シンガ
蟹谷梅次
第1話 馬鹿
誇り高き
などというのは、幼い頃から聞き続けている。
耳にタコさんである。
高校を卒業して以来、
神崎一族というのが大した存在ではないのがわかる。
まず大学で知るやつなど一人もいない。
いろいろあって大学を中退したあと就職する為に地元に帰ってみたら、地元ですら神崎一族なんていうのはまるで知られていない。
ちなみに就職はできなかった。
高卒の隻腕なんて誰が雇いたがるんですか。
マジで大学生特有の上がりきったテンションのおかげで、その場のノリで腕ひとつぶっ飛ばしたので、誰のせいにすることもできない。
冷静に考えたらもっとやり方あったよ。
何があったのかと言うと……。
説明が面倒臭いから簡単に言うと、「お前、この女助けたかったら片腕落としてみろよ、ケヒヒヒ」「その程度でいいの? わかったよー」「助けてくれてありがとう、大好きチュー」「俺も大好きチュー」「じゃあ、浮気します」「マジ?」で、ただ俺の腕がなくなっただけ。ちろりーん。
やってらんねぇよ、俺ばかり苦しんで。
だとかなんとか考えながら、自室の窓をガン開きにして、煙草をぷくぷく吹き散らかす。なんか無い腕がずっと痛いんだよ。
見て、空に煙がのぼっていくよ。
俺もあれになりたいよ。ふわふわになって、螺旋を描いて。
そうして消えていくだけの煙になりたいよ。
んで、両親には何の説明もなく隻腕息子を見せた。
したら、母親は気を失ってぶっ倒れた。額を八針縫った。
親父に至っては馬鹿なあのうんちぶりぶりウーマンだとか俺に腕を落とすように命令してきた馬鹿なうんちぶりぶりマンだとかを相手取ってバトルをしようとしていた。
生き恥だからやめてくれって思ったね。
俺はこのままもうみんなの人生からフェードアウトしたい。
言っちゃえばそれこそたばこの煙みたいに。
ふわーっと。すわーっと。消えてしまいたい。だから裁判だとか大人同士のガチンコバトルとか辞めてほしい。恥ずかしいから。
馬鹿な女ひとり助けようとして腕一本無駄にしましたとか。
それはそれはおバカちゃんなんだろうなって思われる。
たぶん、裁判所とかのおっさん連中みんな苦笑いすると思う。
え!
頼むから、マジで頼んでんだから、もうほっといてほしい。
俺の心が治るまで放っておいてほしい。
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