雑魚装備と端金だけ渡したら魔王を倒してきたんだが

こくは

第1話 勇者の帰還と後悔

 儂はこれまでにないほど動揺しておる。

 手の震えが止まらん。バレんように取り繕っておるが服の中は冷や汗でびしょびしょじゃ。


「陛下、勇者御一行にお言葉を」


 いつも頼れる宰相の言葉がまったく入ってこん。

 

 儂の目の前では4人の男女が赤いカーペットの上で膝をつき頭を垂れておる。

 こやつらは勇者とその仲間たち。世界を征服せんとした魔王を討伐してきた者たちじゃ。


「陛下」


 どうすればよい。儂は絶対にこやつらに恨まれておる。今は下を向いて顔が見えぬが、悪鬼のごとく様相をしておるのだろう。


「陛下、陛下」


 あぁ、昔の儂は何てことをしてしまったんじゃ。


「陛下!」


「なっ! なんじゃ!」


 突然、耳元で大声を出されたものでビックリしてしまった。


「勇者御一行にお言葉をお願いします」


「あぁ、そうじゃな。……勇者たちよ大義であった。そなたたちの偉業は未来永劫語り継がれるだろう」


 もともと、決めておった文言を何とか絞り出した。


 まずい、元々印象最悪なのに大事な所でボーッとしてしまった。

 勇者たちの反応はどうじゃ?


「あっ、ありがたきお言葉でございます」


 震えとるー! プルプルしておる!


 あれは怒りを無理やり押さえているやつじゃ! 

 

 やらかしたー! 


 ……儂の人生もここまでか。王となり長い間、責務を全うしてきたつもりじゃが終わりとは呆気ないものじゃな。


 あぁ、国民が断頭台に乗せられた儂を蔑むような目で観てくるのが目に浮かぶわい。


「これにて、謁見を終了する。褒美については後日追って伝える」


 あの時、どうしてあんなことを……。



    ◇


  

 窓からの陽射しが心地よく、儂の執務室が明るく照らされる。


 そんな陽気とは裏腹に儂の体調は最悪。

 こんな時でも、世界中で魔王による被害が出ておる。その対応に追われ儂は三日は寝ておらんかった。


 霞む意識を頬を叩いて戻し、迅速に、されど慎重に書類をさばく。


 どの書類も重要なものばかり。ひとつでも判断を間違えれば、甚大な被害が出る。


 儂にかかる重圧はそれはもうとてつもないものじゃった。

 そんな無理な仕事の仕方で精神的にも限界を迎えておった。


 心を押し殺し、淡々と仕事をこなしていたとき。扉の外が騒がしくなった。


 なんじゃ……騒々しい静かにできんのか。


 コンコンコン


「火急の報告がございます」


 火急の報告じゃと? 儂がやってる仕事は全て火急のものじゃ。


「入れ」


「失礼します」


 入ってきたのは銀色に輝く鎧を着た大柄の中年の男。

 我がグローリ王国の誇る、騎士団団長メルトその人である。


 重い鎧を纏っても、身体の軸がぶれることはなく。その歩みに淀みはない。


 メルトは部屋に入り数歩歩いた後に膝をつき頭を下げる。


 大男がそんな体勢でいるのは違和感しかないが、儂はこやつが忠誠心の高いことを知っておる。


「ご報告いたします。先程、闇を払う勇者が誕生したとレリフ教会から連絡がございました」


 ガタッ!


 その報告は儂の想像をこえるものじゃった。超えすぎて身体が上に跳ねるほどじゃ。


 落ち着け、落ち着くのじゃ。


 レリフ教会。

 儂の国ではレリフ教会を国教としておる。レリフ教には勇者の伝承があり、曰く世界が未曽有の危機に陥った時、神が遣わした戦士が世界を救うと伝わっておる。


 儂もレリフ教の信徒となっておるが、正直そんなもん信じておらん。そんなもん信じて国を守れたら苦労せんわ。


 しかし、影響力があるのもまた事実。悪どいことしている訳でもなく、国民の支えになっている部分もある。


「……そうか、では儂らも選ばれた勇者に支援をしなければならんな」


 レリフ教など信じておらんが、勇者が現れた以上全てが嘘という訳でもなかろう。なれば忌まわしき魔王を討ち果たす可能性はある。


 今のグローリ王国では魔王を討伐することは不可能。ここは勇者とやらに託すしかないか。


 なんとも滑稽なことか。儂がいくら努力しようと悪化の一途を辿っていたというのに、信じてもおらんかった勇者に縋るしかないとは。


「して、メルトよ。勇者はいつ頃出発するのじゃ?」


「はっ! 10日後だと伺っております」


 となれば準備の時間もあまりない訳じゃな。


「では、10日後。勇者が出立するその日に謁見を行うこととする」


 それからは、更なる仕事に追われ寝る時間もほぼ取れず、あっというまに時間が過ぎていった。


 気付いたときには謁見の日の当日。


 とてつもなく黒くなった目元を隠すようにいつも以上に化粧を濃く施し、謁見に臨む。


 胸を張り、姿勢を正す。


「勇者御一行が到着されました」

 

 兵士の声が聞こえたかと思えば、見慣れた重厚で煌びやかな扉が開かれる。


 入ってきたのは、4人の男女。彼らが魔王討伐に赴く勇者とその仲間たちである。


 一人は空を溶かし込んだような短髪の女性。耳が長く尖っているのでエルフだとわかる。エルフは魔法の扱い長けた種族。その中でも彼女は優秀なのじゃろう。


 一人は猛るような赤髪の男性。その巨体はグローリ王国騎士団団長メルトに匹敵するほどのものであった。彼から発せられる強者の風格は魔王討伐に加わるにふさわしいものである。


 一人は濁りを知らない純白の女性。彼女のことはアレフ教会から聞いておる。伝承で勇者と共にあったとされる聖女。それに選ばれたのが彼女という訳じゃ。


 そして先頭におるのが勇者。金色の髪に青く澄んだ瞳。彼からは他にはない特別なものを感じる。これが神に遣わされたと言われる所以なのじゃろうか。


 彼らは少し歩き、謁見の間の中央付近で止まり膝をつく。


 いつもの光景。謁見の相手が特別なこと以外は今まで幾度となく行ってきたものである。


「面を上げよ」


 儂の言葉の後、少し間を空けて4人とも同時に顔を上げた。


「勇者とその仲間たちよ、よくぞ参った。今の世は魔王によって先も見えぬ闇に包まれ、我が王国の民も日々不安をつのらせておる。……しかし、そなたちが現れた。闇を打ち払い光を取り戻すその役目、託したい」


 決められた文言。

 本当ならもっと複雑な段階を踏んでから本題に入るが、今回の謁見は特別なもの。時間をかけて行うことは出来ない。


「はっ! ありがたきお言葉。私、勇者アルス。謹んでお受けいたします」


 勇者が再度、頭を下げる。

 

 なんという、オーラじゃ。まるで、神聖な光を放っておるかのように錯覚してしまう。


 これが勇者。神の遣わした存在か。


「ありがたい。では、儂からも贈り物がある。聞けば装備も自由に使える資金もないと聞く。雀の涙のようなものじゃが受け取って欲しい」


「はっ! ありがたく」


 そう言って持ってこさせたのは、宝物庫にあるような業物の武器……ではなく一般兵士の標準装備。


 これから資金に困ることのないほどの金貨の山……ではなくそれなりの宿に三日は止まれるかという程度の資金。


 儂は緊張で顔が強ばるのを感じた。


 ……これは儂からの挑戦状。


 儂が何年も命を削るような思いをして守ろうとしてきた、この国を、世界を、ぽっとでの奴らが救うと抜かしおる。


 儂がどれほど努力をしてきたかわかるまい。


 愛する家族ともろくに会えず、毎日人の生死に関わるようなことばかり。


 大を生かすために見捨てた人たちもおる。


 どれほど辛かったか、お主たちにはわかるか。罪なき人を殺す決断をするというのは。


 それを長い間やってきた。皆は仕方がないことだと儂を慰める。……確かに、それしか方法が見当たらなかったのは事実。


 しかし、空から観れば小さな犠牲でも、そのものたちからしたら大事な、替えの聞かないひとつの命。


 ……もし、本当に神が遣わした存在だというのであれば。


 ……闇を打ち払い世界を救う勇者であるのであれば。


 これぐらいのこと、はね除けて成し遂げて見せよ。


 全てを救って見せよ。


 このような決定は儂の独断によるもの。

 宰相や他の側近からは最後まで反対されていた。


 ……しかし、これだけは譲れぬ。


 あまりの疲れのあまりまともな判断が出来ていないかもしれない。


 じゃが、後悔はせぬ。

 将来、儂はこの判断をしたことを後悔せぬと誓おう。


 勇者たちの方へと視線をやれば、勇者が怒りのあまりか震えておる。


 無理もなかろう、侮辱されたような気分であろうな。


「では、勇者たちよ。そなたらの道に光が有らんことを願っておる」


 そう言い退出を促す。


 勇者は何も言わず、下を向いたまま退出していった。


 そう……儂は後悔はせぬのしゃ。


 

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