読み進めるうちに、自分の中にも思い当たる感覚が静かに浮かび上がってくる掌編でした。ごく些細な出来事から始まる語りなのに、気づけばその奥にある感情や視線を一緒に辿っているような読み心地になります。どこか居心地の悪さを覚えつつも、目を逸らせないまま読み続けてしまう感覚が印象的でした。声高に何かを訴えるわけではなく、淡々とした語りの中に残る感触が、あとになってじわじわと染みてきます。静かな独白に耳を傾けるような時間を味わえる一編でした。
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