継父の連れ子がチャンネル登録者数500万人を誇る僕の最推しVTuberだった件

十森メメ

第1話 ある日突然、妹が出来た

 とある土曜の午後――


 母さんと二人で昼食を食べた後、リビングのソファーに横たわりながらひとりスマホでSNSをボケっと眺めていたら、インターフォンが鳴った。


「ちょっとけい。母さん、いま洗い物で手が離せないから出てちょうだい」


「はいよー」


 面倒だ、と思ったのは一瞬だけだった。


 僕、白石しらいしけいは手が離せないというほど忙しくはなかったので、素直に居間のすみの壁に埋め込まれているインターフォンの画面まで小走りで近づいた。


 スッとのぞき込み、来訪者を確認する。


 誰だ?

 なんか業者さんっぽい感じの人たちが来ているな。


 宗教のお祈りとかではなさそうだし、とりあえず返事しとくか。


「はーい」


「ちわー。マーク引越センターでーす」


 画面の中には、緑で統一された作業着に身を包む若いエネルギッシュな男性が2人と映し出されていた。


 彼らはシロイヌでお馴染なじみの、大手引っ越し専門業者の企業名を名乗った。


 やれやれ。

 どうやらこの人たち、訪問先を間違えて来てしまっているらしい。


 僕と母が二人で暮らすこの家に、引っ越して来る人なんているはずがない。まして僕らがこの家を売り払い、他の地へ移住するなんて話は聞いていない。


 いちいち母さんに確認する必要もないだろう。


「あ、ここ白石家ですけどー」


「はい。えっと、住所は○○市××町の●●番地で合ってますよね?」


「いや、そうですけど……」


 なんか食い下がられてる気がするんですけど。


 絶対、来る家間違えてるって。ちゃんと調べてきてよ。


 まったく。

 よし。ここは語気を強めてしっかり違うと言い切ってだな……


けい! もしかして、引っ越しの業者さん?」


 あ、母さんに気をつかわせてしまったみたいだ。

 申し訳ない。


「あーなんか来る家、間違えてるみたいでさ……」


「間違えてないわよッ!」



 ……はい?



「あ、今行きますんで、ちょっと待っててくださいね~」


 僕の身体を押しのけ、画面をのぞき込んで愛想笑いをふりまく僕の母、白石しらいし里緒菜りおな(40)。


 そのルンルンの状態のまま、玄関先まで走り去っていく。


 いやいや。

 いったいどういうこと??


「こんにちわ~」


「あら? 和彦かずひこさん、もう来ちゃったの?」


 カズヒコサン??


 もしかしてこのマーク引越センターの若い男性社員のどちらかが、母さんの言ってた新しい恋人だったの??


 いや母さんよ。

 父さんが僕らを残してこの世を去ってから早10年。


 僕も今年で20歳になる大学二年生だから、これまで女でひとつで僕を育ててくれた母さんが外で恋愛のひとつやふたつ、勝手によろしくやっててくれても一向にかまわないんだけども。


 でも家に呼ぶときは流石さすがに、一言くらいあってもいいんじゃないかな?


 一応、僕にも心の準備ってものがある。


「実は急な仕事が入りましてね。今日こそはなにがなんでも休むつもりでいたのですが、申し訳ない」


 あれ?

 なんか声がえらく大人だな。


 とてもさっきインターフォン越しに見た二人の若い男子の気配を全然感じない。


「あぁ。それで早めに業者さんと一緒に顔を出してくれたのね」


「はい。夜には帰って来られると思いますが。ああ、それと……」


 帰って来られるとは、いったいどういう了見りょうけんなのか? もうすでに僕の脳裏のうりには、嫌な予感しか渦巻いていないのだが。


「荷物はほとんどがのモノなので、彼女だけ先にこの家にお邪魔させてもらってもいいですか? 片付けと整理をさせておこうと思うのですが……」


「ええ。もちろんいいわよッ!」


 いやいやいやいや。

 なんだこの急展開。娘ってなに??


 母さん!

 なに僕になんの相談もなく勝手にオールオッケーしちゃってるんだよッ!


 てか、いま話してるそのカズヒコさんってナニモンなんだよ!

 絶対引っ越し業者の人じゃないよね?


 あーなんか腹立ってきた。

 ちょっと文句のひとつも言ってやりたい!


 僕はリビングから玄関先までダッシュした。


「ちょっと母さん! さっきから何ひとりで勝手に話を……」


「ちょっとパパ! なんで私だけ先にひとりでこんなところに……」


 ウチの玄関先はそこそこ広いんだけど、それでも人でゴチャついていた。


 緑の作業着を着た若い社員の1人は、ドアが閉じないようにその付近で扉を背負う形になっている。もうひとりの作業員は玄関から少し外でドアを押さえている社員と打ち合わせをしている。


 噂のカズヒコ氏は玄関先にいた。


 ビシっとしたスーツを着こなした、言うなれば港区の一等オフィスでバリバリ仕事をこなす、エリートサラリーマン風の男だった。


 それを見下ろす形で母がいた。


 そしてもうひとり。

 僕と同じタイミングこの場に颯爽さっそうと現れ、カズヒコ氏の隣で母と僕をにらむ背の低い女性の姿がそこにはあった。


「おい美桜みお。こんなところって言い方はさすがにひどいんじゃないか? 素敵なおウチじゃないか」


「いや、普通でしょ。一軒家とかダサいし。私はマンション暮らしのほうがよかったのに……」


 いきなりやって来てなんだこの天使な小生意気は。


 あ、この子がさっき話してたこのカズヒコさんとやらの娘か。


 僕はこう見えて、実は察しがいいんだ。

 ここまでの一連の流れで、ここにいる人物相関図を大体理解した。


 もちろん、納得は一ミリもしていないが。


 つまり、こういうことだろう。


 カズヒコさんとやらは、どうやら僕の母、白石しらいし里緒菜りおなの再婚相手らしい。つまり、これから僕の継父けいふになる男だ。


 んで、その連れ子が美桜みお

 今、僕の目の前で仏頂面ぶっちょうづらをしている娘だ。


 セミロングのサラサラな黒髪は肩まで伸びている。

 

 小顔の中には小さな鼻や口といったパーツが綺麗に配置されている。薄茶色の大きな瞳と、あと声が凄く特徴的でなんか耳に残る感じがして……


 いや、この状況で長々と娘の容姿や声帯を詳報しょうほうするのは面倒だな。


 まぁ端的に言えば、見た目も声もめっちゃ可愛いということだッ!


 ただ、どういう経緯いきさつがあったにせよ、僕の理解の範疇はんちゅうを超えた領域で、すでにこの家での同棲が決定していたことはいただけない。


 ちなみに引っ越し業者さんはただ、仕事をしているだけだった。相手先を間違えてこの家を訪れたワケではなかった。これから搬入はんにゅう作業に入るのだろう。


 いやしかし……


 こうやって脳内で状況整理しても、やっぱり意味がわからないな。


 そんな大事な話を、僕がいないところで勝手に進めていた母の無計画さと報連相ほうれんそうをしない態度にはめちゃくちゃ腹が立つ。


 でも僕は、過去に一度も口喧嘩で母に勝ったことがない。「嫌なら出ていけー!」と最後は一蹴いっしゅうされて終わりだろう。


 しょうがない。


 この怒りは、亡くなった僕の父がなんとか組んだ返済期間40年の住宅ローンを、その命をして(団体信用生命保険で)完済した家をバカにした、美桜てきに向けさせてもらお……


「あ、圭。私たちの苗字みょうじ、今日から“志村”になるから」


「……へっ?」


 罵倒ばとうの準備ができたところで、母が僕の戦意を喪失そうしつさせた。


 苗字が、変わる??

 

 しかも……

 志村、だとッ!?


「改めまして、圭くん。僕の名前は志村和彦しむらかずひこ。で、こっちが娘の美桜みお


「は、はぁ……」


「今日から僕はキミのお父さん、彼女はキミの妹になるから! 色々面倒かけるかもだけど、これからよろしくね! 圭くん!」


 くっ! 

 え、笑顔がまぶしすぎるぞこの継父けいふ


 心では全然認めていないのに、脳が勝手にこの男が新しい父だと認知してしまいそうだ!


 ええい、圭ッ!

 こんないきなり現れた見ず知らずの男を、そんなに簡単に父と認めていいのかッ! 亡くなった父との絆をもう忘れたのか、圭ッ!


 突っぱねろ!

 強い意志を持って突っぱねるんだ、“白石”圭……


「ぷっ! 志村圭しむらけいだって。なんかウケる」


 ウケるってなんだよ!

 なにがおかしいんだよ!

 


 志村けい……


 ステキな名前じゃないかッ!

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