第14話

「ああ、もう最低ッね!」


 その女の人は、キラキラ光るイヤリングを外しながら鏡に映る自分に向かって言いました。


「お疲れ様。そうかい、急な話だったが君は良くやってたと思うよ」


 隣にいた男の人はカフスボタンを外しながらなだめるように答えます。


「音楽会のことじゃないわ。

このせいであの子が怒っているだろうってことよ」

「う~ん、まあ、しかたないよ。今日、出演するはずのメンバーが出られなくなったんだからね。大丈夫、あの子は聞き分けの良い子だから怒ったりしないよ」


 女の人は髪のセットをわしゃわしゃと崩しながら、男の人を見ました。すこし、信じられないという表情でした。


「だから、心配なのよ。

これだから男親ってのは!

あの子がどれほど我慢しているのか分かってないのね」

「へぇ、そんなものかねぇ~」


 男の人は呑気そうにそう答えると、するりとネクタイを外しました。


 シャン シャン シャン シャン


  微かに鈴の音が響き渡ります


 男の人はふと胸に手を当てるとすこし、考え事をしました。


「そうだねぇ、明日、少し遅くなったけどパーティをやり直すかい。

プレゼントも買い直すとか」


 男の人は女の人にそう提案しました。女の人も少し思案げに首をかしげていましたが、ニッコリ微笑みました。


「そうね。スッゴク甘やかしてあげましょう」




「お疲れ様。お先帰りますね」


 男の子のお母さんは挨拶をして外に出ました。出口で外がすっかり雪に覆われているのに少し驚き立ち止まりました。


「やれやれ」


 お母さんはポケットに手を入れると背中を丸めて家に向かって歩き始めました。


 シャン シャン シャン シャン


  微かに鈴の音が響き渡ります


 お母さんはふと歩みを止めると空を見上げました。なにか鈴の音が聞こえた気がしたからです。ふと、ケーキ屋さんが目に留まりました。

そして出かけに子供たちに置いておいた小さな小さなケーキのことを思い出しました。なぜでしょうか、少し無理してでも子供たちにもっと大きなケーキを買ってやりたくなりました。


「すみません。ケーキありますか?」


 ケーキ屋へ入ると店員さんにお母さんはそう話しかけました。




 女の子はふと目を覚ましました。そこはベッドの中です。まだ、少し夢見心地でした。

 そばにだれかがいる感触がありました。

 その人は優しく優しく頭を撫でてくれていました。視線を向けると、それはおじいさんでした。

 おじいさん、と女の子は少し鼻声でささやきました。おじいさんは無言でうなづき、ただ頭を撫でてくれました。


「わたし、ひどいこと言っちゃったの」


 女の子は今にも消え入りそうな声で言います。


「あの子の言う通りなのに

わたし、自分勝手なことばかりいって、自分のことしか考えなかったの自分の方なのに、ひどい事いって、わたし、わたし……

わたし、あの子に謝らないといけないの。

パパやママにも、でも、でも……もう遅いの」

「大丈夫じゃよ。

安心しなさい。きっと会える。謝るのに遅すぎるなんてことはないよ。

だから、大丈夫」


 女の子ははっと目を覚ましました。気づくとベッドの中で寝ていました。ずっとだれかに頭を撫でてもらっていたと思いましたが誰もいませんでした。耳を澄ますと階下で人の声がしました。



「ふう、疲れた」


 女の人はソファに腰を下ろしながら言いました。


「なにかアルコールでもご用意しましょうか?」


 男の人のコートを受け取りながら執事さんが言いました。


「そうだね。ブランデーを少し温めて持ってきてくれないか」

「かしこまりました」


 執事さんが出ていくと男の人は女の人の隣に座りました。

 ガチャリと音がして扉が開きました。

 執事が帰ってきたのかと、二人は同時に扉の方へ顔を向けました。

 でも扉のところにいたのは女の子でした。


「まあ、起きてたの?」


 女の人が反射的に立ち上がると女の子は泣きながら抱きついてきました。一瞬、驚きましたがすぐに女の人は女の子を優しく抱きしめました。


「あらあら! 

ごめんなさいね。寂しかったでしょう」

「ううん ううん それはいいの

ごめんなさい、ごめんなさい」

「えっ? なに、なにを謝ってるの?」

「わたし、パパやママの音楽会がダメになればいいなんて思ったの。

ひどい事を考えていた。だから、ごめんなさい」

「あら、まあ……そうなのね

でも、いいのよ。謝らなくても。謝らなくちゃいけないのは私たちのほうだからね。

寂しい思いをさせちゃったわね。

ごめんなさいね」

「そうだよ。謝るのは私たちのほうだ」


 男の人も言いました。


「それでな。

遅くなったが明日もう一度パーティーをやり直そうかとママと相談していたんだよ。プレゼントも買い直してね」

「そうなの?」


 女の子を顔を上げて男の人と女の人を見ました。二人は微笑みながらうなずき返しました。


「じゃ、じゃあ、お願いがあるの。


朝一番でおもちゃ屋さんでね、猫のぬいぐるみを買いたいの」


「「猫のぬいぐるみ?」」


 二人は不思議そうに顔を見合わせました。よく分かりませんでしたが、男の人が、ああ、勿論、と承諾しました。


「それで、パーティーにはお友だちを呼びたいの」

「勿論、大歓迎だよ。で、名前はなんて言うんだい?」

「知らない」

「「知らない?!」」


 またもや二人は顔を見合わせました。


「まあ、いいさ。で、どこに住んでいるんだい?」


 女の子はふるふると首を横にふりました。

 男の人は、困ったように言いました。


「いや、しかし。名前も住んでるところも分からないと、どうやって招待したものか……」

「大丈夫!

絶対会えるから。サンタさんがそう言ってくれたもの」


「「サンタさん……が?」」


 男の人と女の人は三度顔を見合わせました。





 シャン シャン シャン シャン


  微かに鈴の音が響き渡ります




 メリークリスマス メリークリスマス




  あなたの心が


   ほんのちょっぴり暖かくなるように




 メリークリスマス メリークリスマス




  その温もりが 大きくなって


    みんなの心に届きますように








 メリークリスマス


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聖夜のさがしもの ~ わたしとボクとサンタの秘密 風風風虱 @271m667

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