家族から「社会のゴミ」と罵られ、【洗い物】だけが役割だった引きこもりニートの俺が、【万物浄化】スキルに覚醒し、唯一無二の『聖具師』として世界一の専門店を経営することになった件
第27話 衆目の前の大恥、約束されたカタルシス
第27話 衆目の前の大恥、約束されたカタルシス
「……よかった。お腹、いっぱいになったみたいですね」
リリアに支えられながら、俺は生まれ変わった『世界樹の若杖』に微笑みかけた。
手のひらに伝わる、暖かく、穏やかな生命の脈動。
あれほど飢えと渇きに苦しんでいた魂が、ようやく満たされたのだと、その温もりが教えてくれていた。
俺の言葉に、杖が応えた。
今までとは比較にならないほどの、ひときわ強い祝福の光を、天に向かって解き放ったのだ。
「え……?」
「な、なんですの、この光は……!?」
純白の光は、もはや工房の中だけには留まらなかった。
店の壁を、扉を、天井を、まるで存在しないかのように透過し――外の世界へと、一筋の閃光となって、真っ直ぐに突き抜けていったのだ。
◇
「フン……。まだ、しぶとく光を放っているか。哀れな偽物め」
店の外では、カイン・フォン・アークライトが、腕を組み、勝ち誇った笑みを浮かべていた。
彼の目には、店から断続的に漏れ出る光が、皿井アラタという男の、最後の断末魔にしか見えていなかった。
「もうすぐだ。もうすぐ、あの汚物の生命力が尽き、この茶番も終わる」
彼の扇動を信じ込んだ野次馬たちも、固唾を呑んでその瞬間を待っている。
だが、その時だった。
ドッゴオオオオオン!!!
雷鳴のような轟音と共に、『アクア・リバイブ』の建物全体から、天を衝くほどの巨大な光の柱が立ち上ったのだ。
「なっ……!?」
「ひ、光が……! 店を突き破ったぞ!」
野次馬たちが、驚愕の声を上げて空を見上げる。
光の柱は、天高く昇ると、まるで巨大な花が開くように、街全体へと降り注いでいった。
それは、真昼の太陽よりも明るく、しかし、どこまでも優しい、慈愛に満ちた光のシャワーだった。
「な、なんだ……この光は……?」
カインも、さすがに予想外の事態に、口をあんぐりと開けて空を見上げていた。
だが、彼の驚愕は、すぐに別の感情へと変わる。
「おい、見ろよ! 俺の腕の切り傷が……!」
「え? ……うわっ、本当だ! 昨日の訓練で負った痣が、綺麗さっぱり消えてる!」
「体の中から、力がみなぎってくるようだ……! 魔力も、完全に回復してるぞ!」
光を浴びた野次馬たち――その多くは、日々の戦いで傷や疲労を蓄積させていた冒険者たちだ――が、次々と奇跡の声を上げ始めたのだ。
かすり傷は癒え、疲労は消え去り、枯渇していた魔力は満たされていく。
それは、高位の神官が放つ、広域回復魔法を遥かに凌駕する、まさしく神の御業だった。
「す、すごい……! あの店から放たれた光が、俺たちを癒してくれてるのか!?」
「間違いない! あの浄化師様が、奇跡を起こしてくださったんだ!」
「『死喰らいの茨杖』を浄化しただけじゃない……! その祝福を、街中に分け与えてくださったというのか……!」
嘲笑と憐れみの視線は、いつしか熱狂と崇拝の眼差しへと変わっていた。
人々は、奇跡の発生源である『アクア・リバイブ』に向かって、祈るように手を合わせ始める。
「おお……! 聖人だ! あの店には、聖人がいらっしゃるぞ!」
「浄化師様、万歳! 浄化師様、万歳!」
嵐のような歓声と、熱狂的な賞賛。
その光景を、カインは顔面を蒼白にさせながら、ただ呆然と見つめていた。
「ば……馬鹿な……」
彼の唇から、か細い声が漏れる。
「死ぬんじゃなかったのか……? 生命力を吸い尽くされて、醜く干からびるんじゃ……なかったのか……!?」
彼の予言とは、真逆の結末。
いや、真逆どころではない。最悪の呪物が、最高の祝福をもたらす奇跡の触媒へと生まれ変わってしまったのだ。
野次馬の一人が、カインの呟きを聞きつけ、嘲笑うように言った。
「おいおい、アンタ、さっきなんて言ってたっけ? あの浄化師様は無様に死ぬ、だぁ? とんだ大嘘つきじゃないか!」
「そうだそうだ! Sランク鑑定士サマの目は節穴かよ!」
「俺たちの前で、偉そうに死の予言たぁ、笑わせてくれるぜ!」
侮蔑と嘲りの視線が、今度はカインへと集中する。
プライドの高い彼にとって、それは死よりも耐え難い屈辱だった。
「ち、違う! こんなものは……!」
カインは、顔を真っ赤にして叫んだ。
「ま、まぐれだ! 何かの間違いだ! あんな汚物に、こんな奇跡が起こせるはずがない! きっと、杖が暴走しただけだ!」
あまりにも見苦しい言い訳。
だが、その言葉を信じる者は、もはやこの場には一人もいなかった。
「往生際が悪いぞ、貴族様!」
「インチキはお前の方だったってわけだ!」
「もうお前の言うことなんか、誰も信じねえよ!」
四方八方から浴びせられる罵声。
カインは、ワナワナと拳を震わせ、憎悪に燃える瞳で『アクア・リバイブ』を睨みつけた。
「皿井ィィィ……アラタァァァァッ!!」
怨嗟に満ちた絶叫は、熱狂的な歓声の渦にかき消されていく。
『死を予言した大嘘つき』『インチキ鑑定士』。
新たな、不名誉極まりない称号を背負ったカイン・フォン・アークライトは、衆目の前で、人生最大の屈辱を味わい、逃げるようにその場を走り去るしかなかった。
◇
「……すごいことになってますね、外」
俺は、リリアに肩を借りたまま、窓の外から聞こえてくる熱狂的な歓声に、若干引き気味に呟いた。
「当然よ! あんた、とんでもないことしたんだから!」
リリアは、興奮冷めやらぬといった様子で、俺の背中をバンバン叩く。
「それにしても……ふふっ、アイツの真っ赤な顔、傑作だったわね!」
彼女は、カインが逃げ去った方角を見て、実に痛快そうに笑った。
「ええ、本当に。これ以上ないほどの、お灸になりましたわね」
セナさんも、口元に手を当てて、くすくすと上品に笑っている。
「……自業自得」
クロエさんは、短く、しかし的確にそう呟くと、俺の前に立ち、外の群衆から俺を守るように、静かに盾を構えていた。
俺は、そんな頼もしい仲間たちに囲まれながら、ただただ圧倒されていた。
最高の『洗い物』ができた満足感と、これからどうなるんだろうという、途方もない不安を感じながら。
外の熱狂は、収まる気配がない。
それどころか、「浄化師様に会わせてくれ!」「一目だけでも!」という声が、どんどん大きくなってきている。
俺たちの、そして『アクア・リバイブ』の、嵐のような一日は、まだ始まったばかりだった。
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