第2話 仲直り大作戦

 ぐああああああ!


 『後悔せぬ』とかっこつけたんじゃった!


 久々にぐっすり眠れた朝、昔の夢を見た。あの愚かな決断をした時の場面を具体的にはっきりとした夢だった。


 羞恥心と後悔で頭がどうにかなりそうじゃ。叫ばなかった儂を褒めてやりたいくらいじゃ。


「はぁ……はぁ……いつものルーティーンを始めるか……」


 気分を切り替えベッドから立ち上がる。まずは日課の散歩からじゃ。太陽の光を浴びること、軽い運動をすることが目的じゃ。


 これをするだけで一日の調子が変わってくる。といっても、ここ数年は公務が忙しすぎてほぼ出来ておらんかったわけじゃが。


 服を着替え自室の扉を開け散歩に出かける。


「気分がいいの~。悪いことも全部浄化されるようじゃわい」


 陽の光がご心地よく、爽やかな風がゆったりと儂の髪を揺らす。

 この時間だけは煩わしいものから解放される儂だけの時間。王となった時から自由がほとんど無くなってしまった。


 昔は色々やんちゃしたもんじゃが……なつかしいの~。


 この気持ちがずっと続けばよいのじゃが、そうはいかぬようじゃ。


 前から歩いてくる人影が一つ。


 ガッチリとした身体つき、ぶれを知らない歩きを見れば、歴戦の戦士であることがわかる。

 しかし、それだけではない。放たれているオーラが、常人では到達できぬほどのものであった。


 そう、神かそれに準ずるものでない限り……。


「陛下! おはようございます」


 清廉とした佇まい。そこにいるだけで絵になるとはこの事。


「勇者アルス殿、良い朝ですな」

 

 バカな! 今一番会いたくない人物と会ってしもうた。しかも、なぜこの時間なんじゃ。せっかくの儂の清らかな時間が……。


「本当ですね。朝日が心地いい。それに陛下とお会いできて嬉しいです。陛下は朝がお早いのですね」


「朝早くから散歩するのが日課でな、アルス殿もこんな早くに鍛練ですかな?」


「いえ、たまたま目が覚めてしまいまして」


 たまたまじゃと? たまたまを今日引くとは本当に運のないことじゃ。……嫌じゃがここは散歩に誘うしかないか。


「アルス殿も、儂と共に散歩するのは如何かな?」


「よろしいのですか? では、お言葉に甘えさせていただきます」


 くそっ、断らんかったか……いやまて、これは良い機会ではないか? ここで会話に花を咲かすことが出来れば、アルス殿からの印象も良くなるのでは?


 そうじゃ! これはチャンスじゃ! 


 ここで頑張れば儂の命も助かるかもしれん。


 これぞ! 『仲直り大作戦』じゃ!


 儂は意気揚々と歩き出す。そのとなりにはキラキラ光るかのような勇者。

 勇者の横顔をチラチラと伺いながら話す内容を吟味する。


 会話で重要なのは楽しく話させること。アルス殿が好きなことはなんじゃ……。


 一瞬の間で幾つもの案を出してはボツにしていく。苦しい公務で鍛えられた頭脳をいかんなく発揮する。


 ……そうじゃ! 勇者アルスは仲間想いで有名だと聞いたことがある。なれば、仲間との話を聞けば、楽しく話してくれるに違いない!


 名案を思い付いてしまった。儂もまだまだ捨てたものではないの。


「儂の側近たちは心配性での、事ある毎にあれこれいってきては、会議を始める。まとめるこちらの身にもなってほしいわい」


「そうなのですね。しかし、それほど陛下が慕われているということ。さすがでございます」


 ほほぉ、こちらを誉めてくるか。嫌いなやつ相手にしても顔色一つ変えんとは、これは手強いな。


「して、アルス殿のお仲間はどのような人物なのじゃ?」


 じゃが、このままの作戦でいく! 


「仲間、ですか。そうですね、聖女のシリアは心配性なところがあって、良く皆の健康状態について聞いていました」


 聖女か……見た目は美しい純白の姫君といった感じじゃったが、見た目どおり優しい性格なのかの。


「それに、街行くところで困っている人々を助けて回っていましたね。誰とも隔たりなく接していました」


「そうなのか、シリア殿は優しいのじゃな。それに我が国民を救っていたとは、感謝せねばならぬな」


 聖女という肩書きは勇者の次くらいに怪しいものじゃが、シリア殿は真に聖女であるのだな。


「シリア殿は回復魔法が得意だと聞いているが、どれほどのものなのじゃ?」


「それはもう……生きていれば何とかなる程です。四肢の欠損はお手のもの、胸に風穴が空いても治ります」


 そこまでか……それは凄まじい、凄まじすぎる。それほどの回復魔法など人間に許されていいものなのか。


 彼女も怪物……いや、神の領域の人物であったか。伝承の聖女の名を名乗るにふさわしいと言うことか。


「助けた町では崇められたりして大変でした。彼女の美しさや神秘性が拍車をかけて、それはもう」


 どこか遠い所を見ているかのように目が虚ろになっていた。


 それほど大変な目に遭ったと言うことか。


 今のところ、勇者と仲良し作戦は順調そうじゃな。少し言葉づかいが砕けてきておる。このまま行けば、儂の首も繋がるかもしれん。


「アルス殿の風格も別格だと思うが、シリア殿のような事なかったのか?」


「わ、私の風格が別格ですか? 本当に?」


 何か間違えたか? 少し動揺しておるように見える。やはり、儂への嫌悪感は消えておらぬようじゃな。さしづめ、大っ嫌いな奴にいきなり褒められて気持ち悪いとかそんなところじゃろ。


「あっ、えっと……何かあったかどうかでしたね。……確かに私も敬われたりはありましたがシリア程ではありませんでした。私以上にガルドの方が人が集まっていましたね。特に女性には人気そうでした」


 ほう、ガルトというとあの巨体の戦士か。確かに、彼の強者オーラはマシマシで異性にモテそうじゃが、アルス殿も負けてはおらん。そこにこの美貌が合わさるのじゃからさすがに敵わんじゃろ。それに、アルス殿は嫌いな奴にも普通に接してくれる優しい男。内面も外面も完璧とくればモテモテに見えるが。


「なぜか、私の近くにはあまり人が近づいてこなくて……女性なんかはとくに……視線は感じるのですが」


 ……なるほど。完璧すぎるのか。アルス殿は勇者じゃ。それだけでも手の届かぬ存在だというのに、それ以外も完璧とくれば近寄りがたいのは必然。聞いている限りシリア殿は住民との距離が近く接しやすい存在。しかし、アルス殿は天上に住まう神々のような神聖な存在に映っておったのじゃろう。


 アルス殿は落ち込んで居るように見える。人が近づかないというのはかなり堪えるものじゃ。


 儂も学生時代はあまり人が寄り付かんかった。王族とはそういうもの。それに儂は権力に媚びへつらってくるやつが大嫌いじゃったからなおさらじゃ。


 雰囲気が悪いな、話を変えるか。


「そうじゃ、三日後に魔王討伐記念のパーティーがあるじゃろ」


「はい、私たちの為にパーティーが開かれるなどとても光栄に思います」


「アルス殿たちのしたことを思えばパーティーなど。いやな、実は今夜、城下町でも祭りが開かれるらしいと聞いたのじゃ。といっても、しっかりとしたものではなく急ごしらえのもののようじゃが」


 魔王討伐の報告に、国民もいてもったってもいられかったようじゃ。今まで未来が見えず暗い雰囲気が漂っておったからの、溜めていたものが爆発したのじゃろ。


「そうなのですね、私も仲間とこっそりと参加してみるのもいいかもしれません。教えてくださりありがとうございます」


「そうかそうか。それは良かった」


 爽やかな笑顔と共に感謝を述べてきたアルス殿。少しは恨みも和らいでいるといいのじゃが。表情づくりが完璧で全くわからん。儂も長く国王をしているだけあって相手の心を読むことには自信があったのだがな。


 さすが勇者。一杉縄にはいかんか。

 

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雑魚装備と端金だけ渡したら魔王を倒してきたんだが こくは @kokuha-bw

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