第13話
「あー、わたし不登校なんで。学校行ってないんですよ」
困った、これは踏み込んでもいい話なんだろうか?初対面でこの話はダメだろう。
とりあえず帰るとするか。いや、でもこのまま放っておくのも後味が悪いというか。
「あ、いまこの話は聞かない方がいいって思いましたね?」
どうやら見透かされていたようだ。
「初対面で気軽に話してもいい内容じゃないだろ?」
「別にいいですよ、みんな知ってる話なんで」
女の子は悲しそうにそう答えた。
「少し前にいいなーって思ってる人がいて、告白されたから付き合ったんですよ」
それはまあ、なんというかおめでたいお話で。
「でもその人、ヤリたいだけだったんですよね。いやー、男子って怖いですね」
「それで別れるって話してなんとか別れたんですけど、そこから嫌なウワサを流されてしまいまして」
「誰とでも寝る女、パパ活もしてる淫乱ビッチ」
学校で聞いたことがあった、特に興味もなかったので聞き流していたが、新入生にそんな女の子がいると聞いたことがあった。
俺が聞いたことがあるくらいだ、学校ではかなり広まっているウワサなのだろう。
胸くそ悪い話だ、いくら思い通りにならなかったとはいえ、そんな嫌がらせをしてどうするんだろうか。
俺には何が楽しいのかまったく分からない。
「気にしないようにしてたんですけどね、周りの男子の目は怖いし、女の子たちも離れていって」
「そこからどんどん人間不信になって、気づいたら学校行けなくなってました」
「もうね、正直生きていく気力がないんですよ。わたしはいつ死んでもいいでーす。なんて」
ブランコを漕ぎながらそう悲しそうに話す姿が、以前の俺に、いらない子なんだと諦めていた姿に重なったような気がした。
「聞いてくれてありがとうございました、少し気持ちが軽くなりました」
「またいい曲作ってくださいね、実はネットもしっかりチェックしてますので」
重たい話を少しでも軽くするようおちゃらけたように話す女の子だが、俺にはそれが逆に痛々しく思えた。
「……死んでもいいなんて簡単に言うな、俺の母さんは俺を産んで死んだ」
「いや、ごめん、君が簡単な気持ちで言ってるわけじゃないのは分かってる、それだけ君が傷ついてるのはそうなんだと思う」
「だけど死んだらそこで終わりなんだ。そこにもう未来はないんだよ」
女の子はポカンとした顔でこちらを見ている。そして少し微笑んだと思ったら。
「センパイはやっぱり優しいですね、まあ分かってはいましたけど」
女の子と話すのは初めてのはずだ、分かっていたとはなんだろうか。
「
え?
「わたしの名前、未来です」
「死んでもいいなんて言ってすみませんでした」
「……わたしはあなたに、あなたの歌に、生きろって言われたんです」
俺の目を正面にとらえ、はっきりとした言葉で告げる。
未来愛歌、俺が父さんと出会い、日和さんが卒業する時に作った歌。
生きるという意志と辛くても楽しく生きろというメッセージを込めた歌。
「ライブハウスで聴いた時、いい歌だなーって思いました」
「本当にみんな楽しそうで、なんかキラキラして見えました。わたしもあんなふうにキラキラしたいと思いました」
未来はあの時のライブを思い出しながら語る。
「その後は高校に入学して、どんな学生生活になるんだろうって楽しみにしてました」
「そんな時に例の事件があってウワサを流されて」
「もう死んでもいいやって、そうやって校舎をフラフラしてたんです、そしたら空き教室から歌が聞こえてきました」
「……天宮センパイが歌ってたんです、生きろって。辛くても生きろって」
俺がいつも練習している空き教室、たまたま俺が歌っていただけ、それがこの子を勇気づけた。
未来が無理やり作ったような笑顔で力なく語る。
「まあ結局その後学校には行けなくなったんですけどね、でも不思議と生きようとは思えたんですよ。……センパイのおかげです」
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