第16話 オルレア
アヌは泣き喚くオルレアのスモックを乱暴に剥ぎ取ると、襁褓をずらした。
そしてまた衿を掴んで吊り上げ、その場の全員にオルレアの背中と臀部を見せて回った。
確かに肌は綺麗で、アヌの言ったような証というのは見当たらなかった。
オルレアの泣き声があまりにも凄かったからか、コントナー卿がうんざりした表情で何か呟き、オルレアの鼻先を弾いた。
すると、オルレアはびっくりしたように身体をのけぞらせ、ぴたりと泣き止んだ。
「勝手はおよしなさい」
フェリスが咎めた。コントナー卿は肩をすくめた。
「なに、うるさくてかなわんから、しばし声を止めただけだ。どうでもいいから、早く済ませてくれんかねぇ。わしは眠い。それにねちねちと人をいじめるのは好かん」
「その子に妙な真似をしないで!」
ドルテが身をよじるようにして、オルレアの方を見ながら叫んだ。
「お黙りなさい」
ロザリア公妃の凄みのある声が響いた。
ロザリア公妃はドルテの顎に扇子を突き当て、ぐっと上向けた。
「この女子は誰の子なの? 少なくともロクライ様の子ではないのね」
そう言って、応えを要求するように、扇子を何度か上に動かした。
ドルテは顔を背けて、扇子をはねのけた。
面白そうにその場を眺めていた老奥様が「よろしいですか」と呼びかけた。老奥様は鼻を鳴らすと、偉そうに指を振った。
「公妃殿下、聞かずとも明白です。その子供、三世閣下と瓜ふたつではありませんか。閣下も子供の頃は白っぽい灰色の髪でしたし、薄い空色の瞳、表情まで同じですわ。女の子は父親に似るといいますからねぇ」
フェリスがわなわなと震える手を握り合わせて
「夫人、大公妃殿下の御前ですよ。言葉を慎みなさい」
と睨み付けた。
「いいのよ、フェリス。私はセフダン嬢の口から真実を聞きたかったのだけれど、ごらんなさいな、血が滲む程に唇を噛んでいるのね。絶対に言わないつもりよ」
ロザリア公妃は、呆れたように扇子を空で打った。
モリヤがその日の午後、ドルテとオルレアがデュカ三世と抱き合う姿を見て「親子のよう」と漠然と受けた印象はともかくとしても、老奥様の自信ありげな指摘は、まず間違いのないことのように思われた。
そして、ロザリア公妃達はそれを知っていて、あえてドルテに問い質している。
まずい状況だ。モリヤは首筋の冷や汗を拭った。
応接室は重苦しい雰囲気に包まれた。
下を向いてがたがたと震えているドルテが哀れで、モリヤは側に行き励ましてやりたかったが、足がすくんで動けなかった。
突然、老奥様が叫ぶように言った。
「あなたが淑女ですって? 爛れた売女め」
更にドルテを指差して、甲高い声をあげる。
「権力者を渡り歩いて。傾国の美女にでもなったつもり?」
そこまで言われてもドルテはきつく唇を結んだままだ。
「傾国の美女!」
ロザリア公妃がけたたましい笑い声をあげた。
「いいこと? 美しい蝶が蜜を求めて、あちらこちらと花の間を飛び回るのは、たとえそれが本能だとしても危険なのですわ」
ロザリア公妃は笑顔で言いながら、壁際にゆっくり歩いていった。
漆喰の壁に大きな影が揺らめくのを見たロザリア公妃は目を瞬き、扇子を広げてふわふわと振った。
映った影は、蝶が舞うように見えた。
「とまる花を間違えてしまう蝶もいる」
ロザリア公妃は扇子を高く掲げたまま振り向くと
「セフダン嬢? 私、三世閣下の正妃として、あなたへの仕置きをいくつか考えたのですけれど」
と言い、少し間を置いてから、優雅な手つきで扇子を振り下ろした。
「その子供を殺してしまおうかしら」
言い放った瞬間、アヌに抱かれたオルレアは、身悶えして涙をぽろぽろとこぼした。
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