第13話

 妹を見ると、口を開け、目を丸くして自分の方を見ていました。でも、すぐに自分ではなくその後ろを見ていることに気がつきました。

 男の子は慌てて振り返ります。


「えっ……じいさん?」


 女の子と一緒に助けた、そして、急にいなくなったあのおじいさんがそこにいました。

 もしかしたら、いなくなったのではなく、見えなくなっていたのか、と男の子は思いました。見えなくなっていたのに気づかず、ずっとおじいさんを連れて歩いていたのかと男の子は心の中で思いました。そして、なぜだか分かりませんが急に見えるようになったのです。

 「ありがとう」と、おじいさんは言いました。


「君たちのおかげですべてを思い出したよ」


 男の子は目をパチパチと閉じたり開いたりしました。おじいさんは確かにおじいさんなのですがなにか服が違っていました。目にも鮮やかな赤い服を着ていて、もじゃもじゃで汚れていたひげもふかふか真っ白で真綿のようでした。

 それはまさしくサンタクロースです。


「えっ、嘘。やっぱし、じいさんってサンタクロースだったの?」


 おじいさん、いえ、サンタクロースはおおらかにうなづきました。


「そうだ。サンタクロースじゃよ。

君たちのおかげで力を取り戻すことができた」

「ボクたちのおかげって、なにもしてないじゃないか」

「いや、いや。君たちは一緒になってわしが必要なものを分けてくれたろう」

「サンタクロースが必要なもの?

ますます、わからない。確かに一緒に探したけどなにも見つけられなかったじゃないか」

「見つけるもなにも、出会った時からずっと君たちから分けてもらっていたさ。

人を思いやる心を、ね」

「人を思いやる……心?」


 サンタクロースは男の子に優しく微笑みかけました。


「君にサンタの秘密を特別に教えてあげよう。

きっと、それが君がわしに聞きたかったことだと思う。

よいかね。サンタクロースの役目はね、世界中の人から、他の人を思いやる心を少しずつ集めておいて、クリスマスの日にその優しい気持ちを返すのが役目なのさ」

「そ、そうなの? 

でも、そんなことしてなんになるの?」


 サンタクロースは自分の胸に手を当てました。


「心がちょっぴり暖かくなる」

「えっ? それだけ?!」


 男の子は拍子抜けしたように叫びました。

 サンタクロースは愉快そうに笑いました。


「はっはっはっは、それだけだとも。

だけど、それだけで人は勇気が出るんだ。

頑張ろうって気持ちになったり、他の人を思いやったり、許してあげるゆとりが生まれるのさ。

それが大切なのだよ。

それが人の善意になる。

目に見えるプレゼントって形になって現れる場合もあるのじゃよ。

いやー、しかし、今年は色々あったからね。

なかなか人を思いやる心が集まらなくて、無理をしてしまったのじゃ。

おかげで途中ですっかり力を使い果たしてしまってね。このざまだよ。

君たちや、君のその優しい妹さんがいなければどうなっていたことか……

本当に助かった。ありがとう」


 サンタクロースはそう言いながら男の子と妹の頭を優しくでるのでした。


「さて、そろそろ仕事に戻らないとな」


 と! 


 どこからかシャン、シャン、シャンと鈴のが聞こえてきます。

 サンタクロースは窓のカーテンをすっと開けました。外はいつの間にか一面の雪景色です。


「あっ、雪だ!」


 妹が叫ぶと嬉しそうに手を叩きました。


 シャン シャン シャン シャン


 鈴の音はどんどん大きくなってやがてトナカイがひく大きなソリが現れました。サンタクロースは窓を越え、ソリに乗り込みます。


「もう、ヨウロプーキ様、しんぱいしてましたよ」


 ソリをあやっていた小柄な男が言いました。


「いや、すまんすまん。わしも色々あったのじゃよ」


 サンタクロースは男に謝ると男の子の方へと顔を向けました。


「明日、また私たちが出会った街角へ行ってみなさい。きっと良いことがある」


 サンタクロースが合図すると男がソリを走らせました。

 後には、微かな鈴の音と清らかな雪景色だけが残りました。

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