第14話
なんとかしてあげたい、と思うのは傲慢だろうか。
俺ごときがどうにか出来るような問題では無い。
この子はそんな子じゃないと言ったところで、また違う男を捕まえて、とも思われかねない。
結局のところ、この子の問題はこの子が解決するしかないのだ。
自分の無力さが悔しい。俺ごときに何が出来る、なんの力もないただの陰キャなのだ。
ただ、この子は俺たちのように楽しくキラキラしたいと言った。
もしもこの子が願うのならば。
そう思い決心をかため、先ほどから思っていた気持ちを女の子に伝える。
「なぁ、俺とバンドしないか?」
「さっきさ、一緒に歌った時にすごい楽しかった。良かったらさ、一緒にバンドしないか?」
別にこれで女の子を助けられるなんて考えた訳じゃない。
ただ楽しかったから、俺の音楽の原点、そして歌っている時は女の子も少し笑っているように見えたんだ。
一緒に歌えればきっと楽しい、そんな確信があった。
「……わたしなんかで良ければ喜んで」
女の子が泣きそうな笑顔でそう答えた。
――
灯火に連絡する。
「ボーカル見つかった」
「は?」
「だからボーカル見つかった」
「……ケダモノ」
「なんでだよ」
灯火は俺に盗聴器でも仕込んでいるのではないだろうか。
まあそんなことあるわけないのだが。
とりあえずみんなで合わせてみようという話になり、
ヘルプでやってくれるというミミさんにも連絡して、土曜日にいつものスタジオを予約しておいた。
俺と灯火はいつもの通り一緒にスタジオに向かう。
すると未来がスタジオの前で座りこんでいた。
「おはよ、どうした、お腹でも痛いのか?」
「違いますよ、スタジオなんて初めてなのでどうすればいいのかわからなくて」
「あー、ごめんごめん、じゃあ一緒に入るとしようか」
俺たちは3人でスタジオの中へと入った。
「こんにちはー」
「ああ、天宮くんじゃないか、今日は3人で練習かい?」
このスタジオはいつも使わせてもらっているため、ほとんどのスタッフさんと顔見知りだ。
「まだ前のバンドがやってる最中だから時間まで待っててくれるかな」
「了解でーす」
とりあえず、俺たちは休憩スペースのイスに座り飲み物を飲む。
「へぇー、スタジオってこんな感じなんですね」
未来が物珍しそうにスタジオを見渡している。
「あ、すみません挨拶がおくれました、わたし希崎未来きさきみらいといいます」
「ん、あたしは三澄灯火、灯火でいいよ」
未来と灯火が挨拶を交わす。
「天宮くーん、もう前のバンド終わったから中はいってもいいよー」
スタッフのお兄さんに言われ、俺たちは練習室の中にはいる。
俺と灯火は慣れた手つきで楽器の準備を進める。
未来はどうしていいかわからずおろおろとしていた。
「あ、マイクはこっちで調節ね、こっちの音出すからちょうどいい感じで調節してみて」
灯火がドラムをたたき始める、俺も適当にベースを鳴らし始める、その音に合わせて未来が音量を調節していった。
そうこうしていると、後から遅れてミミさんが合流する。
「ごめんねー、ちょっと遅くなっちゃった!」
「大丈夫ですよ、遅れたっていっても少しだけですし」
先ほどスタジオに入って準備していたくらいだ、全然問題はない。
ミミさんも慣れた手つきだ、準備はすぐに終わった。
「じゃあ1曲合わせてみましょうか?」
「そうだねー、まずは未来愛歌やってみようよー」
「未来もおもいっきり歌っていいからね」
少し緊張している未来に向かってそう言葉をかける。
そして、曲が始まる。
未来はやはり緊張しているようで、以前公園で歌っていた時よりも遠慮しているように感じる。
一緒に歌えば歌いやすいかな?
そう思った俺は、マイクに向かっておもいきり声をだす。
少し安心したように未来も思い切りよく歌いだしていた。
曲が終わる。
「ふう、なかなかいい感じじゃない?」
「ですね、ギターさすがです、時間なかったのにここまで合わせてくれるとは思ってなかったです」
ミミさんとそんなやり取りをしていると。
「バンドってこんなに気持ちいいんですね!」
「カラオケとは全然ちがうというか、なんかすごかったです!」
未来が興奮気味にそう口にした。
じゃあほかの曲もやってみようか。
次はスローペースな曲にしてみようか、灯火に目配せするとカウントを始める。
そうして俺たちの初日スタジオ練習は終了した。
「あー、全力で声を出すってこんなに気持ちいいんですね」
「それならよかったよ」
素直に喜んでもらえてうれしかった。
「そういえば、未来、歌の歌詞全部覚えてるんだな、びっくりした」
「あー、ネットに上がってる曲は全部リピートして聞いてるんで。自然とおぼえました」
最近は曲のほうに重きをおいて、歌詞は二の次になることが多い。
自分なりに悩みながら書いた歌詞を覚えてくれているのは素直にうれしかった。
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