
最初は少しでも力になれたらくらいに思ってやっていたけど、洗い物以外の家事は全般わりと好きだということに気付き、結構自発的に毎日やっている。
まぁそれも、自分と母のためならばって前提条件があるからできることであって。
こんな見ず知らずのおっさんと……
「もぐもぐ……もぐもぐ……」
いただきますも言わず、無言でさっさと食べ始めている
ちなみにこの
さっき母に年齢を聞いたんだが、19歳なんだそうだ。僕のひとつ下らしい。幼く見えるから高校生くらいかと思っていたが、一応立派なフリーターらしい。
「さ、圭くんも」
お返しの
「あ、いや。僕は……」
「ああ、圭くんはまだ二十歳になったばかりだっけ。まあ、形だけでも」
くっ! こ、このおっさん……
僕は
さ、さすがは知る人ぞ知る、超有名外資系コンサル会社で
まったく。
母さんはいったいどこでこんな魔王級のサラリーマンを捕まえてきたんだ。
今となってはむしろ、そっちのほうが気になるわ。
「それじゃあ改めまして! 新しい家族の
「カンパイ!」
「ういー」
「もぐもぐ……もぐもぐ……」
おい、
せめて社交辞令の乾杯くらいは参加しろよ。
なにさっきからずっと無言でメシ喰らってんだよ。
てかコイツ。
この家へ初めてやってきて玄関先で僕をこき下ろして以降、僕や母とは一切口を聞いていない。
引っ越し業者に大量の“
そのあとはずっとひとりで部屋にこもりっきり。
片づけをしなければならないのはわかるけど、せめてこう、もうちょっと世話になる人たちとコミュニケーションを取ろうとか思わないワケ?
人の家にいきなりやってきて、絶対部屋入るなとか。
母さんは「いいじゃない、年頃なんだし。アンタだって一緒でしょ」って軽く認めていたけど。
ま、まぁ。
僕も自室は
「あ、パパ。ご飯終わったら部屋の片づけ、ちょっと手伝ってくれない?」
あくまで
「
「はぁ?」
「当たり前だろう。いい加減、その自分勝手な振る舞いを改めなさい。パパは先にそっちを手伝うから」
せめてもの救いだな。
継父はまともな感覚の持ち主なようだ。
「いや、だって今日は……」
「明日からにしなさい」
「はぁもう……しょうがないわね」
父の言う事は素直に聞くんだな、美桜。
まぁ、気持ちはわかるんだけどね。
美桜は僕と違って事前に話を聞いていたのかもしれないけど、やっぱりいきなり他人同士が家族になるっていうのは抵抗感があって当然だと思う。
そこは同じ立場の人間として、察してあげるのが大人の余裕なのかもしれない。
「もう! そんな気を
母よ。
アンタはもう少し、僕に気を
◇
歓迎の
みんなが食事の後片付けを手伝ってくれたので、思いのほか早くダイニングテーブルは元のキレイな状態に戻った。
まぁ結局、義妹はしょうゆの
ただ手伝おうとしてくれた、その気持ちだけでも今日はよしとしておこう。きっと引っ越しでの疲れもあったことだろうし。
もう、僕の心は完全に吹っ切れていた。
少なくとも継父に関してだけは、一緒に酒を
和彦さんは母が
義妹についてはまだ受け入れられない側面もあるが、それも時間が解決してくれるだろうと思い腹を
彼女は食事の後片付けが終わってすぐに、高速で継父と一緒に自室へまたこもり始めたけど、荷物の整理を今日中に終わらせようとする執念は単純に凄いと思う。
荷をほどいて、なにかすぐにやりたいことがあるような口ぶりだったけど……
おっと、いけない。
僕もボケっとソファーでくつろいでいる場合ではなかった。
21時45分。
今日の僕は、22時から“僕の聖域”で大事な予定がある。
「それじゃあお母さん、お風呂入って来るわね」
キッチンで雑務をしていた母が僕に声をかけて来た。
「ああ。僕は部屋に戻るよ」
「あ、圭」
自室へ戻ろうとソファーを立ったところで、母が僕を呼び止めた。
「なに? パンツくらい自分で用意してよ」
「ち、違うわよッ!」
「じゃあなんだよ」
な、なんかいつになく神妙な顔をしているな。
いまさらなんだよ。
「……ダメだからね」
「なにが?」
「美桜ちゃんに手を出したら、絶対ダメだからねッ!!」
そう言い残し、母さんは少し恥ずかしそうにバタバタと風呂場へ直行した。
「僕が、
手を出すなってのはいわゆる
だが安心しなよ、母。
いくら大学デビューしたのに全然モテてない僕だからって、あんな
それに……
「僕には、“推し”がいるからね」
そうつぶやきながら、僕は彼女と会える
◇
「……はぁ?」
推し色の黒と黄色に統一されたPCを緊急で立ち上げた。スリープモードを解除し、これまた推しの激レアOPマウスをギュっと握りしめながら、僕はモニター内に映し出されたとある文言を
「配信が……明日に延期、だと?」
よっぽどのことがない限り、毎日22時から必ずライブ配信をやってくれる僕の
ここ3日間くらい多忙を理由にお休みしていたのは当然知っていた。
ただ、しっかり告知で今日の22時に再開するって書いてあったのにな。
「なにかあったのかな? 大丈夫かな、ミチル……」
まぁ明日やるって言ってんだから素直に信じようしゃないか。
でも最近、多いからなぁ。
急に
でも、大丈夫だ。
あの人類最速でチャンネル登録者数500万人を突破した伝説のVTuber、星空ミチルに限ってそんなことはあるはずがない。
ファンネーム“
そんな彼女が、僕らになんの報告もなくいきなり
「楽しみが1日伸びただけだ。気にするな、圭」
自室の棚へ
そして……
「
なんだかんだ、今日は昼からずっと気を遣っているからな。
いろんな状況の変化が突然あって、さすがの僕もちょっと疲れたよ。
こんな日は、とりあえず早く寝るに限る。
「おやすみ、ミチル。よい夢を……」
明日は必ず、元気な姿を魅せてくれよな!
星空ミチル!
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