合コンの参加者全員がサラダを取り分けようとする話

今福シノ

1.

 店員がサラダを持ってきたら、真っ先にトングに手を伸ばして取り分けようと心に決めていた。それが合コンで優位に立つ方法だと教えてもらったからだ。


篠原しのはら、いいか? 合コンってのはいかに女子に『この人いい感じかも』って思わせるかが勝負だ。誰よりも早く、な」


 大学に入って初めて受けた講義で、隣に座った遠藤えんどうさんは得意げにそう語った。さん付けで呼んだのは年上ゆえにだ。学年は同じだが二留しているそうだった。

 遠藤さんは講義そっちのけで僕に合コンでうまく立ち回る術を教えてくれた。二留はさておき、合コンで百戦錬磨だと自慢げに話す様は大学生になりたての僕には輝かしく見えた。少しでも自分の肥やしにしようと熱心に聞いた。おかげでその講義は単位を落とした。


 だけど、ついぞ僕を合コンに誘ってくれることはなかった。だいたい考えてみれば、合コンで百戦錬磨というのがもう最初から矛盾している。合コンでうまく立ち回れる人間はそう何度も合コンに参加しない。必要最小限の試行回数で、女の子とのお付き合いに発展させられる。


 そしていつの間にか、遠藤さんは大学に姿を見せなくなった。後から聞いた噂では、パチンコにのめりこんでいるとのことだった。彼が来年の春も新入生に合コンの講釈を垂れる姿が容易に想像できた。


 それでも、教えてもらった合コン術は理にかなっていると僕は思っていた。合コン未経験の僕にとって確かな武器だった。何もないよりかは、道しるべがあった方がいい。


 というわけで、僕は人生初の合コンでそのテクニックを――率先してサラダを取り分けることを実践しようとしていた。


「それじゃあ、サラダ取り分けますね」


 そう思ってさっそく声を上げた。はずだったのだが、


「い、いえ。私がやります」

「二人ともいいっていいって。こういうのは年上に任せておきなよ」

「いやいや、俺がやるからいいよ。みんな座ってなって」

「その通りだ。女性陣にさせるわけにはいかないからな。というわけでここは俺が」

「みんな気を遣いすぎー。ウチがいちばんサラダに近いし、ウチがやるってばー」


 返ってきたのは三者三様ならぬ五者五様に、我先にとサラダを取り分けようとする声。


 その瞬間、僕は遠藤さんの言葉の真意を理解する。そうか、合コンというのはまさにテーブルを囲んだ男女による戦いで、なおかつ先手必勝が求められているのだと。


 ――これは、合コンで誰がサラダを取り分けるかを決める話だ。

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