第2話 乱暴
煙草を買いに行こうと思って煙草屋までの一キロほどの道のりを幾度となく転倒しながらいっこうに片腕で歩くのに慣れない自分に飽き飽き。
ほんと、もういい加減慣れてくれって思う。
いやさぁ、俺だって頑張ってんだよ。頑張ってんだけどさ。
なんか、なんかさ。なんか、なんだよね。
意味わかんねーかもしれないけどさ。
俺も苦労してるって思っといてくれて結構だよ。
歩くのとか苦手になっちゃってマジ苦労。
走るのとか一番無理だし、自転車乗れないし。
バイクが趣味だったのに、それも怖くて無理になった。
あーあ、いいことなんもねーや。みんなは片腕になっちゃ駄目だよ。
右利きなのに左手生活強要されるし。うんちっすようんち。
そうやってドタバタジタバタしながらフッフと歩いていると……!
なんの驚きもありゃしないんだけれど、そういう「乱暴」を働く事件。
必死に絞り出したであろう「助けて」という声が聞こえた。
ほんとうに小さな声だった。けど、やたらとはっきり聞こえてきた。
膝のかすり傷とか気にならなくなった。
いやまぁ、痛いっちゃ痛いんだけれども。
気がつくと駆け出してた。
さっきまで歩くのだってやっとなのに走ってた。
いきなり自分の身体能力が向上したからマジでビックリだね。
そのうち腕とか生えてきそうな勢いだったから本当に驚き!
そして、それが見える。
「なんだコイツ!!」
「
「神崎ィ……!?」
着地して被害者の方を見る。あっ、男の子だ。女の子だと思った。
まぁいいか。そういうこともあるよなって思うし。
東京でもそんな感じのことが何度かあったし。
なんか大人しそうなやつってすぐに狙われるよね。かわいそう。
「貴様ー!」
「やるかい。喧嘩太鼓叩いちゃうぜ、やっちゃうぜ」
「死ね!」
銃弾。あっ、それは駄目だよ。ズルいズルい。
脇腹に弾丸を受けながら、近くにいた三下の頭を殴り抜いて、思い切りぶん回した。なんかさっきから俺の動きが常人の域を逸してますね。
もしかして、覚醒しちゃいましたかな。「最強」というやつに。
これじゃ俺、最強隻腕の超紳士だよー。
「なんで死なねぇんだ」
「俺がハンサムだからだろ」
「アェ!?」
「大抵のハンサムは死なない様に出来てる」
神崎一郎、昭和五十四年生まれ、二十一歳。
身長百八十。視力は両方二・〇。
ハンサムだから死相なし。
対するヤクザれんじゅう。
全員頭悪そうだから多分すぐ死ぬ。
可哀想だけどこれが現実ってやつ。格差なき世界はないよ。格差を受け入れて初めて対等になるんだ。でも無理だよ。俺、ハンサムだもん。
「殺してるかい、この俺を」
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