第2話大禍時の出来事

その女、風凪カグラの風妖術を纏った剣技を、余は回避していく。


「" 風凪流四閃かざなぎりゅうよんせん 風鬼の翠"!」


風凪カグラは一撃一撃が重く、

周囲の木々を薙ぎ倒しながら向かってくる。

この実力、認めざるを得ない。

余の力が封印されていることを考慮しても、

この女は強い。


「やるじゃないか!これほど湧き上がる戦いは

久しぶりだ!もっと、もっとだ。

お前の力を見せてみろ!」


「私を甘く見るなよ。」


風凪カグラが力強く地面を蹴って

急接近してくる。

余の拳と女の刀がぶつかり合い

激しい火花を散らす。

互いの攻撃が衝突するたびに周囲一帯に

衝撃波が走る。女の風妖術が辺りに吹き荒れる。


「流石は大妖怪オロチ、力のほとんどを失ってなお、これほどの実力を有しているとは。ここで殺しておくべきだな。」


女は依然余裕がある様子だ。


「余を殺す、か。舐められたものだな。

そう簡単に殺せると思ってるのか?」


余は地を蹴って女に接近し、拳を振るう。

女は刀で受け止めたものの、衝撃を抑えきれずに後ろに吹き飛んでいった。


「ぐっ!」


「ははははは!どうした、もう終わりかぁ!?」


余は一切手を抜かずに追撃を試みる。だが、女は瞬時に体勢を整え直し、反撃の構えを見せた。


「はぁぁぁぁぁ!」


女の斬撃と余の打撃が再び衝突する。


(妖術攻撃の威力は相当なものだ。風妖術でこれほどの威力を出せるとは。これが現代の妖術師の実力か。)


ーーーーーーーーーー


現段階では、私の方がスピードもパワーも上だ。

私の力だけでなんとかできる今のうちに、

確実に勝負を決めたい。


私は風の幕を作り出し、

オロチの周囲に展開する。

オロチはその場から動けない。


「小賢しい技だ。この程度の小細工が通用するとでも?」


オロチは平然としている。

底知れない危うさが、この男にはある。


「いくぞ!」


私はオロチに急接近して

首を目掛けて刀を振るう。

しかしその一閃をオロチはたやすく回避して、

カウンターを決めてきた。

オロチの拳が深々と私の腹に突き刺さる。


「ぐはぁ!」


「これで終わりではないだろうな!」


オロチは片腕で私の腕を掴み、もう片方の腕で

連続で私の腹に拳を叩き込む。私は避けることはできず、その連打を受けるしかない。


「がっ!あう!あぁ!」


「死ね!女!」


私は攻撃が当たる寸前で振り解いて後退る。

流石は最強の大妖怪。

大幅な弱体化をしているとはいえ、私相手にここまでできるなんて。私は口の中に溜まった血を吐き出し、再び刀を構え直す。


「ほう、まだやるか。気の座った女だな。」


「そろそろ本気を出させてもらう!」


「はっ!先ほどまでは

全力ではなかったと言うか!

おもしろい!お前の力を見せてみろ!」


私は刀を鞘に戻し、妖力をためて居合の構えをとる。

この一撃で必ず決める…!


「さあ来い!風凪カグラぁ!」


オロチが接近してきたタイミングで、私は思い切り地を蹴って急接近し、素早く刀を引き抜く。


「" 風凪流二閃かぜなぎりゅうにせん 疾風斬り"!」


青い風を纏った刀身がオロチの脇腹を切り裂いた。


「ごはっ、く、ふふ…」


オロチは傷を抑えて後退する。


(手応えありだ。この勝負、私の勝ちだ!)


「ふははっ!やってくれたな女!いいだろう、

今回は余の負けでいい。だが覚悟しておけ。

余が力を取り戻した時、それはお前の最後の時だ!」


オロチがそう言うのと同時に、その姿が変化し地面に倒れた。そこに現れたのは、白い長髪で青い目の少年だった。


(どういうことだ。この男は妖怪なのか?)


何はともあれ危機は去った。ひとまず今日は安心だろう。私は全身の力が抜けて地面に座り込んでしまう。


「はぁぁ、よかった…」


私が刀をしまった瞬間、近くの草むらから黒猫の妖怪が現れた。


「あの、ナオトをどうする気ですか…?」


(ナオト、この少年のことだろうか。)


「保護するつもりだったが、君は?」


「私はマタタビです。ナオトは私の家族です。

お願いします、ナオトを連れて行かないでください。

私を一人にしないでください…」


その妖怪は涙目で震えていた。見たところ、このナオトという少年がオロチに乗っ取られた、といったところだろうか。


「すまないがそういうわけには行かない。

君たちが危険な目にあうかも知れないからな。

どうだろう、君も一緒に来ないか?

大丈夫、一人ぼっちにはさせないから。」


私がそう言うと、マタタビという妖怪は安心したような顔で言った。


「お願いします。」


そして私は二人を連れて拠点に戻る。


ーーーーーーーーーー


気持ちのいい朝の日差しが俺の顔を照らし、俺は目を覚ました。俺は見知らぬ部屋の畳の上に敷かれた布団の上で目を覚ました。隣には目の周りを真っ赤に腫らしたマタタビがいた。


(これどういう状況だ?確か、オロチとかいうのが体に入ってきて…)


俺が辺りを見渡すと、壁に寄りかかって眠る金髪の女性がいた。なんとも凛々しく美しい、魅力的な女性がそこにはいた。


(おいオロチ、何があったんだよ。)


(じきにわかる。)


(いや答えになってねえし…!)


俺が頭の中でオロチと会話をしていた時、その女性が目を覚ました。


「んあ?起きたのか、おはよう。」


「はい、おはようございます。」


寝起きの無防備な姿に思わずドキドキしてしまう。


「あの、あなたは?」


「私は風凪カグラだ。体に異変はないか?昨夜は大変だったからな。」


「あ、あの、何があったんですかね?」


「君がオロチに乗っ取られたところに私が駆けつけ、

オロチを退治した。そしたら君が現れたというわけだ。」


「はぁ、なるほど。その、ここはいったい?」


「ここは妖伐隊の三番隊の拠点だ。言うなれば私の屋敷だな。疲れているだろう?もう少し休むといい。」


「ありがとうございます…」


「朝食ができたら呼びにくる。それまではゆっくりしていてくれ。自由にくつろいでもらって構わないからな。」


カグラさんはそう言って部屋を出た。

妖伐隊だとか、オロチだとか、俺はわからないことが多すぎて頭が混乱していた。


(どうしてこうなっちゃったんだ。つい昨日まで姉さんに抱きつかれながら寝てたってのに。悪い夢か?)


俺は頬をつねってみたが、どうやら夢ではないらしい。夢であって欲しかったな。

俺がそんなことを考えていた時、隣で寝ていたマタタビが目を覚ました。


「ナオト…?大丈夫?」


「ああ、心配かけてごめんな。もう大丈夫だから。」


俺がそう言うとマタタビは抱きついてきて、目から涙が溢れ出した。


「よかった、よかったぁ…

ナオトまでいなくなっちゃうかもって、怖くて…」


「ごめんごめん、もう大丈夫だからな。

俺はずっと一緒にいるから…」


俺はしばらくの間、泣いているマタタビを抱きしめるのだった。


ーーーーーーーーーー


数分経って、カグラさんがまた部屋に来て、朝食ができたと呼びに来てくれた。どうやら俺たちは、かなり大きな屋敷にいたらしい。


「その、助けてくれてありがとうございます。」


「いいんだよ。妖怪を退治して人々を救う、それが私たちの仕事だからな。」


カグラさんは優しく微笑みながら言ってくれた。

俺たちは屋敷の中でも一際広い部屋に来て、朝食を食べることになった。そこには他にも多くの人がいて、妖伐隊という組織の規模の大きさを理解するには十分だった。


「ミコト、私とこの二人の分の朝食を用意してくれ。」


「了解です!」


カグラさんの要求を聞いて、ピンク色の浴衣を着た少女はご飯を出してくれた。


「大変なことがあった時は、たっくさんご飯を食べて

元気を出したくださいね!」


「ありがとうございます。」


「さあ、遠慮なく食べてくれ。ミコトの料理は格別だからな。」


「はい、いただきます。」


「いただきま〜す!」  


俺たちは食事を楽しみながらカグラさんの話を聞いた。


「この後、お前たち二人を将軍様のもとへ連れて行く、いいな?」


「将軍様!?なんでいきなり…」


「当然昨日の件についてだ。お前が宿す大妖怪オロチをどうするかの話をしたいらしい。」


「そうですか…

その、オロチって何者なんですか?」


俺は何気なく聞いてみた。


「オロチとは、かつてこの"ゼルファリア大陸"中を恐怖に陥れた厄災だ。その実力は圧倒的で並び立つ者はおらず、最強の大妖怪と呼ばれている。」


「そんなにヤバいやつだったんですね。」


「ああ。だが人々はオロチの存在をよしとしなかった。何者かがオロチの撃破し、その力を八つの"宝玉"に封印したんだ。だから今は、オロチは力のほとんどを失っている。」


「そういうことだったんですか。」


(つまり俺は、その八つの宝玉を集めてオロチに渡さないといけないのか。ていうか、そんなことしない方がいいに決まってるよな。)


(契約を破ればどうなるか、わかっているな小僧。)


(わかった!わかったって!やるから!)


油断も隙もない。


「あの、カグラさん。ナオトは大丈夫なんですか…?」


「安心してくれ。二人のことは、私が必ず守ってみせる。」


カグラさんはそう言ってくれた。頼もしいなぁ。


「カグラさん、なんでそこまでしてくれるんですか?

昨夜の時点で俺を殺した方が、妖伐隊としてはよかったんじゃ…」


「ああ、その通りだ。これはただの私の自己満足だよ。」


「自己満足?」


「私も妖怪のせいで人生を狂わされたんだ。だから二人には思うところがあってな。なんとかしてやりたいと思っただけだよ。」


「本当にありがとうございます。なんてお礼を言えばいいか…」


「いいんだよ。そうだな、妖伐隊に入ってくれたら十分だ。さあ、食べ終わったらすぐに向かうぞ。」


カグラさんがそう言うので、俺たちは急いで朝食を食べ終える。そして俺とマタタビはカグラさんと共にラン幕府の城に向かうのだった。



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最強の大妖怪に取り憑かれた俺が最強の妖術師に!? @popo4649

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