家族から「社会のゴミ」と罵られ、【洗い物】だけが役割だった引きこもりニートの俺が、【万物浄化】スキルに覚醒し、唯一無二の『聖具師』として世界一の専門店を経営することになった件
第11話 ギルドの嘲笑とエリート鑑定士の侮蔑
第11話 ギルドの嘲笑とエリート鑑定士の侮蔑
「さあ、着いたわよ! ここが冒険者ギルドよ!」
リリアの快活な声と共に、俺は巨大な観音開きの扉の前に立たされていた。
オーク材だろうか、重厚な扉にはドラゴンの彫刻が施され、その威容だけで俺のような社会のゴミを圧殺するには十分すぎるほどのプレッシャーを放っている。
(む、無理無理無理! なんだこのラスボスの城みたいな建物は! 俺が入っていい場所じゃない!)
腕をがっちり掴まれたまま、俺は必死の抵抗を試みる。
「あ、あの! 俺、やっぱりここで……!」
「何言ってるのよ、ここまで来たんだから! さ、入るわよ!」
リリアは俺の懇願などお構いなしに、ギギギ…と重い音を立てて扉を押し開けた。
その瞬間、俺の全身を、むわっとした熱気と喧騒が叩きつけた。
「うおぉぉ! 今日の酒はうめぇな!」
「聞いたか? 南の森にワイバーンが出たらしいぜ!」
「誰かヒーラーはいないか! パーティーメンバーを募集する!」
広いホールの中は、おびただしい数の人間でごった返していた。
筋骨隆々の戦士、鋭い目つきの盗賊、ローブをまとった魔法使い……誰も彼もが屈強で、歴戦の猛者といった雰囲気を醸し出している。酒の匂い、汗の匂い、そして微かな血の匂いが混じり合った、独特の空気がホールを満たしていた。
(うわああああ……陽キャの巣窟だ……! 俺みたいな陰キャが立ち入ったら、存在ごと蒸発して消し炭にされる空間だ……!)
俺はリリアの背中に隠れるようにして、必死に気配を消そうと縮こまる。
だが、無駄な努力だった。
「ん? おい、見ろよ。リリアじゃねえか」
「本当だ。最近見なかったが……ん? 隣にいるあのヒョロっとした男は誰だ?」
「なんだあの格好。薄汚ねぇスウェットじゃねえか。どこの浮浪者だよ」
好奇と、そして侮蔑が入り混じった視線が、槍のように俺に突き刺さる。
ひそひそとした嘲笑の声が、俺の貧弱なメンタルを的確に削り取っていく。
(やめて! 見ないで! 石を投げないでください! ごめんなさいごめんなさい!)
羞恥と恐怖で、膝がガクガクと震えだす。
その時、俺の前に立つリリアが、毅然とした声で言い放った。
「何か文句でもあるわけ? この人は、あたしたち『クリムゾン・エッジ』の恩人よ。無礼な視線を向けるのはやめてもらえるかしら」
その凛とした態度に、周囲の冒険者たちは一瞬たじろぎ、バツが悪そうに視線を逸らした。
(リリアさん……カッケェ……)
俺を庇ってくれるその姿は、まるで物語の主人公のようだった。
だが、その騒ぎが、新たな厄介事を引き寄せてしまったらしい。
「おや、これはこれは。随分と威勢がいいじゃないか、リリア・フレイムハート。落ちぶれても、その口だけは達者なようだ」
人ごみがモーゼの海割りよろしく左右に分かれ、その間から一人の青年が、カツ、カツ、と靴音を響かせながら現れた。
白を基調とした、貴族趣味の豪奢な装い。銀縁の眼鏡の奥で、冷たく光る理知的な青い瞳。プラチナブロンドの髪は完璧に整えられ、その立ち居振る舞いには、育ちの良さと、他人を見下すことが当たり前だという絶対的な自信が満ち溢れていた。
「カイン……!」
リリアが、苦虫を噛み潰したような顔で青年の名を呟く。
カインと呼ばれた青年は、リリアの隣に立つ俺に、まるで汚物でも見るかのような侮蔑の視線を向けた。
「ふん。そんな薄汚い男を『恩人』とはね。リリア、君も堕ちたものだな。もはやAランクの誇りも捨て去ったか」
「あなたには関係ないでしょ! アラタは本当にあたしたちを救ってくれたの!」
「救った? この男が? 寝言は寝て言うんだな」
カインは心底おかしいとでも言うように、鼻でフンと笑った。
その態度に、リリアの堪忍袋の緒が切れたらしい。
「信じないなら、これを見なさい!」
そう言って、彼女は俺が浄化したばかりの『神速の籠手』をカインの目の前に突きつけた。
「このガントレットは、あなたも知っているでしょう! 誰にも解けなかった呪いを、彼が浄化してくれたのよ!」
カインはガントレットを一瞥すると、わずかに眉をひそめた。
「ほう……確かに呪いの気配は消えているな。だが、それがこの男の力だと? まさか。どこぞの神殿にでも泣きついて、高額な寄付と引き換えに浄化してもらったのだろう。君たちのなけなしの金で」
「ち、違うわ! それだけじゃない!」
リリアはさらに、俺が小脇に抱えていた聖剣をひったくるように取ると、カインの目の前に掲げてみせた。
「この剣を見て! これは、彼がダンジョンから出たただの鉄屑を、浄化したものなのよ!」
聖剣エクスカリバー・ゼロが、ギルドの薄暗い照明の下で、神々しいまでの清らかな光を放つ。
周囲の冒険者たちから「おお……」という、どよめきが起こった。
さすがのカインも、その尋常ならざるオーラを放つ剣を見て、一瞬、言葉を失ったようだった。
だが、それもほんの一瞬。
彼はすぐにいつもの尊大な笑みを取り戻すと、俺を指さして、ギルド中に響き渡る声で言い放った。
「はっ! 茶番も大概にしろ!」
その声は、冷たい刃のように俺の心を突き刺した。
「リリア、君もついに気が狂ったか? その男を見ろ。生気のない目、貧相な体、浮浪者のような身なり。そんな汚物が、伝説級のオーラを放つアイテムを浄化するなど、万に一つも有り得ん!」
カインは断言した。
その言葉は、ギルド内の空気を完全に支配した。どよめきは嘲笑へと変わり、冒険者たちは「だよな」「どうせイカサマだろ」と囁き合っている。
俺は、ただ俯くことしかできなかった。
彼の言う通りだ。俺はゴミで、失敗作で、汚物だ。そんな俺が、奇跡みたいなことを起こせるはずがない。さっきのは、全部まぐれだったんだ。
だが、カインの侮辱は、俺だけにとどまらなかった。
「なんだその玩具は。どこかの遺跡から拾ってきた見栄えのいいガラクタを、さも自分が作り出したかのように吹聴するとはな。詐欺師がやることだ」
ガラクタ……?
その一言が、俺の心の奥底で、何かにカチンと引っかかった。
(違う……あれは、ガラクタなんかじゃない……)
俺が、命を懸けて洗い清めた、俺の『作品』だ。
俺の人生で初めて、完璧に成し遂げた、誇れるべき仕事だ。
カインは、そんな俺の内心など知る由もなく、勝ち誇ったように宣言した。
「よかろう。そこまで言うのなら、そのガラクタが本物かどうか、このSランク鑑定士である僕、カイン・フォン・アークライトが、直々に鑑定してやろうじゃないか」
彼は挑戦的に笑うと、俺たちに最終通告を突きつけた。
「ただし、もしこれが偽物だと証明されたら……リリア、君たち『クリムゾン・エッジ』と、その詐欺師は、このギルドから永久追放だ。いいな?」
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