第7話 — くまちゃんの夜狩り
家の中は、ようやく静まり返っていた。
泉は光に包まれた聖人のように眠り、
タケルは常に戦闘態勢の兵士のように眠り、
芽衣は甘いパンの丸い塊のように眠っていた。
そして春海は――
布団に轢かれた人間のように眠っていた。
布団は落ちて、枕は行方不明、
片方の靴下はどこかへ旅立ち、
髪の毛はコンセントと喧嘩したような有様。
完璧な平和。
――のはずだった。
tap… tap… tap…
「……はる……?」
春海は片目を開けた。
もう片目も開けた。
古いパソコンが再起動しているような動きで。
「んん……?」
芽衣がベッドの横に立っていた。
目が涙でうるうるしている。
「……クマちゃんが……」
春海は瞬きをした。
またした。
さらにした。
「ク、クマ……ちゃん?」
「……わたしのおさるさん……」
芽衣は鼻をすすった。
「……お外に置いてきちゃって……」
春海は勢いよく立ち上がった。
布団に足を取られ、危うく命を落とすところだった。
「えぇぇぇっ!? クマちゃんがこの寒さに置き去り!?
それはもう立派な犯罪!!」
泉が片目だけ開けた。
「はる……今、深夜2時だよ……」
「だからこそ!! 今まさにぬいぐるみが一番つらい時間帯なの!!」
春海は髪をかきあげ、悲劇のヒロインのポーズを決める。
泉はくるりと向きを変えた。
「……がんばれ……深夜の自警団……」
春海は手当たり次第に服を着た。
フードは前後逆。
ズボンは泉のやつ。
そして何故か――エプロンを装着。
そう、エプロン。
芽衣はふわふわのスリッパを履いてついてくる。
そこへタケルが廊下に現れた。
「どこ行くの。」
眠いのにキレ気味。完全にミニ侍。
「クマちゃん救出よ!!」
春海は軍司令官のように宣言する。
タケルはため息をついた。
「場所、知ってる。」
春海は固まった。
「……は?」
「じいちゃんの家。」
春海の目がカッと開いた。
じいちゃんの家……?
ということは……
家がある……?
いや待って、じゃあ、ふたり……家から逃げてきたってこと!?
春海はゴクリと唾を飲んだ。
「……どういう意味でじいちゃんの家って……?」
タケルは無表情でコートを着た。
「いいから。行くよ。」
こうして深夜2時半。
大人とは思えないポンコツな春海、
愛を求めてうるうるしている芽衣、
世界の重荷を背負っているようなタケル。
この3人は夜の町へと出発した。
だが春海は知らなかった。
このあと更なる衝撃が待っていることを――。
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