白銀の女武者
直時は上空から負傷者を介抱している
「そこの白いお侍さん! 大男が石を投げてきます! 早く何とかしないと!」
白銀の武者は勢いよく振り向いた。
「えっ!」
「えっ!」
しばし沈黙があった。
直時はその白い武者が女であることに驚き。白銀の武者は目の前に浮かぶ小人に驚いたのだ。
先に行動を起こしたのは白銀の武者だった。彼女は直時をひっつかんで怒鳴った。
「今の話はまことでございますか! その大男はいまどこに!」
「え、ええと、登城道を少しそれた林の中です。あの、ちょっ……苦しい……」
白銀の武者は直時をつかんだまま走り、土塁を駆け上がってふもとを見た。たしかに赤黒い肌をした大男がいる。
「
「ははっ。これに」
直時はその秀隆と呼ばれた青年を見てまた吃驚した。
「エ……エルフ!? しかも、日本の鎧を着たエルフ!?」
その青年はたしかにエルフだった。背は高く金髪碧眼。なにより耳が長くとがっている。
「来たか。見よ、あそこじゃ。大弩で狙い射よ」
「承知いたしました」
「どけどけ! 大弩を持ってきたぞ! 道を開けろ!」
運ばれてきたのは大きな弓を横倒しにしたような大型兵器だ。射る矢も丸太のような大きさで、西洋ではバリスタという。
しかし、直時にとって問題はそちらではなかった。
「今度はドワーフか……」
大弩を押して来たのはドワーフだった。短躯で筋骨隆々。肌は荒々しく立派な髭をたくわえている。当然、日本の鎧を着ている。
そのとき、石が板塀の一枚を叩き破って城内に飛び込んできた。大男が投石を始めたのだ。
「始まったか。急げ、勝重」
「やかましいわ! いまやっとる!」
秀隆というエルフから勝重と呼ばれたドワーフは、大弩の
「ほれ、準備できたぞ! 早く射よ!」
秀隆という青年武者は大弩の位置と射角を調整すると引き金を引いた。
丸太のような矢が射ち出され、大男の厚い胸板を一撃で貫いた。
「命中だ! やったぞ!」
櫓からそれを見ていた武者が歓喜の声を上げると、他の武者も歓声を上げた。
「皆の者! 彼奴らがいかようにしても、我が門を破ることは叶わぬ! もう少しじゃ! 援軍が来るまで持ちこたえようぞ!」
白銀の武者が直時を握りしめたまま一同を鼓舞すると、再び歓声が起こった。
直時はこの武者が若い女性だが、篭城側の大将であることを知った。
直時は必死に白銀の武者の手を叩いて、己の存在を思い出させようとした。そうでもしないと握り潰されてしまいそうだからだ。幸い、白銀の武者はすぐに直時のことを思い出してくれたらしい。握りしめた手を緩めた。
「失礼つかまつりました!」
白銀の武者は膝を折って直時に平伏した。
「え? え?」
直時の困惑をよそに武者は言葉を続けた。
「お姿は小さけれど、あなた様はきっと戦神のお使いなのでございましょう。どうか、我らを勝利にお導きくださいませ!」
「ま、待ってください! こう見えてもぼくは人間です! かか、神様の使いなどでは……」
直時が言いよどんでいるうちに、武者が応援の要請のために駆け込んできた。
「わかった、応援を回す! 秀隆、そなたは北の斜面へ! 勝重は表門の応援に行け!」
「承知いたしました」
「ははっ!」
ふたりを送り出した瞬間に、白銀の武者は直時のことを失念したようだ。
彼を捨て置き、大声を張り上げて武者たちを激励して回り始めた。矢継ぎ早に指示を飛ばし、そうかと思えば、負傷者を安全な場所へ担ぎ込み、時には弓を取って迫る敵を射た。
直時はそんな彼女の行動に感嘆の念を禁じえなかった。
「すごい人だ。この女性はぼくと同い年ぐらいだろう。それなのにこの困難に敢然と立ち向かっている……」
「もし、ぼくがあの立場ならどうなっていただろう。 動転して、冷静な判断などできないに違いない。敵からは喜ばれ、味方からは愛想を尽かされるのが落ちだ」
「何より立ち居振る舞いが堂々としていて、自信にあふれている。それが将兵に希望を与えている。これは……。敵わないな……」
直時もこれまでの人生でリーダーを任されたことが三度あった。しかし、それはことごとく失敗した。自分に自信を持てず、方針が揺らぐことが何度か重なったあげく、メンバーから愛想をつかされたのだ。
それ以来、直時は人の上に立つということを徹底的に避けてきた。直時が持ち合わせていなかった素質を彼女は持っていた。
直時は彼女に崇敬の念とほんの少しの嫉妬を抱いた。
激しい戦いはなお続いた。しかし、勢いに乗った人間側の反撃に化け物の側は押し返され、日暮れとともに後退していった。
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